『誰かの何かにならなきゃダメですか?』美希の話❸
いつの間にか、沙織との約束の日になっていた。
この日は絶対に残業はしないと意気込んで朝から計画を立てて仕事したおかげか、奇跡的にトラブルなく定時退社することができた。
「今向かってるよーもう店の前にいる?」
『今着いたとこ!オレンジのワンピース着てるからすぐわかると思う!』
店の前近づくと、フレッシュなオレンジの色のワンピースを着た沙織が立っていた。
「久しぶり!相変わらず南国感強いなー。 蛍光色の服が好きなのは昔からだけど、日に焼けてますます… なんだろう南国感が増してる」
『っちょ、何その抽象的な表現、そりゃ毎週サーフィンしてるからね、私は合ってるんだよ沖縄が。』
久々に会ったとは思えないぐらいの会話から始まった二人は駅前の個室ビストロで創作イタリアンの料理を楽しんでいた。
「で、相談したいことって?」
『悠一にプロポーズされたんだけど』
悠一さんは沙織の彼氏だ。職場の同期で付き合って2年目らしい。沙織とは仲がいいけど、そこまで恋愛の話をお互い詮索しないのでそれくらいの情報しか美希は知らない。
「いいじゃんおめでたいじゃん」
『でも、悠一と話してて1つ引っかかることがあってさ』
「何?引っかかること?」
『そう、引っかかること』
話しによると、結婚するにあたって彼は沙織のキャリア設計に対して、あまりいい顔をしなかったらしい。
『不公平じゃない? 私、今の仕事好きだしさ、辞めるとか全然考えてなかったんだもん。子供好きだよ?でも、男性も育休取れる社会になってきてるとはいえさ、育休ってほんの一時期じゃん?子供のお世話は終わるわけじゃないから結局仕事に完全復帰できるのって私じゃない気がするんだよね。彼がどんどん昇進していく姿見たら私嫉妬しちゃうんんだよ絶対』
「うーん。自分のキャリアだって大切にしたいと思うのすごくわかるよ。今まで頑張ってやってきたことなんだし。でも、仕事ではかっこいいホテルコンシェルジュでしょ、結婚するとしたらさ悠一さんの奥さんになる。子供ができたらお母さんになる。そして沙織という一人の女性があるわけで自分の一面というか立ち位置?ていうのかな、それが広がるから全ての方向に全力は難しくない?」
『やっぱそうかぁー。やっぱ現実的だなー美希は。そう考えるのが普通だよね望み過ぎてんだろうなぁ私。』
「いや待って、諦めるしかないって私言ってないから。ただ無理してる沙織が見たくないから言っただけだから。」
『わかってるよ、美希の言葉が聞きたかっただけなの。納得できるかなって思ったから。』
「そんなんで諦める沙織じゃないくせに、」
『それもそうなんだけどね。』
沙織はいつもそうだ、どんな困難なことが起きても絶対に乗り越える。いろんなリスクを考えて尻込みしてしまう私と違って。今回も多分彼女はどんな形でさえ乗り越えてみせる。そう思うのは相談し終わった彼女の顔が妙に清々しいからだ。そんな沙織にいつもかっこいいなと尊敬すると同時に、自分に劣等感を感じて嫉妬しているのは彼女には内緒だ。
『で?美希はどうなの?もう諦めちゃったの、ツアーガイドになる夢。
私、楽しみにしてたんだけどな美希のツアーに参加するの』
「いや、それはもう、、、」
美希は突然の沙織からの質問に言葉を詰まらせた、
いつの間にか忘れていた彼女が目指していた夢の話だったから_________
