五つの曲と僕 第五話
全5話 / 第5話「冬晴れ」
📻 今日の一曲
🎵 My Way / Frank Sinatra
https://www.youtube.com/watch?v=6E2hYDIFDIU
🎵 この物語は「My Way」を聴きながら読んでください。
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十二月になった。
図書館へ向かう道に、銀杏の葉が積もっていた。
私は今日も、その道を歩いている。
コートの襟を立てながら、ふと思った。
この道を歩くのが、こんなに当たり前になったのは、いつからだろう。
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白髪の男が、戻ってきたのは十一月の終わりだった。
いつもより少し遅い時間に、彼はいつもの席に座っていた。
顔色が悪かった。
少し痩せたようにも見えた。
私はビデオブースへ向かいながら、自然と彼の席の方へ目をやった。
目が合った。
彼は、ゆっくりと頭を下げた。
私も、頭を下げた。
それだけだった。
でもその瞬間、胸の奥で何かがほぐれた。
よかった。
声には出なかった。でも確かに、そう思った。
名前も知らない。どんな人生を歩んできたかも知らない。
それでも、よかったと思った。
人というのは、不思議なものだ。
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退職してから、八ヶ月が経った。
最初の一ヶ月、私は自由だと思っていた。
二ヶ月目、私は居場所を失っていた。
三ヶ月目、押し入れのレコードを見つけた。
四ヶ月目、名前も知らない男のことを、一晩中考えた。
そして今、十二月。
何かが大きく変わったわけではない。
毎朝、目覚ましをかけずに起きる。
コーヒーをいれる。
週に三回、図書館へ行く。
それだけだ。
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図書館のビデオブースで、My Wayを聴いた。
フランク・シナトラの声は、老いていた。
しわがれて、重くなって、それでも堂々と歌っている。
And now, the end is near——
終わりが近づいている。
でも今の私には、これは終わりの歌には聞こえなかった。
退職して八ヶ月。
まだ、ふと会社のことを思い出す。
部下の笑顔。
よくしてもらっていた取引先の、豪快な社長の声。
思い出すと、きりがない。
不思議なことに、楽しかったことばかり浮かんでくる。
でも、もう終わったんだ。
そう思ったら、胸の中で、何かがすっと落ち着いた。
ヘッドフォンの中で、シナトラがまだ歌っていた。
悪い四十三年ではなかった。
それだけは、確かだった。
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曲が終わった。
ヘッドフォンを外して、ブースを出た。
白髪の男は、いつもの席で本を読んでいた。
私は軽く会釈をした。
彼も、顔を上げて、静かに頷いた。
それだけだった。
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図書館を出ると、恵子からLINEが来ていた。
「帰りにお豆腐買ってきて。」
私は少し笑った。
「わかった。」
図書館を出ると、空が青かった。
十二月の空は高く、冷たく、どこまでも澄んでいた。
Septemberの頃より、少しだけ空が遠い。
でも私は今日、確かに空を見上げた。
それだけで、なぜか、十分だった
また明後日、来よう。
そう思った。
ああ、今日もここに来た。
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【了】
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