【元小学校教師の記録⑬】初めての就職活動
22歳の時、私は教員採用試験に合格した。
大学を卒業して、そのまま小学校教師になった。
だから、私はこれまで一度も就職活動をしたことがなかった。
履歴書を書くことも。
企業に応募することも。
面接で自分を売り込むことも。
すべてが初めてだった。
教員を辞めた後、私の中には一つの思いがあった。
「今度は、学校以外の場所で人と関わる仕事をしてみたい」
という思いだった。
もちろん、教師という仕事に不満があったわけではない。
むしろ、20年以上続けてきた大切な仕事だった。
子どもたちと向き合い、成長を見守る日々は、私にとってかけがえのない時間だった。
でも、人生の大きな転機を迎えた今だからこそ、違う世界にも挑戦してみたかった。
できれば、一度は一般企業で働いてみたい。
そんな気持ちがあった。
まずは、どのような仕事があるのかを知るために、いくつかの転職サイトに登録した。
幸い、夫の転勤先は比較的都会だった。
たくさんの企業が求人を出している。
「これだけ選択肢があるなら、きっと何か見つかる」
最初は、そんなふうに思っていた。
求人情報を眺めている中で、ある仕事に目が留まった。
研修講師の仕事だった。
企業で働く人に向けて、知識やスキルを伝える仕事。
社員の成長を支える仕事。
その仕事内容を見た時、私は思った。
「これは、私の経験を活かせるかもしれない」
教師として、私は20年以上、人に伝える仕事をしてきた。
子どもたちに分かりやすく伝える。
一人ひとりの理解度に合わせて関わる。
相手の変化を見ながら、方法を考える。
それは、研修講師にも通じる部分があるのではないかと思った。
私は、初めて企業へ応募した。
履歴書を書いた。
職務経歴書を書いた。
20年以上の教師経験を、どのように伝えればいいのか考えた。
「授業づくり」
「学級経営」
「子どもへの個別支援」
「研究活動」
今まで当たり前にしてきたことを、社会に伝わる言葉に変えていった。
そして、結果を待った。
数日後。
届いたメールを開いた。
そこには、不採用の知らせが書かれていた。
正直、落ち込んだ。
もちろん、企業にとって必要な人材かどうかを判断するのは当然のことだ。
頭では分かっていた。
でも、心のどこかでは思っていた。
「20年以上、人を育てる仕事をしてきた」
「大学院まで行って研究もしてきた」
「きっと、どこかで必要としてもらえる」
そう信じていた。
しかし、社会に出てみると現実は違った。
私が20年以上かけて積み重ねてきたもの。
子どもたちと向き合った時間。
悩みながら考え続けた授業づくり。
研究を続け、仲間と学び合った日々。
それらは、私にとって大切な財産だった。
けれど、企業の採用担当者から見ると、
「教員経験」
という一つの枠で見られていた。
その後も、求人を探し続けた。
塾からのオファーはたくさん届いた。
教師経験を評価してくれる場所だった。
でも、多くは夜遅くまで勤務する仕事だった。
休日に勤務することもある。
夫との生活を大切にするために選んだ新しい人生。
そこを犠牲にする働き方は、違うと思った。
企画営業の仕事にも興味を持った。
人と関わること。
相手の課題を考えること。
提案すること。
それらは、教師時代にも大切にしてきた力だった。
挑戦してみたいと思った。
応募した。
でも、またお断りのメールが届いた。
応募するたびに、履歴書を書く。
職務経歴書を書く。
そして、不採用通知を受け取る。
その繰り返しだった。
20年以上、私はずっと「先生」だった。
子どもたちに向き合い、
誰かの成長を支え、
必要とされる場所で働いてきた。
でも、転職活動の中では、
私はただの「未経験者」だった。
少しずつ、自信が揺らいでいった。
「私は、いったい何ができるのだろう」
初めて、そんな問いを自分自身に向けることになった。
20年間、子どもたちに可能性を伝えてきた私が、
今度は自分自身の可能性を探すことになった。
▶ 次回
【元小学校教師の記録⑭】
「初めての面接で気づいたこと」
