#80 触るほどに、失われていくもの
「私が触るほど、お菓子は不味くなります」
奈良の和菓子職人の方に、目の前で4品を作ってもらう2時間のコースを予約した。
「伝統の味などありません」
「和菓子の味は砂糖だけです」
「工程は、浸水→加熱→成形のみです」
材料と道具があれば、和菓子は誰でも作れるという。
美味しいと喜ばれても、刺身がうまいと言われているのと同じ。
要は、素材の味をどれだけ活かせるかだと。
そういえば、料理教室で刺身の切り方を習ったとき、
魚の身を触りすぎだと怒られた。
「触るほどに穢れる」
結局、同じことを言っているのだと思った。
触るほどに、失われる。
さらに、今自分たちが和菓子を作れているのは、
先代たちが農家や道具職人をつないできたからだという。
自分たちは逃げ切れる。
それでも、残るとは限らない。
だが、次の世代に残せるかどうかは、
自分たちがその価値や彼らの生活を守れるほど、
和菓子を広められるかにかかっているという。
現代的な話だが、写真の撮り方も教わった。
上から電気で照らした和菓子と、
窓から入る自然光で見た和菓子。
それはまるで別物だった。
電気の光では、ただの丸い球体に見える。
横からの自然光では、陰影が立ち上がり、神秘性をまとう。
自然光で照らされた和菓子は
まるで陰陽を表す勾玉のように見えた。
