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【怖い話】配信(ショートショート)

車が雨に濡れた山道を、ぎしぎし音を立てて進んでいく。
彼らの目的地は、廃墟と化した旅館「湖月荘」。昭和末期、宿泊者全員が焼死したとされる火災事故の現場だ。
当時の資料では、死体はどれも不自然にひしゃげ、焼けただれて判別不能だったという。警察は原因不明のガス爆発と断定したが、地元では「”何か”がいた」と囁かれ続けている。

そんな曰くつきの場所に、YouTuberの亮は視聴数稼ぎのためカメラを携えてやってきた。同行者は編集担当のユウジ。ふたりで「最恐廃墟シリーズ」と称し、過激な場所に足を踏み入れてきたが、今回は空気が違った。

車を降りると、ぬかるんだ地面から異臭が立ち込めた。焦げた脂のような、生臭い匂い。
旅館の入り口は錆びついた鎖で封鎖されていたが、切断された形跡があった。

「……誰か、先に入ってるな」
ユウジがつぶやいた。亮はニヤリと笑う。
「おあつらえ向きだろ。怖さ倍増ってやつ」

カメラを回しながら、旅館内へと足を踏み入れる。
廊下は湿気とカビで腐っていた。踏み込むたび、足元から奇妙なぐしゃりという音がする。
壁にかかった古びた絵画の目が、濡れているように見えた。

進むごとに空気が変わっていく。重く、息が詰まり、頭の奥が締めつけられる。
ふと、ユウジが立ち止まり、天井を指差した。

「見ろよ、あれ」

天井に、黒く焦げたようなシミが広がっていた。そこからコードの束が垂れ下がっている。
それがゆっくりと揺れていた。

「風、ないよな……?」

亮は無言でカメラを向けるが、レンズが曇って映らない。拭ってもすぐに曇る。
気づけば周囲の壁という壁に、焼け爛れた手形が浮かび上がっていた。全て内側から。

「ここ、本当にやばい。帰ろう、亮」

だが亮は応じなかった。目がどこか虚ろで、唇が小さく動いていた。

「……まだ、足りない……303に行かなきゃ……」

――303号室。あの火災で最初に発火源となったとされる部屋。

階段を上がると、旅館全体が異様に静まりかえっていた。
303号室の前に立つと、扉には黒ずんだ手形が幾重にも重なり、まるで焼け爛れた皮膚のようになっていた。

亮がドアノブに触れると、カチャリと音を立てて開いた。
中は真っ暗だったが、何かがこちらを見ている気配がある。

ユウジが止めようと腕を掴むが、亮は異常な力で彼を振りほどく。
「見ろよ、ユウジ……こんなに綺麗に焼け残ってる……!」

部屋の中に敷かれた布団。畳。すべてが新品のように整えられている――畳には無数の毛細血管のような筋が浮かび、布団の中には何かが蠢いている。

「最高の配信になるぞ……」

そう言って亮がカメラを床に向けると、その布団の下から、人間の顔の半分が見えた。

片目は溶け、口は開いたまま焼け焦げていたが、ユウジは直感的にそれが亮自身の顔であると理解した。

「亮、逃げるぞ!!」

部屋中が呻き声を発し、畳から何本もの焦げた腕が突き出される。天井からは髪が垂れ下がり、扉が勝手に閉じる。ユウジは必死に亮を引きずり出そうとしたが、亮の体は徐々に炭のように崩れ始めていた。

「もう、戻れないよ……俺、ここにいるんだ」
そう呟く亮の首から皮膚が剥がれ、筋肉が露出し、笑いながら崩れていった。


数日後、YouTubeに謎のライブ配信が始まった。
タイトルは――【最恐】廃墟旅館に一人で泊まってみた【LIVE】

映像には、黒く焼け焦げた部屋の中で立つ、亮の背中が映っていた。
その体は焦げつき、皮膚は剥がれ、頭部の半分が崩れている。それでも彼はカメラに向かってブツブツと喋っている。

「これが見たかったんだろ……」

視聴者数は秒を追うごとに増え続けていた


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