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【ショートショート】大正艶奇譚。鬼女は今夜も眠らない / 創作大賞2026 / 創作 / 短編小説 / 3分読書

大正の世も半ばを過ぎたころ。
浅草の界隈では、ある女の噂が絶えなかった。

夜な夜な現れる、恐ろしい女がいる。
その女に目をつけられたが最後、有り金を
巻き上げられ、全てを失ってしまう。

顔は美しいが、のように容赦なく、眠ること
なく夜の街を徘徊するという。

人々はその女を、「鬼女」と呼んだ。____

女の名は、お艶

白粉を厚く塗った、ぞっとするほどの美貌の
持ち主だった。

お艶の手口はこうだ。まず羽振りのよさそうな
男を見つける。近づいて、こう囁く。

あなたには、恐ろしい祟りがついていますよ

信じ込んだ男から「除霊の御布施」として金を
巻き上げる。大正の世はまだ迷信深い。

そして、お艶の美貌と醸し出す妖麗な雰囲気が
一層、男達を惑わせるのであった。
この手口でお艶は毎日、日銭を稼いでいた___

ある春の昼下がり。浅草寺の境内は花見客で
溢れかえっていた。

お艶が次の獲物を物色していたとき、ふいに
人波に押されてよろけた。
そこを、とっさに支えたのがひとりの男だった。

「大丈夫でございますか」

羽織袴姿。背筋はすっと伸び、いかにも旧家の
育ちといった風格がある。お艶の目が光った。

「ありがとう存じます」
にっこり微笑む。

獲物が、自分から飛び込んできたのだ。

男の名は、堂島源之助

かつては由緒ある武家の出だが、今や家財は
底をつき、質屋通いが日課という、絵に描いた
ような没落貴族である。

しかし本人にその自覚は一切なく、どこへ
行っても泰然自若。
天性の、救いようのない鈍さとも言えた____


数日後。お艶は偶然を装い、源之助の前に
現れた。

「堂島さま。折り入ってお話が」
「ほう」
「実は……あなたの背後に、恐ろしいものが
見えるのです」
「ほう」
「祟りでございます。このままではご家族にも
災いが……」
「ほう」
源之助は眉ひとつ動かさない。

「・・怖くはございませんか?」

「いやあ」と源之助はのんきに言った。
「うちはもう、祟られるような財産もございま
せんので」

「……は?」

「先月、最後の屏風を売りまして。今や家にあるのは古畳と、猫が一匹でございます」

・・お艶は笑顔のまま、固まった。
(嘘おっしゃいな。今にみておれ・・)

気を取り直したお艶は、翌週また現れた。

今度は趣向を変え、源之助の「前世」を語り
始めた。金を払えば前世の因縁を断ち切れる、
という算段だ。

「あなたの前世は、高貴な武将でございます」
「ほう」
「その武将が持っていた財宝が、今もどこかの
蔵に眠っているはずです」
「ああ。蔵ですか」と源之助は首を傾げた。

「蔵は十年前に売りました」

「…………」

「今は隣の呉服屋の物置になっておりますが、
財宝が出てきたら隣の旦那の物になってしまい
ますな。ははは」

お艶の頬が、ぴくりと動いた。
(こいつ、中々やるやん・・)____

さらに翌週。お艶は最後の手を打った。

夜。人気のない路地で源之助の前に立ちはだ
かり、かなーり怪しげな呪文を唱え始めた。

狐憑きを演じ、「金を出さねば呪う」と迫る
作戦だ。

「かあーーーーーーーっ!」

お艶は目を見開き、髪を振り乱した。



「おお」と源之助は感心したように言った。
「お艶さん、お見事ですな」
「……え?」
「うちの猫も、腹が減るとそういう顔をします。実に愛嬌がある」
「猫……」
「ところで、お艶さん」源之助は穏やかに
続けた。
「あなた、最近よく眠れておいでですか。
目の下に隈が」

お艶は、何も言えなかった。
それどころか、なぜか目に涙が滲んできた。
三週間。
眠らずに知恵を絞り、あの手この手で仕掛けた
のに・・・一文も取れなかった。

これほど自分を翻弄した男は生まれて初めて
だった。
怒りか、悔しさか、それとも別の何かか。
お艶自身にも、よくわからなかった。 

「……あなたという人は」
「はあ」
「まったく、どうしようもない人ですねえ」
「よく言われます」
源之助は、いつものように穏やかに笑った___


____それから半年後。

浅草の小さな長屋にひとつの所帯が生まれた。
堂島源之助、三十二歳。お艶、二十八歳。
人々は首を傾げた。あの鬼女が、まさか所帯を
持つとは。

しかし、当然のごとく、暮らしは楽では
なかった。

源之助は相変わらずの天然で、商いをやらせれ
ば値切られ、内職をやらせれば間違え、たまに
臨時収入が入ったと思えば、猫の世話や貧しい人々に飯を振る舞い、全部使っていた。

あなたという人はーーっ!!」

今日も、お艶の怒鳴り声が長屋中に響く。
「はあ、これはどうも」
源之助は相変わらず泰然自若である。

___鬼女は、内職に追われ毎日眠れなかった。
隣では源之助が、猫と一緒にすやすやと眠って
いる。

「・・まったく。あなたという人は。」
不意に、笑みが浮かぶ・・

これが、
俗に言う「鬼嫁」誕生の時代背景である。


おーこわ。

おわり。






創作大賞2026に応募する事を決めました\(//∇//)\
この作品は、【練習用】として、書きました。
・・が、まだ余韻が心地いいです\(//∇//)\✨
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名前:キヲ(KIWO)
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