音楽って小説でどう書くの?【音楽の小説を書きたいドラ麦茶③】
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音楽に関する経験も知識もないのに「音楽の小説を書きたい!」と思ってしまったドラ麦茶。はたして小説は完成するのか?
第3回は、いよいよ「音楽を文字で表現するにはどうすればよいのか」を考えます。
参考にした本
ドラ麦茶は小説を書いている期間だけは長く、初投稿作のホラーに始まり、ファンタジー、ミステリー、ゾンビもの、能力バトルもの、群像劇、ヒューマンドラマなど、これまでいろんなジャンルの小説を書いてきました。
その経験から、新たなジャンルの小説に挑む場合、まずはそのお手本となる本を読むのが一番だと思っています。
実際、これまで書いてきた各ジャンルには、それぞれお手本としている小説があり、執筆中はすぐに読み返せるよう近くに置いています。
なので、今回挑戦する音楽を題材にした小説でも、同じジャンルの小説を読んで表現方法を研究してみることにしました。
今回お手本にした小説は、中山七里先生の『さよならドビュッシー』。
ピアノを題材にしたミステリーで、音楽表現が素晴らしいと評判の一冊です。
まだ読み込むというほど読んでないので研究はこれからも続けますが、ひとまず今の段階で「音楽を小説で表現するポイント」は3つ。
曲の解説
演奏・鑑賞時の感覚・感情
演奏者・鑑賞者の様子
です。
音楽を文字で表現する3つのポイント
では、それぞれのポイントを解説します。
各ポイントには、『さよならドビュッシー』の他にも、音楽表現で高い評価を得ている以下の3作品から、お手本となる表現を引用させていただきました。
すべてAmazon電子書籍サイトの無料サンプルで読める範囲から選んでおり、引用部分の位置ナンバーを記しています。引用したのはごく一部なので、他にも素晴らしい表現がたくさんあります。ぜひ実際に読んで参考にしてみてください。
※位置Noは端末の表示レイアウトによって多少前後します。
1・曲の解説
演奏されている曲の解説を書く手法です。曲の特徴、演奏のコツ、さらには、作曲者のプロフィールや曲誕生時のエピソードなども絡めます。
例えば、『さよならドビュッシー』では、冒頭でショパンの英雄ポロネーズがピアノで演奏されますが、その際にポロネーズの意味や曲調などが解説されています。(位置No.49)
ショパンの〈英雄ポロネーズ〉――。
(中略)ポロネーズというのはポーランドの舞曲といった意味で、曲の主旋律はなるほど舞曲風だ。序奏から踊るような旋律が続き、聴く者を浮き立たせる。
また、『シューマンの指』では、シューマンのピアノ協奏曲イ短調Op.54の解説としてシューマンの人生や曲の素晴らしさが綴られており(位置No.114)、『春のソナタ』では、ベートーベンのバイオリンソナタ春の解説としてパガニーニやクライスラーらのバイオリニストが作曲した曲とベートーベンのソナタの違いなどが書かれています。(位置No.222)
シューマン《ピアノ協奏曲イ短調》Op.54。
バロック時代にチェンバロ協奏曲としてはじまり、モーツァルトの手で豊かに開拓された、ピアノ協奏曲というジャンルにおける最高傑作!
パガニーニやクライスラーなど、バイオリンの名手が作曲した曲は、バイオリンが目立つように作られていて、ピアノはただ伴奏するだけだが、ベートーヴェンのソナタは、バイオリンとピアノが対等に扱われている。ベートーヴェン自身がピアノの名手だっただけに、ピアノが主役になり、メロディーを歌い上げる部分も多い。
曲の解説に加えて演奏方法の技術を書くという方法もあります。『さよならドビュッシー』では、前述の英雄ポロネーズが演奏者にとっていかに難曲であるかが書かれています。(位置No.49)
弾く側にしてみればこの曲は難曲そのもので、和音を構成する音符は鍵盤の範囲が広くて手の小さい弾き手には不利だし、連続する左手のオクターブは親指をひどく酷使する。
演奏技術を書くと専門性が増してより本格的になりますが、当然ながら作者が演奏に詳しくなければなりません。
作者自身に演奏経験があるか、実際の演奏者に徹底的にインタビューしてみる等しないと、表現にリアリティが出ないでしょう。
また、あまり専門的なことばかり書き連ねると、マニアウケするかもしれませんが、マニアじゃない人が置いてけぼりになってしまう可能性もあります。
これら曲の解説・技術を描写する手法の注意点は、小説内の語り手あるいは視点の主が「演奏曲に関する知識がある」ことが前提となります。語り手や視点の主が知らないはずの情報を語りはじめたら不自然ですからね。
なので、例えば「それまで音楽に興味がなかった主人公が誰かの演奏を聴いて感動する」といったシーンでは、この手法は使えません。その場合は、そばに曲に詳しい人がいて解説してくれる等の工夫が必要です。
2・演奏・鑑賞時の感覚・感情
曲を演奏・鑑賞している時の感覚や感情の変化などを表現する手法です。演奏の心構えや演奏する理由、鑑賞時の心の動きなどを綴ります。
『春のソナタ』では、バイオリン演奏者である主人公の気持ちが音に変化する様子やその時の思いが描かれています。演奏者には当然曲に対する知識もあるので、最初に挙げた手法の「曲の解説」も絡めることが可能です(位置No.156、位置No.288)
