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⏳増量はゆっくり、減量は一瞬

痩せやすい体質の人はわかると思うけど。
普通に三食食べているだけでは、みるみる体重が落ちていく。
だから周りから「食べても太らないなんて羨ましい!」と言われるたびに、笑いながら心の中で「いや、これが意外と大変なんだよ」とつぶやく。

世間には痩せるために努力している人がたくさんいるけれど、僕はその逆。
痩せないために努力する、少数派の人生を送っている。

筋トレを始めてからは、この戦いがさらに過酷になった。
筋肉を増やすには、ただジムでトレーニングをするだけじゃ足りない。
食べて、食べて、食べまくるしかない。
鶏胸肉、卵、牛乳、山盛りのご飯……。
お腹が限界を超えていても、「あと一口」「もう一杯」と自分を追い込む。
食べることが好きな人から見れば天国のように思えるかもしれないが、実際は胃袋を酷使する修行に近い。

そして僕は決断した。
筋肉だけじゃなく脂肪もつける。
つまり、意図的に太ることだ。
少しふっくらして見えても構わない。脂肪があることで筋肉が増えやすくなるからだ。
僕の痩せやすい体質では、筋肉だけを効率よく増やすなんて到底できない。
だからあえて脂肪も含めて、体を大きくしていく戦略を選んだ。

その努力の結果、ついに僕は体重100キロに到達した。
ただの100キロではない。筋肉と脂肪、両方を計画的に積み上げた100キロだ。
体重計の数字を見て、胸が熱くなった。
「よくここまで頑張ったな」
鏡に映る自分も、これまでより逞しく見える。
もちろん体脂肪率は上がったが、それもすべて想定内だ。
「ここから少しずつ絞り込んで理想の体を作ろう」
そう心に誓った。

ところが――たった二週間の油断で、すべてが崩れ去った。

仕事が忙しくても、ジムには通っていた。
筋トレ自体はきちんと続けていたのだ。
ただ、ほんの少しだけ食事をサボった。
深夜に追加で食べていたものをやめ、間食も抜いただけ。
それだけなのに――

100キロから、95キロへ。

たった二週間で、5キロが一気に消えた。
筋肉も脂肪も、まるで溶けるようにまとめて消えてしまった感覚だった。
体重計の数字を見た瞬間、思わず「嘘だろ……」と声が出た。

積み上げるのには何ヶ月もかかるのに、崩れるのは一瞬。
僕の体は、少しでも油断すると全力で「痩せる方向」に戻ろうとするらしい。

5キロ減なんて、本当にすぐだ。
「昨日より少し食事が軽かったかな?」と感じたその頃には、もう体は容赦なく数字を下げ始めている。
世間では「5キロ痩せた!」と言えば大ニュースだろう。
でも僕にとってそれは、ほんのちょっとしたきっかけで起こる、日常的な悲劇だ。

そんなタイミングで、親戚が集まる機会があった。
久しぶりに顔を合わせたその場で、開口一番言われたのは、まさかのこの一言だった。

「太ったんじゃない?」

……え?
僕は一瞬、固まった。
てっきり「痩せたね」と言われると思っていたのに。
たぶん筋肉がついて、以前よりガッチリして見えたのだろう。

僕は笑いながら答えた。
「はい!実は筋トレ頑張ってて。でも最近ちょっと油断して、二週間で5キロ減っちゃいました。油断するとすぐ痩せるんですよ」

その瞬間、相手の表情が微妙に曇った。
笑ってはいるけれど、どこか不満そうな顔。
その空気を察して、僕は心の中で小さくため息をついた。
――これは、理解されないやつだ。

太りやすい人にとって、体重が減るのは夢のような話だ。
食事を我慢し、運動して、それでもやっと少しずつ減らす。
だから「油断したら痩せる」という僕の言葉は、ただの自慢にしか聞こえないのだろう。
ましてや「5キロ減った」という具体的な数字まで口にすれば、なおさらだ。

でも、こっちだって必死なんだ。
筋トレは休まず続けていたし、油断なんてしていない。
ほんの少し食事量を減らしただけで、僕の体は秒速で縮んでいく。
こっちは苦労してるのに。痩せたことだって、僕にとってはショックなのに。

なのに、その感覚は誰にも伝わらない。
「羨ましいよ」「贅沢な悩みだね」と片付けられてしまう。
僕がいくら説明しても、痩せやすい体質という星と、太りやすい体質という星は、遠く離れた別世界なのだ。

帰り道、僕は考えた。
知らないうちに、人を怒らせているのかもしれない。
悪気なんてまったくない。ただ事実を伝えているだけ。
でも相手から見れば、それは自慢に聞こえてしまうのかな。

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