ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います
『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』は、香坂マトによる日本のライトノベル。電撃文庫(KADOKAWA)より2021年3月から刊行されている。2023年8月時点で電子版を含めたシリーズ累計部数は30万部を突破している。公式略称は「ギルます」。
あらすじ
大都市の冒険者ギルド、イフール・カウンターで受付嬢をするアリナ・クローバー。受付嬢は公務で仕事と収入が安定している。しかし、現実は残業と冒険者の対応に日々追われるものだった。のびのびと暮らすためには、ダンジョンを攻略し事務作業を減らす必要があるので、アリナは自分で攻略しようと考える。だが、ダンジョンに入れるのは冒険者だけ。そこでアリナは、受付嬢の仕事は副業禁止だが、一人でこっそり冒険者を始めた。
ーウィキペディアより抜粋ー

この作品の真髄は、単なる「なろう系無双」に留まらぬ、現代社会を生きる小生達、多くのサラリーマン・公務員にも通じる「理想と現実の凄まじい乖離」と、それを強引な力技で捩じ伏せるアリナ・シルヴェリと云う名の社畜嬢の狂的情熱だと、確信しました。
一人の女性、そして「処刑人」としての彼女の苦悩と葛藤に焦点を当てて、その魅力を紐解いてみましょうか・・・
◎「完璧な受付嬢」という仮面と、超ブラックな実情
アリナ・シルヴェリが追い求めるのは、定時退社、アフターファイブの充実、そして誰からも非の打ち所がないとされる「完璧で優雅なエリートサラリーマン生活」です・・・が、・・・
☆表 つやつやの銀髪、隙のないパリッとした制服姿、そして爽やかで完璧な(営業)笑顔。彼女にとって受付カウンターは、自分を美しく演出する「聖域」である筈でした・・・
☆裏 しかし現実は、無能な冒険者どもが残したクエストの事後処理・残務処理、果てなく終わ終わりの見えぬ標高高き書類の山、しかも残業代も出ないド・ブラックな労働環境。
アリナの「優雅でありたい」という願望が強ければ強いほど、それを阻むデスクワークへの憎悪が募っていく描写が秀逸。彼女にとっての敵は魔物ではなく、「自分の時間を奪う凡て」なのです。
◎「処刑人」としての鬱憤晴らし
彼女が巨大なウォーハンマーを振り回す「処刑人」へと変貌する瞬間、それはそこにあるのは正義感などでは決してありません。「残業を生む原因=ダンジョンボス・・・を物理的に排除する!!」という、極めて現実的かつ切実な動機。
「定時を邪魔する奴は、死刑です!!」
この絶叫と共に繰り出されるウォーハンマーの超暴力的な戦闘スタイルは、日々の理不尽なクレームやルーチンワークで摩滅した精神のデトックス。美容と健康の為に欠かせぬ神聖な行為なのです。猛り狂う彼女の内面では、常に「一刻も早く帰って寝たい」という野獣のような本能と、「乙女の品位を保ちたい」という願望の間で激しく揺れ動き続けます。このアンバランスさが、アリナを単なる最強主人公ではなく、人間としてちゃんと血の通った(でも少しちっぴり不憫な)女主人公として形作ります。

◎ジェイド・スクレイドとの奇妙な距離感
最強の盾役であるジェイドとの関係性は、本作の数少ない癒やし成分であり、同時にアリナを悩ませる火種でもあります。
「処刑人」という正体が身バレすることを極端に恐れるアリナに対し、ジェイドはその実力を見抜きつつも、彼女の気持ち・・・「一人の女性としての平穏」を守ろうと奔走します。云わば、仕方無しの共犯者・・・。
アリナは彼を「有能だが、自分の正体をバラしかねない危険人物」として警戒しつつも、戦いの中では背中を預けざるを得ず。この、仕事上の関係という一線を引きたいアリナと、誠実に彼女を案じるジェイドの心情の温度差が、ストーリーに絶妙なコメディ因子と極微かなロマンスを添えます?
◎世界の秘密と「平和」への葛藤
ストーリー展開に連れ、彼女は単なる「ボス討伐」以上の事態、つまり魔神たちと世界の理を巡る謎に、否応なく巻き込まれてしまいます。
ここでの彼女の苦悩は深い・・・
本来、世界の運命などという重積は、定時退社を愛する平凡な一OLが背負うべきものなどではありません。しかし、「世界が滅びれば、私の安穏とした生活も、月給も、賞与も大好きな甘いお菓子も全て消えてしまう!!」という結論に至ったとき、彼女は再びウォーハンマーを手に立ち上がります!!
「平和を守るため」という高潔な理由ではなく、「私のささやかな平穏、ささやかな日常を・・・・・・邪魔するな!!!!」という独善的でありながらも妙に納得できる動機で、神にすら挑むその姿は、皮肉にも・・・誰よりも英雄らしかった気がします・・・
アリナ・シルヴェリが戦っている本当の相手は、魔神でもボスでもなく、「個人の幸せを搾取しようとする社会構造そのもの」なのではないでしょうか?
◎優雅に、美しく、そして定時退社・・・
そのささやかな願いのために、アリナは今日も多分、返り血で汚れた制服をクリーニングに出しつつも、明日への決意を固めていることでしょう。一筋の涙とともに・・・

これは・・・ファンタジーの名を借りた、現代社会への怒りを込めた警鐘の物語ではないでしょうか・・・バブル崩壊後、日本に吹き荒れたリストラの嵐、人件費削減のため、人間は最小限、新人採用基本なし、新人研修も不十分・・・就職氷河期・・・この間、どの労働者も非常に苦労しました・・・最低限の賃金で最高のパフォーマンスを出せと、会社から無茶振りされるのですから・・・社畜という言葉が生まれたのもこの時代以降、ブラック企業時代の到来です。
そして、それまで比較的安穏としていた公務員にも惨劇が降りかかります。コロナ禍です・・・。飲食業は休業を余儀なくされ、政府は補助金を出そうとしますが、これが全部書類仕事・・・
この時期、地方公務員の方々も・・・地獄の深淵を見ました。朝から晩まで、中小企業経営者どもからの電話対応・・・長々と苦境を訴えられ、泣き落としされ、恫喝され、それに出来るだけ丁寧に対応し続けた、ある夜のこと、また電話・・・
「いつまで待たせるんだ!! ごらぁ!! 何回掛けても繋がらんとは、なんちゅう怠慢じゃい、この税金泥棒!!」
「すいません、大変立て込んでおりまして・・・」そして、その電話も非常に長時間に及んだとか・・・。
対応したある地方公務員は、最後には、ついにブチ切れて、
「貴方のような、長~い電話が朝から続いておりまして、そのせいで繋がらなかったんですのよ、を~ほほっ!!!!・・・」と、言って電話を切ったとか切らなかったとか・・・
また、当時の保健所内部の職員達は朝から晩まで、医療機関から大量に送られてくる書類の山に、何ヶ月も徹夜覚悟でMonster片手に職務に挑んだとか・・・
こうした地獄を見続けた労働者達に送る賛歌・・・惨歌?なのかも知れません。

310によるオープニングテーマ「パーフェクトデイ」
ナナヲアカリによるエンディングテーマ「明日の私に幸あれ」、何れもノリの良い良い曲です、特にエンディングはお気に入り・・・よく聴いております・・・え?いえ、聴いているだけで・・・歌えません・・・(T_T)
