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【ショートショート】天使はBARにいる。第1話〜呑め。さもなくば去れ。〜/短編小説/3分読書/ほろ酔い文学


扉を開けた瞬間、俺は後悔した。

 薄暗い店内。棚に並ぶウイスキーボトルの列。そして頭蓋骨を模したランタンが、紫がかった
光で何かを嗤っている。

場違いだ、と踵を返そうとした俺の背中に、
声が刺さった。

「逃げんの? せっかく辿り着いたのに」

振り返ると、バーカウンターに身体を預けた
女が、鋭く美しい眼差しでこちらを見ていた。
黒髪が乱れ、背中には翼のタトゥー。
何も羽織っていない。冗談か何かか?

天使、というには随分と剣呑な顔をしていた。

「・・営業中ですか」

「死人以外は歓迎してる。あんたはまだ死んで ないでしょ」

俺は曖昧に笑って、カウンターの椅子に座った。

「ウイスキーを」

「どうせ今夜、何杯飲んでも酔えないくち
じゃない?」

図星だった。彼女はグラスにウイスキーを注ぎ
ながら、何も訊かなかった。それが妙に、
ありがたかった。

 一口飲む。喉が甘く焼ける。それだけだ。

「・・上司に、三年かけた企画を潰されました」

「それで?」

「それだけです」

「ふうん」

彼女は自分のグラスを傾けた。

「天国も地獄も、そういう話で満員御礼よ。
順番待ちのくせにやけに皆プライド持ってくる」

「天国と地獄、両方知ってるんですか」

「出禁になったから。両方」

「ぷっ…!」俺は思わず笑った。
せっかく沁みた酒を吹いてしまいそうなほど。

「笑えるじゃない」と彼女は言った。責めるでもなく、褒めるでもなく、ただ事実として。


「潰された企画、面白かったの?」

「・・俺は、そう思ってました」

「じゃあそれでいい」

短すぎる答えだった。俺は続きを待ったが、
彼女はもうグラスを磨いていた。


「それだけ、ですか」

「あんた、天使に何を期待してるの?
奇跡? 救済?」

彼女は鼻で笑った。

「うちのメニューにないわよ。そんなもの」

グラスが空いた。彼女は黙って二杯目を注いだ。

「帰ったら、また書きなさい」

「誰も読まなくても?」

「私が今、聞いたでしょ」

それだけ言って、彼女は背を向けた。

刺青の翼が、ランタンの光の中で微かに揺れた
気がした。

俺は勢いよくグラスを煽った。
火がついたように胸が熱くなった。


「ありがとう。おかげで心が少し熱いです」

「ただの胸焼けでしょ」

「ああ、ええ。多分」


三杯目は頼まなかった。
店を出ると、街はまだ眠っていないようだ。

振り返ったが、店の場所が、もうわからな
かった。きっと酔えたのだろう。

「呑め。さもなくば去れ。」 ____か・・


彼女は、恐らく全てを知っているんだ。

____それだけだった。




おわり。





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名前:キヲ(KIWO)

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