通訳者って機械なのかしら。。と今さら自問させられた話
3月上旬の数日間、出張で対面の逐次通択をしてきました。
守秘義務の関係で、逐次通訳した場所や業界、品目の特定につながる情報は書けないのですが、日本の業界団体が、ある商品の製造工程の専門家1名を海外から講師として招聘して、実際の製造現場での技術指導(午前)のあと、参加者を増やして教室形式でのセミナー(午後)、というプログラムを、毎日場所を変えて3回、繰り返しました。
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講師は流暢な英語を話されるのですが、しかし英語が母国語ではないからか、講師がご真意を正しく反映するつもりで使われた表現が、主流ネイティヴ英語におけるその表現の意味からはズレてしまう、という現象が、今回はやや目立ちました。
典型的には、講師のご真意が「つぶつぶした、キメが粗い」という形容であるときに、本来使うべき「grainy」という形容詞ではなく「crumbly(もろい、砕けやすい)」を使ってしまう場面が初日から繰り返され、僕自身も3回目くらいで「ああ、これはgrainyの意味でcrumblyを使っているんだな」と気付きました。
そこで、「いまおっしゃったcrumblyは、たぶんgrainyのおつもりですよね」と僕から講師に確認すると、「おお、そうだね! 次からgrainyに変えるよ」と反応され、その日の残りの時間は、実際そうしてくれました。
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しかし翌日(前日とは別の製造現場へ移動しての通訳)になると、明らかに前日と同じ文脈で、「つぶつぶした、キメが粗い」を意図して「crumbly」を講師が誤用される状況が、復活してしまいました。
そのため仕方なく、講師にくどくどと再度確認する時間は節約して、「crumbly」の本来の意味には無い「つぶつぶした、キメが粗い」という訳を2日目、3日目と使い続けて、3日間のお仕事が終わりました。
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この「話者の真意を反映するための意訳」は、前記のとおり、あらかじめ講師に真意を確認したうえでおこなったものであり、実際、そのような意訳をしたほうが講師の説明が合理的で自然な日本語になりますので、各製造現場スタッフ各位を含む参加者各位の理解度・満足度の向上にも貢献したと思われます。
しかし、3日目のイベント終了時に、その日のセミナーの参加者様の中のおひとりが、わざわざ僕のところへ来られて「crumblyの訳が違うんじゃないか」というご指摘をされたので、僕から前記の事実経緯を説明しました。
すると、「いや、通訳の仕事は、話者の発言をできるだけ機械的に・忠実にターゲット言語に移し替えることだけのはず。今回は実際に講師に真意を確認済みなのは分かったが、だからと言ってそんな意訳をすることは、通訳という立場をわきまえない行為だ」という趣旨のご主張をされました。
話者に真意をしっかり確認したうえでおこなった「話者の真意を反映するための意訳」に対し、聴衆のかたからそこまで強い口調で介入されたのは初めてのことで、通訳として当惑しましたが、その場は「貴重なご指摘、ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます」と言って穏便に収めました。
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このやりとりは、イベント主催者(僕に通訳を依頼した業界団体の人達)も横で聴いていたのですが、彼らの見解は「今回の通訳としての判断・対応が正しい。大切なのは講師の真意がスムーズに参加者に伝わることであって、英語ネイティブでさえない講師が発した言葉ひとつひとつの直訳にこだわることにはあまり意味がない」というものでした(立場A)。
その一方、聴衆として通訳を聴いておられる方々の中には、「仮に、話者が自身の真意と異なる単語や表現を誤って使い続けたとしても、通訳者は翻訳ソフトと同様に、話者の発言を機械的に直訳していれば良い」(立場B)と思う方もおられることを、今回の予期せぬ介入により再認識させられました。
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人間の通訳者が機械(もとい、AI)に勝てる数少ない要素のひとつが、まさに今回、講師の真意を確認したうえでおこなったような「意訳による真意のスムーズな伝達」だと考えられますから、僕自身も基本的には立場Aを取るしかありません。
ただ、たとえば逐次通訳ではなく同時通訳の現場では、今回のように「その場で話者への真意確認をしたうえで、その確認結果に応じた意訳をする」ことは不可能な場合がほとんどです。
また、逐次通訳の場合でも、個々の会議の背景、議題、状況などを総合的にみたとき、立場Aより立場Bに基づく対応が賢明なこともあるのかもしれません。
たとえば、わずかな意訳さえも躊躇されるような、高度にセンシティヴな、または高度に技術的な議題が、それに該当するのかもしれません。
今後、上記で想像したような特殊?な現場に遭遇した場合は、一時的に立場Bに軸足を移すこともあるのかもしれません。
しかし基本的姿勢としては、通訳者としての価値観を根本から覆される事態に遭遇しないかぎり、立場Aでの「はかない抵抗」を続けていこうと思っています。
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長い記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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