カゴみたいな薬、アマンタジン。ウイルスの穴をふさいでいた薬が、なぜ脳にも効くのか
【目次】
1. アマンタジンは、見た目からしてちょっと変
2. “カゴ型”の正体、アダマンタン骨格
3. もともとはA型インフルエンザの薬だった
4. ウイルスの穴をふさぐ、という発想
5. でも、なぜ脳にも効くのか
6. アマンタジンは「きれいに説明しきれない薬」
7. メマンチンと並べるとさらに面白い
8. まとめ
────────────────────
1. アマンタジンは、見た目からしてちょっと変
薬の構造式を見ると、多くは平面的な輪っかや鎖がつながった形をしています。
ベンゼン環があって、
側鎖が伸びて、
そこに官能基がついている。
そんな薬が多い中で、アマンタジンはちょっと異質です。
構造を見ると、分子の中心がまるで“カゴ”。
平面というより、立体ブロック。
薬というより、化学パズルみたいな形をしています。
このカゴのような骨格を、アダマンタン骨格といいます。
────────────────────
2. “カゴ型”の正体、アダマンタン骨格
アマンタジンの本体部分は、アダマンタンという立体的な炭化水素骨格です。
炭素が三次元的に組み合わさっていて、かなり安定したカゴ型の構造をしています。
ここにアミノ基が1つ付いたものが、ざっくり言えばアマンタジンです。
つまりアマンタジンは、
カゴ型の脂溶性っぽい骨格
+
アミノ基
という、かなりシンプルだけどクセの強い構造をしています。
この“カゴ感”が、アマンタジンの面白さの入り口です。
────────────────────
3. もともとはA型インフルエンザの薬だった
アマンタジンは、もともとA型インフルエンザに対する薬として使われていました。
ポイントは、A型インフルエンザウイルスのM2プロトンチャネルです。
M2プロトンチャネルは、ざっくり言うとウイルスが細胞内で自分の中身を出すために必要な“穴”のような存在です。
ウイルスは細胞内に入ったあと、この仕組みを使って脱殻します。
脱殻というのは、ウイルスが外側の殻を外して、増える準備をする工程です。
アマンタジンは、このM2プロトンチャネルを邪魔することで、ウイルスの脱殻を妨げると考えられています。
かなり乱暴に言えば、
ウイルスの穴をふさいで、増える準備を邪魔する薬
ということです。
────────────────────
4. ウイルスの穴をふさぐ、という発想
ここが構造的に面白いところです。
アマンタジンは、細長い分子というより、コンパクトで立体的なカゴ型分子です。
この小さくて硬い立体構造が、チャネルの中に入り込む薬としてイメージしやすい。
もちろん、実際の結合や作用はそんなに単純ではありません。
でも記事としての感覚で言えば、
アマンタジンは“ウイルスの穴にハマるカゴ型ブロック”
と見ると、かなり覚えやすいです。
薬の構造が、そのまま作用イメージにつながるタイプの薬です。
────────────────────
5. でも、なぜ脳にも効くのか
ここからがアマンタジンの本当に面白いところです。
A型インフルエンザの薬として見るなら、
M2チャネルを阻害する薬です
で話は終わります。
でもアマンタジンは、それだけでは終わりません。
日本の医療用医薬品としては、パーキンソン症候群にも使われます。
さらに、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善にも効能があります。
つまり、
ウイルスの穴をふさぐ薬だったはずなのに、
なぜか脳の領域にも出てくる薬
なのです。
ここがめちゃくちゃ面白い。
────────────────────
6. アマンタジンは「きれいに説明しきれない薬」
アマンタジンの中枢作用は、ひとことでスパッと説明しにくい薬です。
よく出てくる説明としては、
ドパミン系への関与
NMDA受容体への関与
があります。
パーキンソン症候群は、ドパミン神経系の異常が大きく関わる病態です。
アマンタジンは、ドパミン放出促進や再取り込みへの影響などが語られることがあります。
一方で、NMDA受容体に対する弱い拮抗作用も重要なポイントです。
NMDA受容体は、グルタミン酸系の受容体の一つです。
パーキンソン病治療では、特にレボドパ誘発性ジスキネジアとの関係で、NMDA受容体拮抗作用が注目されます。
つまりアマンタジンは、
ドパミン系にも触る
グルタミン酸系にも触る
でも機序を一言で言い切るには少し難しい
という薬です。
ここが、いかにも“古くからあるけど奥が深い薬”という感じです。
────────────────────
7. メマンチンと並べるとさらに面白い
アマンタジンの構造ネタは、メマンチンと並べるとさらに面白くなります。
メマンチンも、アダマンタン骨格を持つ薬です。
メマンチンはアルツハイマー型認知症で使われる薬で、NMDA受容体に関わる薬として知られています。
つまり、
アマンタジン
→ アダマンタン骨格
→ A型インフルエンザ、パーキンソン症候群、意欲・自発性低下
メマンチン
→ アダマンタン骨格
→ NMDA受容体に関わる認知症薬
という並びになります。

ここで注意したいのは、
アダマンタン骨格だから脳に効く
と単純に言い切るのは危ないということです。
正確には、
アダマンタン骨格を持つ薬の中に、中枢神経系で使われる薬がある
くらいの見方が安全です。
でも、構造で見るとかなり印象に残ります。
カゴ型の分子が、ウイルスのチャネルにも、脳の受容体にも関係してくる。
この“構造から薬効の広がりを見る感じ”が、アマンタジンの面白さです。
────────────────────
8. まとめ
アマンタジンは、構造から見るとかなり異色の薬です。
カゴのようなアダマンタン骨格を持ち、そこにアミノ基が付いたシンプルな分子。
もともとはA型インフルエンザウイルスのM2プロトンチャネルを阻害する薬として使われました。
イメージとしては、ウイルスの穴をふさいで脱殻を邪魔する薬です。
ところがアマンタジンは、それだけでは終わりません。
パーキンソン症候群や、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下にも使われます。
中枢作用には、ドパミン系やNMDA受容体への関与が考えられています。
つまりアマンタジンは、
ウイルスの穴をふさいでいた薬が、
なぜか脳の薬にもなった
という、かなり不思議で面白い薬です。
薬の構造は、ただの図ではありません。
形を見ると、その薬のクセや歴史が見えてくることがあります。
アマンタジンはまさにそのタイプ。
構造式を見た瞬間に、
あ、こいつ普通じゃないな
と思わせてくれる薬です。
────────────────────
参考文献
・PMDA アマンタジン塩酸塩錠/細粒 添付文書
・Danysz W, et al. Amantadine: reappraisal of the timeless diamond—target updates and novel therapeutic potentials. 2021.
・Crosby NJ, et al. Amantadine for dyskinesia in Parkinson's disease. Cochrane Database Syst Rev.
・Rammes G, et al. Pharmacodynamics of Memantine: An Update. 2008.
