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『ちいちゃんの、ハッピープラン』



施設に入所する時、「ハッピープラン」という紙を渡される。


入居者がどんな生活を送り、どんなことに喜びを感じるかを知るため、との事だ。



けれど、書いているうちに不思議な疑問が湧いてくる。



酒と書いたら、飲んでいいの?



寿司と書いたら、ナマモノを食べられるの?



そんなわけはない。きっと、栄養管理と誤嚥防止のためというもっともらしい理由で却下されるのだろう。そう考えると、このプランは職員が「入居者を理解したい」という姿勢を見せるための、一つのパフォーマンスなのかもしれない。それなら、私もそれなりの返答で応えてみることにした。



【私のハッピープラン・全容】



好きな食べ物 : 塩むすび、いなり寿司


飲み物 : 珈琲


音楽: しらん


映画: アマデウス、ラストエンペラー、セブン・イヤーズ・イン・チベット、キングダム・オブ・ヘブン、トロイ、Vフォー・ヴェンデッタ、ザ・ビーチ、フランス実写版 美女と野獣


楽しんできた事: 旅行


趣味: ドライブ


思い出の場所・旅行・忘れられない出来事: 三重県の鳥羽水族館で、推しのラッコ、メイちゃんキラちゃんに会った。


どのような暮らしをしたいですか?続けたい習慣は?: ダラダラしたい。緑内障の目薬を忘れずにつける。


こだわっている事はありますか?: 車の暖気運転、全力セルフスキ


どのような事をしたいですか?: ダラダラ


逢いたい人は誰ですか?: 本当の自分


どのような環境で暮らしをしたいですか?: 寝転がれる


どのような日課や役割を持ちたいですか?: 自分という唯一無二の役割



まず好きな食べ物。迷わず塩むすびといなり寿司と書いた。我ながら、いよいよ枯れた老人の鑑といった風情である。音楽に至っては、本当に思いつかないので、「しらん」と書いた。


映画の欄になると、急に私のオタク気質が目を覚ます。私の脳内シアターに『アマデウス』は絶対に欠かせない。それも、わざわざ長編のディレクターズ・カット版まで這いつくばるようにして観てしまうほど大好きなのだ。モーツァルトの才能に嫉妬するサリエリの歪んだ愛執に悶えたり、『ラストエンペラー』で清朝に思いを馳せ、『Vフォー・ヴェンデッタ』で権力に中指を立てる。施設の天井を眺めながら、心の中では十字軍を率いたり、清朝最後の皇帝の数奇な運命を追ったりしている。たまに『ザ・ビーチ』の楽園崩壊を眺めてニヤニヤし、疲れたら『美女と野獣』の映像美に逃げ込む。
なかでも『トロイ』のヘクトルは不憫であった。武勇に優れ人望も厚い高潔な英雄でありながら、アキレスの従弟を本人と誤認して討ち取ったことで、復讐の狂気に駆られたアキレスに隙を突かれて敗北する。そんな彼の非業の死をベッドでシクシク惜しんでいたら、職員は確実にボケたと思って優しく電気を消すだろう。


楽しんできた事は旅行、趣味はドライブ。思い出には鳥羽水族館のラッコ、メイちゃんとキラちゃんの名前を刻んだ。かつて愛車で風を切っていた頃の記憶が、かすかに私を突き動かしている。


だが、ここからが本領発揮である。暮らしの目標は、ダラダラしたい。二回も書いた。相当な覚悟だ。


こだわりの、全力セルフスキと、車の暖気運転。車を労る丁寧さと、自分をこれでもかと愛する傲慢さが同居している。


私は世界で一番自分が愛おしい。施設で誰に冷たくされようが、自分で自分を全肯定しているのだから無敵である。だからこそ、「逢いたい人は?」と問われれば「本当の自分」と真面目にに返し、相手を戦慄させる。


私は、何にも成し遂げなくても、私は私で完結している。
施設で、ただ寝転がれる環境さえあれば、私は私としてそこに存在し、ダラダラと自分を愛し続けることができる。それこそが、私に課せられた、唯一無二の最高の任務なのだ。



......と、綺麗にまとまったところで。



あ、思い出した。



好きな音楽、あったわ。
『もしぬこ』
好きな曲は、『つつつつつよし』



『もしぬこ(@moshinuko)』は猫との生活を形にした中毒性の高い「あるあるソング」のクリエイター。
可愛い歌に擬態しているが、聴いていると主従関係が逆転し、飼い主が猫にいじくり回されている図が浮かび上がってくる。まさに、猫の奴隷。


「もしぬこ」の紹介


概要
インターネットやSNS、動画配信プラットフォームを中心に活動するマルチクリエイター。
アカウント名は「@moshinuko」



作風と魅力
「もしも猫が喋れたら」というシュールで愛らしいコンセプトを軸に、思わず「あるある」と頷いてしまう猫の生態や人間模様を詰め込んだ、中毒性の高い「あるあるソング」やボカロ曲を展開している。



特徴
単なる「可愛い猫の歌」にとどまらず、現代社会を生きる人間のリアルな本音や、どこか冷ややかで客観的な視点がブラックユーモア交じりに綴られている。










気がついたら無限リピートしていた。
恐ろしい中毒性である。


日中、誰とも一言も口をきかないまま、画面の中の猫を見つめて呆然と過ごす。こうして私の大事な時間は、今日もYouTubeの波にのまれて、アホみたいに溶けてゆく。

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