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soeji
日常に笑いを#2 クリーニング屋のおばあちゃん編
昨日、クリーニング屋さんに行った。
受け取りだけのはずだった。
3分で終わるはずだった。
けれど——
受付にいたのは、歯が1本しかないおばあちゃんだった。
「いらっしゃい」
そう言いながら、
どこか誇らしげに1本の歯がチラリと光る。
私は商品を受け取り、軽く会釈して帰ろうとした。
その瞬間だった。
「私ね、口が悪いのよ」
…え、今?
続けて
「娘たちにね、給料を早く欲しいって言われるの」
そこからが、長かった。
少しずつ後ずさる私。
少しずつ前に出てくるおばあちゃん。
「もうね、あの子たちは…」
「この歳になるとね…」
私の耳には、
“シュシュシュ…”と息の混じった子音が、
遠く波の音みたいに聞こえる。
ほとんど聞き取れない。
でも、なぜか温かい。
おばあちゃんは、歯がないことを恥ずかしがって
手で口元を隠すんだけど、
話に夢中になると、その手を外す。
見える歯。
たった1本の、勇者。
そのたびに、私はうなずく。
(なににうなずいてるのか、もうわからない。)
気づけば30分。
腕をつかまれ、離さない。
話は娘から、政治、天気、犬の話へ。
この人、多分、誰かと話したかったんだ。
ようやく解放された頃、
私の手にはクリーニング袋と、
なぜか飴玉が1つ。
帰り道、思った。
——人は歯が1本でも、
ちゃんと誰かの心を噛みにくる。
