曽根くんのギターは、打楽器やった。
中1のころ。
一個上に、“長渕剛に憧れてる”曽根くんがいた。
いつも頭にはバンダナ。
肩からはギター。
その姿は、僕らから見たら完全に「大人」やった。
ある日の夕方、公園。
僕らは、曽根くんがベンチに座ってギターを抱えているのを見つけた。
「うわ……曽根くんや。もう長渕やん。」
憧れを抑えきれず、そっと近づいた。
すると曽根くんは、当たり前みたいに語り出した。
「お前らも長渕は好きなんか?
あの人はただの歌手ちゃう。世の中とタイマン張ってんねん。
ギターは楽器ちゃう。……武器や。
刀より重いし、銃より響くんや。」
僕らは聞き入った。
目の前にいるのは、本物のミュージシャンにしか見えなかった。
「……弾いてほしい!」
勇気を出してそう言った。
今日、この瞬間から僕らの世界が変わる。そんな予感すらしていた。
だが、曽根くんは口を開いた。
「お前らに聴かせてもわからんやろ。
長渕は……中学生レベルで理解できるもんちゃうねん。」
数日後。
夕暮れの公園から──
「ウォーウォーウォーウォーウォウォー……」
トンボが響いてきた。
「曽根くんや!」僕らは走って物陰に隠れた。
「うわ、ついにギター鳴らすんちゃう?」
「やっぱ音で世界変わるんや……!」
「…歌は微妙やな。」
「やめとけ!!」
胸が高鳴った。
ドンドンドン……!
ギターのボディを、必死に叩く音。
たまにジャラ〜ンと弦を鳴らして、またドンドン。
声は本気。
目をつぶって魂を込めてる。
でも歌は微妙、演奏はただの太鼓。
ドンドンドン……!
「舌を出してーー笑ってらぁー、ウォーウォーウォー!!!」
……。
僕らは顔を見合わせた。
「えっ?終わった?」
「….たぶん。」
「いや...…全然弾かへんやん!!」
声は全力やのに、ギターは最後まで太鼓。
僕らは思わず物陰から出て行った。
「曽根君、全然弾いてないやん!」
「武器どころか……ただの太鼓やん!」
「読書家ぶって本持ってるけど、読まずに、枕にしてるやつやん!」
「ラーメン頼んだのに、生卵だけ出てきた感じやわ、曽根君!!」
曽根くんはバツの悪そうな顔で、言ってきた。
「なにがやねん、リズムを鍛えてるだけやんけ。」
「いやいやいや、弾いてないやん。えっ、弾けるん?ほんまは弾かれへんのちゃうん?」
ーー3秒沈黙の後
「お前らに見せるレベルちゃうねん!!!」
と絶叫し、バンダナを地面に叩きつけ、砂煙を上げながら振り返りもせず駆け出した。
僕らがあっけに取られていると、かやんがボソっと言った。
「えっ、どっちの意味???」
「俺らのレベルが低いって意味?それとも練習不足って意味?」
僕らは200mほど先を走る背中に向かって叫んだ。
「曽根君ーーー!!どっちの意味ーーー???」
僕らの結論は、
“憧れの存在から、太鼓に言い訳する男”の伝説やった。
……けど、今もどこかで、1%だけは信じている。
曽根くんの音は、まだ届いてないだけなんちゃうかって。
