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森の静寂に蝶の夢☆私、蝶になります【青ブラ文学部】掌編


「足りない。足りないのよ」

私の気持ちは満たされない。

娘には分かっていた。

本当に自分が手に入れたいものが何なのか。

ただ、その手段が分からないまま、

海原を彷徨うような日々を過ごしていた。

娘は一歩外に出れば、誰もが立ち止まり

目を離せなくなるほどの美しさだった。

髪を整える。

美しい着物を纏う。

綺麗なかんざしを挿す。

更に美しさが増す。

誰もが息を呑むほどに。

だが、欲望は朽ち果てることさえしない。

いつも満たされない。

乾いた砂漠を歩いているように、

娘は何かを探し求めていた。


ある時、

どこから来たのか、無数の蝶たちが飛んでいた。

娘は立ち止まった。

じっと見ていると、その中に、ひときわ大きく美しいアゲハ蝶がいた。

堂々と、美しく飛ぶ。

周りの蝶たちがひれ伏すように見えた。

娘はハッとした。


「そうよ。これだわ。私が求めていたものは、これだったんだわ」


それから娘は、アゲハを見つけるたびに捕まえた。

虫かごに入れ、眺めた。

なんて美しいの。

なぜこんなに美しいの。

見ていると、足りなかったものが少し満たされる気がした。

でもまた、足りなくなる。

虫かごはいつしかアゲハで溢れていた。

羽が重なり、羽ばたくことも出来ないほどに。

それでも娘は捕まえ続けた。

でも、見るだけでは足りなくなった。

気づけば、一匹もいなくなっていた。

娘の足は、静寂の森へ向かっていた。

美しい蝶たちが集まる聖地。

一歩でも足を踏み入れれば呪われると、誰もが恐れた。

そんなことはどうでもよかった。


森は静かだった。

幻想的で、息をのむほど美しかった。


蝶の夢と呼ばれる泉まで来ると、蝶たちが舞い踊っていた。

その中に、アゲハがいた。

娘は、あははと笑いながら追いかけた。

捕まえるたびに、口へ運ぶ。

口の周りに金の鱗粉がへばりついた。

笑いながら、何度も繰り返した。


家に帰った。

別に何も起きなかった。

呪いなんて嘘だったのよ。

そう思いながら眠りについた。


翌朝、鏡を見た娘は、息を呑んだ。


「私、アゲハになってるわ」


何度も見直した。

うっとりした。

こんなに満たされたのは、初めてだった。

娘は喜び勇んで町へ出た。

町の人たちは悲鳴を上げて逃げた。


「化け物だ!」


娘には分からなかった。

どうして、この美しさが分からないの。

こんなに満たされているのに。

娘は町に背を向け、

美しい金粉を振りまきながら森へ戻って行った。

蝶の夢を見るように。


山根あきらさんの「企画」
『森の静寂に蝶の夢』のお題に参加させていただきました。
ありがとうございます。
#青ブラ文学部 #森の静寂に蝶の夢


toko kokonoka

このイラストは、以前描いたオリジナルです🦋

最初は、欲深すぎる気持ちへの戒めのつもりで描いたイラストでした。

顔がアゲハ蝶になった娘です。

けれど今回『森の静寂に蝶の夢』というお題をいただき、
「この子に何があったのだろう」
と考えているうちに物語になりました。

たぶんこれは、
「食べちゃいたいほど可愛い」の暴走版です💖    
            ここのか十子

#創作 #掌編 #変身譚 #和風ファンタジー

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