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価格とは「欲」の総体

供給制約という言葉を聞くと、世の中からモノがなくなった状態を想像しがちである。

原材料が足りない。商品が作れない。働く人がいない。一般的には、そのような物理的な不足を供給制約と捉えることが多い。

しかし、実際の市場を見ていると、供給制約は本当にモノやヒトがなくなったときだけに起きるものではないと感じる。

重要なのは、欲しいという需要と、それを手に入れるために支払える価格や条件とのバランスである。

モノがあっても供給制約は起きる

例えば、倉庫や市場にモノが存在していたとしても、

「これから手に入らなくなるのではないか」

という空気が広がれば、買い手は早めに確保しようとする。

必要な量以上に注文したり、通常よりも多くの在庫を持とうとしたりする。売り手も、これから価格が上がると考えれば、今すぐ売る必要はないと判断するかもしれない。

すると、実際にはモノが存在しているにもかかわらず、市場に出回る量が減り、手に入りにくくなる。

「なくなるかもしれない」という予測が、人々の行動を変え、結果として本当に不足したような状態をつくり出すのである。

人手不足についても同じことが言える。

働ける人が社会から完全にいなくなったわけではない。企業が提示する賃金や労働条件では、人が集まらないという場合も多い。

条件を変えれば採用できるのであれば、人が存在しないのではなく、現在の条件では供給されないということである。

供給制約とは、単純な数量の不足ではない。価格や条件、将来への予測まで含めた関係の中で生じるものなのである。

供給過剰も同じ仕組みで起きる

反対に、供給過剰も同じような仕組みで起こる。

実際にモノの量が急激に増えたわけではなくても、

「これから価格が下がるのではないか」

「需要が弱くなるのではないか」

という見方が広がれば、買い手は購入を急がなくなる。

今買わなくても、もう少し待てば安くなるかもしれない。必要な分だけ買えばよく、余分な在庫を持つ必要はない。

そう考える人が増えると、それまで市場で動いていたモノが急に動かなくなる。

一方で売り手は、さらに価格が下がる前に売ってしまおうとする。在庫を減らすために価格を下げたり、販売を急いだりする。

売りたい人が増える一方で、買いたい人は減っていく。

その結果、物理的な供給量が大きく変わっていなくても、供給過剰の状態が生まれる。

不足すると思えば、実際に不足しやすくなる。余ると思えば、実際に余りやすくなる。

市場は、現実に存在するモノの量だけで動いているのではない。

価格は単純な需給では決まらない

為替にしても、金、いわゆるゴールドにしても、私が仕事で扱っているアルミにしても同じである。

もちろん、実際にどれだけ生産され、どれだけ消費されるのかという需給は重要である。

しかし、価格は単純な物量だけでは決まらない。

これから不足するのではないか。
さらに価格が上がるのではないか。
反対に、需要が減って価格が下がるのではないか。

今のうちに買っておきたい。
もう少し待ってから買いたい。
高くなる前に確保したい。
安くなる前に売ってしまいたい。

市場に参加する人たちは、それぞれの立場から将来を予測し、自分にとって少しでも有利になるように行動する。

その一人ひとりの判断が重なり合い、価格をつくっていく。

「欲」は利益を求める心だけではない

そう考えると、価格とは、市場に存在する人々の「欲」の総体が表れたものではないだろうか。

ここでいう欲は、強欲という否定的な意味だけではない。

利益を得たい。
損を避けたい。
事業を継続したい。
必要な原料を確保したい。
資産を守りたい。
生活を安定させたい。
他社に遅れたくない。
安心したい。
そして政治家の承認欲求。

こうした人間の自然な願いや不安も、すべて市場を動かす欲の一部である。

市場価格は、客観的で無機質な数字のように見える。

しかし、その数字の裏側には、多くの人の期待、不安、焦り、安心、楽観、悲観が存在している。

モノの量が変わらなくても、人の見方が変われば価格は変わる。

昨日まで十分にあると思われていたものが、将来への不安によって急に奪い合いになることもある。反対に、昨日まで価値があると思われていたものが、先行きへの不安から一斉に売られることもある。

価格とは、モノそのものの価値を正確に示した数字ではない。

その時点で市場に参加している人たちが、何を欲し、何を恐れ、将来をどのように見ているのか。

その総体が、一つの数字として表れたものなのである。

経済には、数字やデータによって説明できる部分がある。しかし、最後に売買を決めるのは人間である。

人は必ずしも合理的には行動しない。予測や思惑、期待や恐怖によって判断を変える。

数字で動いているように見えて、実際には人の心によって大きく動いている。

そこに、経済の難しさがあり、同時に面白さがあるのだと思う。

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