デジタルタトゥーを消したい【アマノ文筆クラブ】
※この物語は実話をもとにしたフィクションです。登場する名前・場所等は架空のものです。
「最近、デジタルタトゥーってよく聞くよね」
高校時代の同級生二人とランチをしていた時、その話題になった。
「一度ネットに載ると、なかなか消えないもんね」
「怖い時代だよね」
その言葉を聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのは、スマホの画面ではなく、一冊の卒業文集だった。
「ねえ、私たちの卒業文集って覚えてる?」
「懐かしい!クラスごとの文集だよね」
「急にどうしたの?」
私のクラスには、名前を書かずに一人ひとりへメッセージを書くコーナーがあった。
そこに、こんな一文が書かれていた。
「幼い時からどうも。もう忘れちゃってるよね、榊原くんのこと」
「榊原くん? そんな子いたっけ?」
二人は顔を見合わせた。
「うちの高校にはいなかったよね」
「うん。いないよ。他校の子」
高校三年の夏、バスケットボールの試合を見に行った時のことだった。
会場で、とてもかっこいい選手を見つけた。
「わー、かっこいい!」
思わず声が出た。
「ね!」
「わあ、いいよねー!」
友達と盛り上がりながら、名簿を見た。
「榊原くんっていうんだ」
それだけだった。
下の名前は覚えてない。
話したこともない。
向こうは私の存在すら知らない。
その頃、私は彼氏と付き合っていた。
その場にいた彼女も、
「千春!榊原くん、あの辺にいたよ」
と、普通に話していた。
後から思えば、誰にでもあるような、ただの高校生の会話だった。
ところが卒業文集には、まるで私が秘密の恋でもしていたかのように、その名前だけが残されていた。
実は、その子には前から思い当たることがあった。
私は、その子に、
何かあるたびに、
「千春ばっかりずるい」
と言われていた。
彼氏と別れた日には、教室中に響く声で、
「えー、なんで別れたのー!」
と言われたこともある。
今思えば、あの卒業文集の一文も、その延長だったのかもしれない。
ランチの席で話を聞いた友人が、ぽつりと言った。
「それ、今で言うデジタルタトゥーみたいなものだね」
私は笑って答えた。
「ううん。これは、アナログタトゥー」
二人は「確かにね」と笑った。
ネットがない時代にも、消えない記録はあった。
紙に書かれた、たった一行。
書いた本人は、もう忘れているかもしれない。
けれど、書かれた私は何十年経った今でも覚えている。
デジタルタトゥーという言葉が生まれる、ずっと前。
私はすでに、消せない一行を背負っていた。
――なんて、今さら達観したふりをしてみせても。
「私は一途だわ!!誤解されるようなこと書かないでよ!!この一行、消してよ!!」
卒業式の日。あの子の前で思い切り叫んでやりたかった。
甘野 充さんのお題『デジタルタトゥーを消したい』に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
今回は、画像もお借りしました。ありがとうございます😊
#アマノ文筆クラブ #デジタルタトゥーを消したい
前回のお題はこちら↓↓↓
