百点満点の健康生活をやめました。
ー八十二歳の合格点ー
若い頃の私は、健康に関する本をたくさん読みました。
薬剤師という仕事柄もあり、栄養や病気の予防について学ぶことが大好きでした。
分子栄養学にも興味を持ちました。
ナチュラルハイジーンの考え方にも惹かれました。
塩分を控えること、野菜や果物をしっかり食べること、適度な運動を続けること。
どれも大切なことです。
ところが八十歳を過ぎた頃から、少し考え方が変わってきました。
ある日、息子夫婦がお寿司を買って来てくれました。
「今日は一緒に食べよう。」
そう言われて食卓を囲みました。
私はうれしくなりました。
久しぶりに家族で囲む食卓です。
ところが心のどこかで、
「ご飯が多いかな。」
「塩分はどうかな。」
などと考えている自分がいました。
その時、ふと思ったのです。
今、この時間は二度と戻ってこない。
家族と笑いながら食べるお寿司の時間も、健康の大切な一部ではないだろうか。
もちろん暴飲暴食は良くありません。
しかし人生は栄養計算だけでできているわけでもありません。
「ありがとう。おいしいわね。」
「やっぱりみんなで食べると楽しいわね。」
そう言い合える時間は、心を元気にしてくれます。
最近は冷蔵庫にアイスクリームが入っていることも増えました。
主人の「なんかないかー」という声のせいにしたいところですが、本当は私も好きなのです。
疲れた日に一つ食べる。
それだけで少し幸せな気持ちになります。
若い頃の私は、そんな自分を見て、
「意志が弱いな。」
と思ったかもしれません。
でも今は少し違います。
健康とは長生きすることだけではなく、今日を気持ちよく生きることでもあると思うようになりました。
私は薬剤師として長く働いてきました。
身体に良い食事も、悪い食事も、それなりに知っています。
野菜を増やす。
たんぱく質をしっかり摂る。
甘いものを控える。
どれも正しいことです。
それでも人間は理屈だけでは動きません。
スーパーに行けばパンの良い香りがします。
私はパンが大好きです。
ご飯の方が良いのかなと思いながらも、つい手が伸びてしまいます。
人間は機械ではありません。
好きなものを食べて嬉しくなる気持ちも大切です。
友人とお茶を飲みながらお菓子をいただく。
好きなパンを楽しむ。
それも人生です。
健康情報は世の中にあふれています。
あれが良い。
これは悪い。
次々に新しい情報が出てきます。
でも最後は自分の身体と相談するしかありません。
八十二年間使ってきた身体です。
誰よりも自分が知っています。
薬剤師として多くの人の健康を見てきましたが、
最後は自分の身体の声を聞くことが大切だと思います。
理屈も大切。
でも心も大切。
最近の私は、その真ん中あたりを歩いていきたいと思っています。
そして百点満点を目指すのをやめました。
代わりに七十点で合格にしています。
今日は散歩ができなかった。
でも家事はした。
それで良し。
野菜が少なかった。
でも楽しく食べられた。
それで良し。
そんなふうに考えるようになったら、気持ちがずいぶん楽になりました。
健康は競争ではありません。
誰かと比べるものでもありません。
昨日の自分より少し元気なら、それで十分です。
ベランダの花を見てきれいだと思う。
主人とアイスクリームを食べる。
好きな本を読む。
そんな小さな幸せを感じられることも、健康の一つだと思います。
八十二歳になった今、私の健康生活の合格点は七十点です。
残りの三十点は、人生を楽しむために残しておこうと思っています。ベランダの花を眺めながら、時々アイスクリームを食べるために。
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