🍚隣のグルメ🦐爆笑大海老トーク
午前11時58分。
(あと2分で昼休憩だ…それにしても、腹が減った⋯)
こういう時に限って時計の針が遅く感じる。
早く12時になれ。いや、もういっそ11時59分50秒からスキップしてくれ。
カバンに財布を突っ込み、ジャケットを羽織る準備は完了。
12時ちょうど、椅子からスッと立ち上がった。
(よし、今日の昼はチキン南蛮だ。朝から南蛮の気分で来てるんだ。今さら路線変更はない)
会社から5分の定食屋へ。
のれんをくぐった瞬間、甘酸っぱい香りが鼻を直撃する。
(ああ、この匂い…もう勝った。今日の僕は勝ち組だ)
カウンター席に座り、背筋を正し左手を上げる。
「すみません!チキン南蛮を一つください。
……あっ、それから…いや、やっぱりいいです」
(特に追加はないけど、なぜか言ってみたくなる。これも腹が減ってるせいだ)
厨房からジュワァァ…という油の音。
(おお、いい音だ。油が今まさに僕の昼を揚げてくれている)
待つこと数分、目の前に黄金色のチキン南蛮がやってくる。
(見よ、この艶。タレの照り、タルタルの白…絵画にしてもいいレベルだ。いや、飾る前に食うけど)
箸で一切れ持ち上げ、口に運ぶ。
サクッ…ジュワッ…。
(はい、優勝。昼の部、文句なし優勝)
と、その時。ガラガラと引き戸が開く。
男4人組が入ってきた。
スーツ姿、年齢バラバラ。会社の同僚っぽい。
(この4人…絶対、飲み会で一人は寝るタイプがいる)
4人は4人席に座り、ネクタイを緩めながらワイワイ話し始めた。
僕はタルタルをつけながら、耳をそっと傾ける。
「昨日の打ち上げの海老、マジ美味かったっすよね!
あの、でっかい海老。なんだっけ…忘れたけど、デカ海老!」
(デカ海老…そんな直球ネーム、海産物にあったか?)
すると先輩らしき男が呆れ笑いで言った。
「エマール海老なっ!」
……。
(エマール!?それはおしゃれ着洗いだろ!)
僕の頭の中に、やさしい香りの洗剤のCMが再生される。
白いシャツがゆっくり揺れ、ナレーションが「おしゃれ着洗いに、エマール」とささやく。
(いや、今必要なのは柔軟剤じゃない。甲殻類だ)
そして僕は…椅子をガタンと鳴らして立ち上がり、右手で彼らを指さし、声を張った。
「エマールっておしゃれ着洗いだろォォォ!!
オマール海老だぁぁぁーーーっ!!!」
4人組が爆笑。
隣のおじさんが拍手。厨房のおばちゃんが「兄ちゃん、座布団一枚!」と叫ぶ。
店内が笑いの渦に包まれる。
(やった…僕は今日、この店を笑顔で満たした…)
——と、いう風に突っ込めるわけなく。
現実の僕は、ただチキン南蛮を前に、喉の奥で笑いを押し殺していただけだった。
タルタルの玉ねぎが、やけに目に染みたのは…たぶん気のせいじゃない。
