名前が強すぎて【せりふ三題噺】ショートショート
俺が朝目を覚ますと、姉貴がソファでスマホを食い入るように見つめていた。
「おはよう。朝から何見てるんだ?」
「はぁ!? よしお、あんた知らないの? 今、日本中で一番イケてる俳優よ!」
「誰?」
「サンバルソース豚さん」
「……調味料と家畜じゃねえか」
「失礼ね!」
姉貴はスマホを突きつけてきた。とんでもないイケメンだった。
「ハーフで彗星みたいに現れて、映画もドラマもCMも引っ張りだこ。あんた本当に知らなかったの?」
「いや、名前!どう聞いてもおかしいだろ!」
半信半疑でテレビをつけると、どのチャンネルもサンバルソース豚さんだらけ。
「……なんでその名前で天下取れたんだよ」
俺がつぶやくと、姉貴がギロリと睨んだ。
「姉貴、この豚って奴――」
バチーン!
「いってぇ!」
「あんたみたいな彼女もいないオタクが、気安く豚さんなんて呼ばないで!」
「はぁ!? じゃあ何て呼べばいいんだよ!」
「サンさん! ファンはみんなそう呼ぶの!」
「調味料のほうかよ……」
うんざりした俺は冷蔵庫を開けた。
「氷食べる? 特製だけど」
何も考えず口に放り込んだ瞬間——
「ぎゃあああっ! 辛っ!!」
「試しに作ったサンバルソース入りの激辛氷よ。サンさんをバカにした罰」
「こんな罰あるか!」
苛立って自室に戻り、布団に潜り込んだ。
……はっ。
目が覚めると、もう朝だった。
あれ? 昨日のサンバルソース豚……夢だったのか。
ほっと胸をなでおろしてリビングに行くと、姉貴がまたスマホに夢中になっていた。
「よしお! これ見て!」
「まさか……またサンバルソース豚じゃないだろうな?」
姉貴はきょとんとした顔で言った。
「はぁ? 何言ってんの?」
よかった。やっぱり夢だった——
と思った瞬間、姉貴が満面の笑みでスマホを突き出した。
「今、日本中で大人気のイケメン!」
「ガラムマサラ牛よ!」
俺はゆっくり瞼を閉じ、深いため息をついた。
「調味料と家畜をくっつけるの、流行ってんのか……」
「ガラさんって呼ぶのが常識よ」
「今度はスパイスのほうかよ……」
「これはきついって」
はらとけいさんの企画に、初めて参加させていただきました。
締め切り間際の滑り込み参加です。
ありがとうございます。
◾️セリフ
「これはきついって」
◾️三題
・氷
・サンバルソース
・豚
#せりふ三題噺
#氷サンバルソース豚
