150年の土壌が育む、多様な未来への種
朝から降り続く雨の中、いつもの道を車で走らせる。ワイパーがせわしなく動く窓の外、満開だった桜が散り始めていた。ピンク色の花びらがアスファルトに張り付き、その隙間から鮮やかな緑色の葉が顔をのぞかせている。葉の割合の方が多く見えるようになってきた。天気予報は大雨。おそらく今日明日で、ほとんどの桜は散ってしまうだろう。
通勤路にある小学校の前を通りかかると、真新しいランドセルを背負った小さな背中がいくつか見えた。黄色い帽子を被り歩く姿は、濡れた景色の中でそこだけが光っているように見える。交通指導のボランティアの人が数名立っている。今日が入学式なのだろう。
桜の花は、なかなか入学式まで持ちこたえてはくれない。毎年のことだが、少し寂しい。散りゆく花と、これから始まる新しい生活。そのコントラストが、雨の日の朝に少しだけ情緒を添えてくれる。
さて、件の小学校についてだが、私はこの学校の卒業生ではない。けれど、不思議な親近感を感じている。なぜなら、私の祖父と母はこの小学校を卒業しているからだ。家族の記憶が眠る場所。私が生まれるずっと前、彼らもこの道を、同じように通っていたのかもしれない。そう思うと、散りゆく桜の下に、彼らの幼い姿が重なるような気がした。
この小学校は、昨年150周年を迎えたという。150年。言葉にするのは簡単だが、気の遠くなるような時間の長さだ。明治の初めから、この場所に立ち続け、地域の子どもたちを見守ってきた。私の家族も、その長い歴史のほんの一部分に触れていたのだと思うと、学校という存在の大きさを改めて感じる。
150周年の記念行事では、卒業生によるトークショーが行われたそうだ。演歌歌手の三山ひろしさんと、プロレスラーの岡林裕二さん。紅白歌手とプロレス王者という、一見すると接点のなさそうな異色のコンビが母校に集結した。二人はほぼ私と同年代だ。同じ教室で学び、同じ景色を見て育った二人が、それぞれの道を歩み、それぞれの場所で頂点を極めた。他にもbjリーグでプロバスケットボール選手になった同級生もいる。
同じ学び舎から、多様な未来が羽ばたいていく。学校という場所は、単に知識を学ぶだけでなく、人生という長い旅の出発点であり、多様な夢の種を育む土壌なのだと感じる。あの真新しいランドセルを背負った子供たちも、いつか自分だけの花を咲かせるのだろう。
雨はまだ降り続いている。桜は散り、地面をピンク色に染めている。けれど、それは終わりではなく、次の季節の始まりでもある。新しい子供たちが、この150年の歴史を持つ学校で、どんな時間を過ごし、どんな夢を描いていくのか。散りゆく花を見ながら、彼らの未来に静かに思いを馳せた。
日常は繰り返されるけれど、その中にはいつも新しい始まりが隠れている。明日は雨が上がるだろうか。濡れたアスファルトを踏みしめながら、そう思った。