弓にかけるわずかな力の加減で、自分の気持ちが、音色の中に融け込んでいく。心臓の鼓動が、そのまま楽器に伝わり、弦と胴が切なげに振動する。音と、気持ちとが、一体になる。この感じが、好きだ。楽器を弾いていると、何もかも忘れて、旋律と響きの中に没頭することができる。
直樹は、バイオリンを構えた。シベリウスの第3楽章。心をからっぽにして、弦の響きに耳を傾ける。シベリウス特有の、神秘を感じさせる不思議な諧調。響きの中に、思いが融け込んでいく。
これに対し、鑑賞者の感情を表現する場合は、その人に音楽の知識があるかないかによって表現方法が変わります。知識がある人物の場合は専門的なことも書けますが、知識がない人物だった場合は、表現の仕方にも工夫が必要です。
『おやすみラフマニノフ』での鑑賞シーンでは、語り手に音楽の知識があるので、感情表現の他にバイオリンやピアノの演奏技術の描写もあります。(位置No.114)
ヴァイオリンが小刻みな上昇と下降を反復させ、ピアノも弱音と強音を繰り返す。それにつれてボクの心拍も上下する。ああ、駄目だ。身体が動かない。まるで音の金縛りに遭ったみたいだ。
鑑賞者に音楽の知識がない場合は、感情を音楽以外のことで表現します。例えば、曲を聴いて思い浮かんだ情景や過去の記憶などです。
『羊と鋼の森』では、それまで音楽に興味がなかった主人公が、ピアノの調律師が仕事をしている様子を森の木々の匂いや季節などで表現し、ピアノに魅了されていく様子を描いています。(位置No.23、位置No.70)
その人が鍵盤をいくつか叩くと、蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした。
森の匂いがした。秋の、夜の。僕は自分の鞄を床に置き、ピアノの音が少しずつ変わっていくのをそばで見ていた。たぶん二時間余り、時が経つのも忘れて。
3・演奏者・鑑賞者の様子
演奏者・鑑賞者の姿や動作を描写します。特に演奏者は演奏中じっとしていることはまずないので、その動きを表現すると良いでしょう。
『おやすみラフマニノフ』では、ピアノ演奏者の指の動きの速さを描写し、そこから音の動き方を描写しています。(位置No.114)
指が鍵盤に触れたかと思うと、その動きはもう目にも留まらなかった。空気を刻むようなピアノの音が、オーケストラを巻き込みながら心を駆け抜けていく。狂ったような目まぐるしい転調。それでも溢れ出た音粒は一斉に同じ方向に向かって猛進している。
また、『春のソナタ』では、まだ暗譜ができない主人公が楽譜を目で追う様子などが描写されています。(位置No.173)
音が拡がっていく。実際には鳴っていないオーケストラのパートが、直樹の頭の中では、静かに流れている。暗譜ができていないので、楽譜を目で追っているのだが、それとは別のところで、何かがきらきら光っている。
演奏者は動きが大きいので表現しやすいですが、これが鑑賞者になると動きが小さくなります。
それでも演奏者に目を奪われたり涙を流したりといった小さな動きはあるはずなので、それらを描写します。
『おやすみラフマニノフ』では、ステージ上で動かないピアニストを主人公や他の観客が固唾を呑んで見守る様子や、演奏終了後のスタンディングオベーションの様子が描写されています。(位置No.114、位置No.136)
ボクを含め、ホールを埋め尽くした聴衆は半ば呆然としてステージ中央に君臨するピアニストを見つめていた。
ボクの周囲の人たちは皆、頰を紅潮させ、痛そうなくらいに拍手を続けている。ふと前列五列目の隙間に気付いた。皆がずらりと立ち並ぶ中で、おじさんと女の子の二人だけが座ったままでいるのだ。よく見ると、おじさんは白杖を携え、女の子も松葉杖を横に置いている。親子だとしたら二人とも気の毒に。きっと立ちたくても立てないのだろう。
基本は同じ
以上の3つが、今回音楽を題材にした本を読んで私が感じた書き方の基本です。
こうやってポイントをまとめてみると、音楽の小説といっても、やることは他の小説を書く時と何も変わらないのかな、と思いました。
例えば、高級レストランでの食事シーンを書くとしましょう。まずはお店の説明をし、店内の様子を描写し、出された料理の説明をし、食べたときの感情を書く……こんな感じになると思います。
あるいは水平線に沈む夕日を見るシーンだとしたら、場所の説明をし、海と空の様子を描写し、夕陽が沈む様子を描写し、それを見た感情を書く。
音楽も、それらと同じ同じ感覚でやれば大丈夫なはずです。
メロディーを美しいと感じたら、その美しさを表現する。
演奏者の指が速く動いたら、その速さを表現する。
演奏に心を打たれたら、その心の動きを表現する。
それらを積み重ね、表現を広げていけば、立派な音楽シーンになるでしょう。
……と、言っても、その「表現を広げていく」というのが難しいから、作家は日々頭を悩ませているんですけどね。
書き方の研究はこれからも続けますが、上達するには実際に書いてみる以上のことはないので、次回はいよいよ執筆に入ります。はたしてうまく書けるのでしょうか? ご期待ください、いや、あんまり期待せんといてください。^^;
