海の資源を減らさずに。水産の現場から藻類へたどり着いた研究者、佐藤さんのいま
アルガルバイオには、微細藻類(顕微鏡でしか見えない、小さな藻類の仲間)と日々向き合う研究者が数多く在籍しています。同社は、藻類事業を生み出すためのプラットフォーム「Algae Foundry™」を基盤に、藻類株の開発から、培養製法の確立、大型設備を使ったスケールアップ、そして商業生産までを一貫して手がけています。
今回お話を聞いた佐藤さんは、このうちスケールアップの段階で、大型設備を使ったスケールアップに取り組む研究者です。舞台は、同社の製造技術開発拠点「横浜製造技術センター(YOKOHAMA MANUFACTURING TECHNOLOGY CENTER)」。これまでの歩みと、いま見ている景色を聞きました。
佐藤さんは、子どものころから魚が好きだったそうです。そして大学では水産の分野で学び、社会人としてもこの水産領域で働いた経験を経て、いまの微細藻類の仕事にたどり着きました。その道のりには、海の資源に対する確かな課題意識がありました。
近畿大学のクロマグロ完全養殖にあこがれ、水産の道へ
佐藤さんの出発点は、藻類ではなく魚でした。大阪で育ち、家族での海釣りに親しんだ子ども時代。中高生の頃、近畿大学によるクロマグロの完全養殖が大きな話題になり、水産の道に進みたいという想いがふくらんでいきます。そして、進学先も、水産を学べる近畿大学を選びました。
大学では、魚のエサに関する研究に取り組み、養殖業者とともに現場で体を動かしながら学びました。学ぶ分野やキャリアの選び方には、いまにつながる一つの価値観があります。それは、何かひとつに決め打ちするのではなく、「海」や「魚」につながっていられる領域を、柔軟に選んできたことです。
「これでなければいけない、と決めすぎると動きにくくなる。海や魚、水につながる場所に身を置いていたい。そのくらいの感覚で、進む道を選んできました」
「魚を育てるほど、海の資源が減っていく」。水産の現場で感じた構造的な限界
研究を続けるなかで、佐藤さんはある構造に気づきます。魚を養殖して増やそうとしても、魚はほかの魚を食べるため、エサとなる魚をまた海から獲ることになる。魚を育てるほどに、海全体の資源はむしろ減っていく。
そんな矛盾ある構造に気づいたのでした。
「魚の資源はどんどん減っている。養殖で増やそうとしても、結局そのエサのために、また魚を獲ってくることになる」
「人が活動するほど資源は減り、環境も少しずつ損なわれていく。そうした構造に自ら携わりながら水産資源を消費していくことに、難しさを感じていました」
その後、佐藤さんは海藻を扱う食品メーカーへと転じます。わかめや昆布、もずくといった素材に向き合い、大学との共同研究など研究寄りの経験も重ねました。「海につながる仕事だから」と前向きに選んだ道の先で、藻類という存在に少しずつ近づいていきます。
そして、微細藻類の事業に挑む東大発スタートアップ、アルガルバイオへ。魚から海藻へ、そして海藻から微細藻類へ。関心の隣へ、隣へと歩みを重ねてきた道が、ここでひとつにつながります。
「少しずつ違う分野に踏み込むことで、視野が広がって、ものの見方も豊かになるのではないか。そんな期待を持って入社しました」
柏で見出した有望な微細藻類を、横浜で「商業規模」に育てる
いま佐藤さんが働くのは、横浜の製造技術開発の拠点。研究所(柏の葉)で選び抜かれた有望な微細藻類を、商業生産できる規模まで育てる場所です。水産飼料や食品素材として社会に届けるための、量産化の土台をつくっています。柏と横浜、それぞれの役割の違いを、佐藤さんはこう説明します。
「柏は、藻類がどんな温度を好み、どんな栄養で育ち、どれくらいの光を必要とするか、基礎的な性質を明らかにする場所。こちらは、その条件を大きな設備でも再現できるように調整し、どれだけ増えるか、健やかに育つかを見ていきます」

