正論が理解されない職場をクソだと思ったあの日の僕へ
明らかに自分は正しいことを言っているはずなのに理解されない。相手の保身的な都合で行動を渋られ、プロジェクトが前に進まない。正しいレビューをしているはずなのに「仕事を足止めする人」だと思われて疎まれる。
そういうことが積み重なって、挙句に「正論じゃ人は動かない。正論を捨てな」と痛烈なフィードバックをもらう。
そんな職場に怒り、うんざりしていたあの日の僕へ。
あなたのその気持ちは正しいよ。正しくないのは、その気持ちの扱い方だ。
あなたが怒ったのは、理解されなかったからじゃない
あなたが、正論が届かずに腹を立てた理由は、理解されなかったからだけではない。それ以上に、あなたが大切にしていた正しさを軽々しく扱われたからだ。「そんなことよりも優先すべきことがある」と、正しさを置き去りにされたからだ。違うかい?
つまりあなたにとって「正しいこと」はとても大事な価値観だ。大事な価値観をたやすく突っぱねられることは、アイデンティティを軽視されたことと同義だ。怒る気持ちは正当だ。
そう、「気持ち」は正しいんだ。
だけれども、だからといってあなたが怒りにまかせて正論をぶつけ、無理やり相手を動かそうとすれば、今度はあなたが相手のアイデンティティを傷つけかねない。
そもそも、正しさは「唯一価値あるもの」ではない
まず心に留めておくべきことは、人には「正しいこと」よりも大切な価値観があるということだ。
その価値観が何かを理解しようとしたかい? その価値観を、正しさよりも劣ったものだと判断せず対等に扱ったかい?
あなたの正しさが届かなかったあの人は、正しさよりも「全員が納得できること」を大事に思っていたかもしれない。
あなたが保身だと感じたあの人は、「誰かが陰で頭を下げるようなアンフェアを起こさないこと」を何より優先していたのかもしれない。
あなたはこれらの価値観に優劣を感じるかい? 仮に感じたとしても、その優劣には何の意味もない。何も動かせない。他者のアイデンティティを傷つける以外、何も生まない。
あなたは「なぜその価値観が重要なのか説明してみろ」と思うかもしれない。しかしその説明も無意味だ。どうせあなたはどんな説明をされたところで、その説明が「正しいか」という点でしか判断しない。つまり自分の価値観で相手の価値観を再評価するだけだ。
さらにたちの悪いことに、あなたが信じる正しさという価値観は、言葉で説明しやすい。「ほら、自分のほうが妥当な説明ができる、だから正しさを優先すべきだ」と論理で殴り勝てる土俵に相手が上がってくるのを待っているようなものだ。
だから覚えておいてほしい。
人の価値観は、「それは優先すべきものではない」などと誰かが査定していいものじゃない。価値観を大切にする理由は何だっていいし、それを人に証明する必要もない。
価値観は、ただ大切なアイデンティティとして、一人ひとりが持っているだけだ。優劣などつけようもない。
それでもあなたの正しさを手放す必要はない
でもね、だからこそ、あなただって自分の価値観を捨てる必要はないんだ。正しさを信じることを諦めなくていい。
ただ思い出してほしい。
あなたが正しさを人にぶつけて受け入れられず挫けたとき、あなたは何をしたかった? 誰かに動いてほしかったんじゃないか?
ここまで読んだあなたはもう分かっているはずだよね。
相手は、相手の価値観に沿って動いている。あなたの正しさに沿って動いているわけではない。だからまずは相手の価値観を知るべきだ。そしてその価値観というレンズを通して、この現実をどう見ているかを想像するべきだ。
想像できないなら聞けばいい。相手の価値観や相手が見ている世界に関心を持つこと、それに寄り添う気持ちを持つこと。そうしてから、次はあなたの価値観を理解してもらおう。どちらかが先に相手の価値観を理解しなければ前に進まないなら、まずは自分から理解しようよ。自分が先に折れたって、何も失いはしないよ。あなたが過ごしてきたのはそういう環境だっただろう? 正しさでぶつかることはあっても、人として信頼できる人たちだったはずだ。違うかい?
* * *
……と言っても、それがそう簡単にできれば苦労しないんだけれどもね。今だって相手の価値観をうまく汲み取れず悩むこともあるし、自分の正しさをどうしても譲れないときもある。正しさを振り回したい気持ちを落ち着けるために、突然こんな手紙を書いたりもする。
だけれども、そんな未熟者でも、失敗から学び少しずつ人との関係を良くしながらやってこれた。「クソだ」と思ったエネルギーで自分自身の内面にdeep diveして、自分がどんなレンズで世界を見ているかを理解できたら、一呼吸置いて、次に相手のことを深く知りに行く。それを繰り返して、自分が見る世界をもうクソだなんて思わなくてすむように視野を広げてきた。
結局、卑下しすぎず、腐らず、自分と相手に向き合い続けるしかないんだよね。だって僕らは、エンジニアである以前に、人間なのだから。
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