接骨院息子、白旗を上げる
中一の頃の話──
小高は接骨院の息子。
岩田が休み時間にすりむいたら、小高は手を組んでうなずきながら言う。
「お前ら知らんやろうけどな、血はこう押さえたら止まんねん。現場では常識や。」
岩田は「ほんまや!しみへん!」と目を輝かせる。
かやんがドッジボールで突き指した時も同じ。
小高「突き指はな、ちょっと引っ張ってやったら治る。これ、現場では当たり前」
クイッと指を動かすと、かやんは「イタッ!」と叫びつつも、
最後には「なんかマシなったわ。サンキュー小高」と感謝していた。
そんな調子やから、俺らにとって小高はもう“ブラックジャック”やった。
放課後になると、決まって武勇伝が始まる。
小高「昨日な、交通事故の患者がきてさ。骨がぐにゃ〜ってなっとったんやけど、俺が“カチッ”てはめてん。」
俺ら「うそやん!すげぇ!普通に治療してるんや!」
小高「まぁ、父ちゃん忙しい時だけな。」
小高「この前なんか、高校生がねんざで来てんけど、俺が逆にひねったら治って、次の日ダンクしてたわ。元々はダンクできひんかってんで。」
俺ら「潜在能力引き出してるやん!」
小高「先月は手術してん。俺しか手があいてるんおらんかったし。」
俺ら「マジか!手術までできんのか!すごい!えっ得意な治療とかあるん?」
小高「骨折。接着剤の理屈やし。くっつけばいいから、最悪お米でもなんとかなるんちゃうかな。」
俺ら「お米!?小高、そのうち国から呼ばれるやん!」
──そんなある日。
休み時間、たったんが転んで指を脱臼した。
「うわー!曲がってるやん!」
「小高!はよ来い!たったん見たってくれ!」
「頼むわ小高!現場やろここ!」
とうとうブラック・ジャックの力が目の前で見られる。
小高は一瞬、胸を張って前に出た。
けど、たったんの指を見た瞬間、顔が引きつって声が裏返った。
小高「いやいやいやいや!無理無理無理!これガチやん!俺のとこ来られても困る困る困る!」
かやん「なんやねん小高!治せるんちゃうんか!」
小高「アホアホアホ!!!めちゃめちゃ曲がってるやんけ!!怪我したからって俺のとこばっかりくんな!!!」
俺ら「お前、手術してるとか言ってたやろ!」
小高「してない!!言ってない!!一切言ってない!!妄想!虚言!!!俺に近づくなーーーー!気持ち悪いんじゃ、指曲がり野郎ーーー!!!」
全員「………ひどい事言ってる。」
小高は後ずさりしながら、頭を抱えて絶叫した。
「ほんまに怖い怖い怖い!!指曲がりすぎーー!!二度と俺の前に現れるなーー!!!このバケモノーー!!!」
次の瞬間、廊下に響くくらいの勢いで全力ダッシュして逃げていった。
途中、靴が脱げたけどすぐ拾って靴下のまま走って行った。
結局、たったんは保健室で先生に治してもらった。
帰り道、俺らは口々に言った。
「小高、ビビってるとはいえ……無茶苦茶言ってたな。」
「気持ちわるいんじゃ指曲がり野郎!二度と現れるなーーー!!やもんな。」
「ゾンビ扱いやん!」
俺らは顔を見合わせて爆笑した。
「ブラックジャックじゃなくて、ただのブラックジョークやったな。」
「からの ── ホワイトフラッグ!!!」
俺らの笑い声は、夕暮れの商店街にいつまでも響いていた。