スケールアップとは、小さな容器で確かめた育て方を、大きな設備でも通用できる形につくり替えていく作業です。
研究室の小さな容器で見定めた育て方を、そのまま大きな設備に持ち込んでも、残念ながら同じようには育ちません。研究室は温度も光も安定して整えられますが、大きな設備では、空調や光に加えて、季節や設備の状態によっても条件は変わります。
理想と現実のあいだには、いつもギャップがあります。研究室で確かめた通りにはいかない。それでも、できるかぎり社会実装に近づけていく。それがこの現場の仕事です。
「初めての微細藻類は、わからないことだらけ」。手探りの大量培養。
大きな設備での大量培養の毎日は、想像よりもずっと泥くさいものです。ポンプや配電盤、培養液の循環といった設備まわりの対応に追われます。研究職でありながら、実際には大きな装置を扱う時間が長いのも、この現場の特徴です。そして、微細藻類の種類が変われば、うまくいく条件も変わります。
佐藤さんの仕事において、どこが一番むずかしいですか?そう尋ねると、佐藤さんは笑ってこう答えました。
「一番むずかしいところ、ではなくて、全部むずかしいです(笑)」
「研究室では起きなかったことが、大きな設備では起こりえます。ポンプの力が強すぎて細胞が壊れたり、逆に流れが弱いと沈んでしまったり。」
はじめて扱う微細藻類は、正解が誰にもわかりません。
「初めましての藻類は、本当にわからないところからのスタートなので、まずはおだやかな条件で試してみよう、と。手探りで進めています」
手がかりは、数値と自分の目です。微細藻類の細胞が増えた量を示すデータに加えて、顕微鏡で細胞をのぞき、タンクの色や濁りを肉眼で確かめる目検を重ねていく。そうやって、佐藤さんは日々、微細藻類と向き合っています。機器を扱うことも、微細藻類を大きく育てることも、入社してから初めての経験でした。わからないところから一つずつ調べ、試してはやり直す。その積み重ねが、いまの現場を支えています。
地道に続けていたら、「原点」に巡り戻った
アルガルバイオが取り組む事業領域は、食品素材から環境ソリューションまで幅広くあります。佐藤さんも入社以来、さまざまな領域での事業化に向けた大量培養技術の開発を経験してきました。そのなかであらたに動き出したのが、稚魚や稚貝の成育に欠かせない、栄養豊富な微細藻類由来の水産飼料づくりです。佐藤さんが育てた微細藻類が、いまこの水産の根幹を支える稚魚・稚貝のエサへとつながり始めています。
もともと水産の世界にいた佐藤さんにとって、それは「原点」に立ち返るような出来事でした。自分から水産に戻ったのではなく、地道に続けてきた仕事の先に、水産という「原点」があったのです。
「もともと水産の研究からキャリアがスタートしたので、自分の「原点」を感じました。地道に目の前の仕事を続けていたら、聞き覚えのある世界が向こうからやってきた。そんな感覚でした。」
研究のための研究ではなく、育てた微細藻類がそのまま社会の現場へ届いていく。研究と事業が地続きであることを、佐藤さんは手ごたえとして感じ始めています。

「挑戦したい人が挑戦するのを、止める理由はない」
横浜の拠点での働き方について聞くと、佐藤さんは「案外、自由にやらせてもらっている」と言います。
「『あとは頼むね』と任せてもらえる。それは信頼の証だと思っていて、かなり自由に動かせてもらっています」
「どうせやるなら、楽しくやりたい。怒りながらやっても、笑いながらやっても、向き合う仕事は同じですから」
もうひとつ、佐藤さんが率直に語ってくれたことがあります。いまは自分らしく自由に働けている。ただ、そこにたどり着くまでの道のりは、平坦ではありませんでした。
水産養殖の現場は男性が多く、かつては「女性は、そんなに稼がなくていい」といった見方に触れたこともあったといいます。本人がどう働きたいかとは関係なく、周囲が佐藤さんの働き方を勝手に決めつけてしまう。そんな空気がありました。
さらに、転職と妊娠の時期が重なったことで、安全への配慮から、それまでの研究の現場をいったん離れざるをえない時期もありました。それでも研究を続けたい想いは強く、「復帰したら、また必ず研究をやろう」と心に決めていたそうです。
だからこそ、働き方について、佐藤さんの考えははっきりしています。
「まわりと相談しながらですが、最後に決めるのは自分と家族。そう思っています」
それは、まわりにも同じ働き方を求めるということではありません。どれくらい働くかは、人それぞれでいい。大事なのは、それを自分で選べることです。
「自分が経験した大変さを、次に続く人にそのまま渡したくない。経験した人がきちんと言葉にしていくことが、経験した者の責任だと思っています」

これから、「藻類を、社会に根づかせるところまで。」
最後に、これから挑戦したいことを聞きました。佐藤さんが見据えるのは、微細藻類が実験室の外へ出て、産業として社会に根づいていく景色です。そういった企業は、まだ多くありません。アルガルバイオがそこにたどり着くまでにも、越えるべきことがいくつも残っています。
「やるべきことはたくさんあると思います。社会実装へ向け挑戦の機会があるなら、率先して手を挙げたいです」
研究を基盤にしながら、育てた微細藻類を事業へ、社会へと届けていく。アルガルバイオは、研究と事業の両方を推進する東大発スタートアップとして、その道を歩んでいます。微細藻類の可能性に、そして多様な働き方に関心を持った方は、ぜひ会社のことをのぞいてみてください。


【プロフィール】佐藤 晴賀(さとう はるか)
製造開発グループ 大量培養チーム 兼 設備開発事業グループ
2018年に近畿大学大学院農学研究科(水産学専攻)修了後、食品メーカーにて大型藻類の有効成分分析や陸上養殖システム開発に従事。2023年に株式会社アルガルバイオへ入社。横浜製造技術センターの設備導入に携わった後、2024年8月より同大量培養チームに所属。現在は光バイオリアクター(PBR)を用いた微細藻類の大量培養試験を担当している。
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▶ アルガルバイオ コーポレートサイト:https://algalbio.co.jp/
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