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『当たりの日だった』

夫がどうしても行きたかった、
いつ開いているかも分からないジャズ喫茶へ。

夏の冒険のひとつとして、
行ってみることにした。

半分、宝くじみたいな気持ちで向かうと、
その日はシャッターが半分開いていた。

これは開くんじゃないか……?

はやる気持ちを抑えて、
13時前に再度訪問。

シャッターは全開。

看板は少し外へ。

灯も灯っている。

恐る恐る扉を開けると、

大音量のジャズ。

一番奥の席に座ると、
飲み物を尋ねられた。

少し緊張しながら、

「アイスコーヒーを二つください。」

壁にはたくさんのサイン。

奥には、
棚いっぱいのレコード。

そして、ちらっと見える
激渋な店主。

しばらく音に耳を傾けていると、

サックスの音が
すぐそこから聞こえた。

まるで、
その場にいるようだ。

「これ、スピーカーなんだよね?」

ときどき聞こえる小さな機械の音で、

ああ、そうだった。

と、現実に戻る。

トランペットも、
すぐそこで吹いているように聞こえた。

一方で、
ピアノや低音は、
私には少しぼんやり聞こえた。

きっと、
音にも好みがあるんだろう。

隣を見ると、
夫はじっと音を聴いていた。

私には分からない何かを、
聴いているのかもしれない。

そう思うと、
なんだか少し面白かった。

店を出ると、
外にはいつもの夏の午後があった。

開いているかも分からない店を目指して、
はるばるここまでやって来た。

少し変な旅だったけれど、

誰かの「どうしても行ってみたい」に
ついて行く旅も、

案外悪くない。

振り返ると、
店の灯りはまだついていた。

どうやら今日は、

当たりの日だったらしい。

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