EP.10 能ある鷹を爪を隠していた。
返却されたノートを開いて菅は絶句した。
メッセージは消されてその上から赤ペンで二重線が入っていた。
「許さない」と明確な意思表示がされたと察した。
…ここまで明確に意思表示されるとは思っていなかった。
国語の授業が始まると菅は比佐子の様子を伺うことにした。
最近の極、普通の機嫌の比佐子。
挙手、質問も普通に対応してくれる。
…?
これは自分に興味は一切ない、ということなのだろうか。
「終わった恋、てやつか。」
授業中にぼそっと比佐子が近くに来た時につぶやいた。
何?と眉をひそめながら菅をちらっと見る比佐子。
比佐子はそのまま授業を続けていった。
部活動の後のアフター5はもうない。
部活後はさっさと片付けをして生徒たちは帰っていった。
菅はあえて最後の最後まで部室に残っていたが
特別な会話もなく、比佐子が教師の仮面を外すことはなかった。
それでも菅を良かった。生徒以上の存在ではないのかもしれない。
それでも比佐子に生徒として扱ってもらえることを
甘んじていた。
1年前に見た情景とはまるで違う冬。
17の冬。東海では珍しく雪が積もったある日。
もっと深く積もればいいのに。
雪をダシに話題の一つでも話かけられる。
降り積もるわけもなく雪は溶けてゆく。
時間を巻き戻したい。
そんなことを考えながら2度目の春は
冬をおきなざりにしていった。
菅は大学進学を目指していた。
彼の中学時代の勉強量からすると上出来だろう。
学校の授業だけでは勿論足りないので
予備校にも通っていた。
学校側おそらく気づいていない。
学校の授業はほぼ底辺向けの内容であった為
菅の学力を推し量るには適切ではなかったのだ。
100点が150点になるわけが無いのだ。
2年3学期に進路についての面談があった。
その面談で初めて大学進学の意思がある旨を学校側に伝えた。
希望大学は「中央大学の法学部」滑り止めとして「専修大学」。
学校側にしてみたら驚きである。
改めて学校側の学科構成を説明すると
普通科と国際科に分かれていた。
菅のいる科は普通科。一方で学校の広告塔の役割を果たしていたのが国際科
全寮制で主に学校関係者の生徒で編成されていた。
授業構成は校内では一日7限。
寮内でも2限。
生徒数にして一学年9名程度と10名にも満たない。
体育以外は普通科とは接点は無いという徹底ぶりだった。
菅は予備校での直近の模試結果を提出した。
中央大学判定「B」。
学校側は学年会議で菅の扱いについての検討を行った。
国際科への編入。
菅はこれを拒絶する。全寮制というところとクラスメイトとの交際に
また配慮するのは疲れる。勿論学費面の問題もあった。
菅にしてみれば、浪人してでもある程度の大学への合格を果たしたかった。
この話を会議で聞いた比佐子は勿論驚いた。
「やればできる子」と思っていた菅が本当に「できる子」に
なろうとしていたのだ。
既に恋愛感情は冷めていたが、改めて
あの当時思っていた菅の評価を再認識する事になる。
晴れて菅の3年のクラスは本人の希望もあって3B。
進学系のクラスに入る事になった。
ひとつ問題があったとしたら、
その3Bの担任は「佐山先生」だった事だった。
こうして菅と比佐子、そして新任の田宮を交えた
最後の学生生活が始まったのだった。
