汽水域に咲く花【青ブラ文学部】──間にいるから咲ける
「後期のクラス委員長は百合さんにお願いしたいと思います」
えっ……
百合は驚いて固まった。
「委員長って男子がやるのに、なんでうちのクラスは女子がやるんですか?」
そんな質問を投げかけるクラスの男子。
百合は下を向く。
「先生は前期の間、皆さんを見てきました。その中で後期は百合さんにやってもらいたいと思ったからです」
みんなは、ふーんという感じだった。
まっ、あいつならいいかもな。
百合ちゃんで良かった。
そんな声も聞こえた。
放課になったとき、百合は担任のところへ行った。
「先生、私なんかが委員長やってもいいんですか?」
先生は笑って答えた。
「百合さんはね、誰かの意見を聞いて、それで終わりにしないでしょう。ちゃんと、別の子の意見も聞きに行く。だから先生は、後期はあなたって決めていたの」
百合は驚いた。
そんなことを全く意識していなかった。
百合は誰とでも分け隔てなく接する。
そのせいで、「八方美人だよね」と言われたこともあった。
家に帰ると、百合は父の部屋をのぞいた。
机には書きかけの原稿が置かれ、部屋の隅には釣り竿が立てかけられている。
百合は困ったことがあると、いつも父に相談していた。
父親は言った。
「百合は、汽水域みたいだな」
「汽水域?」
聞き慣れない言葉だった。
「川の水と海の水が混ざる場所だよ」
父は続けた。
「海の魚も、川の魚も、その場所では一緒に生きている。不思議だろう?」
百合は黙って聞いていた。
「どちらか一つになれないことは、悪いことじゃない」
父は笑った。
「間にいるから見えるものもあるんだ」
その言葉が、百合の胸に残った。
「パパ」
「ん?」
「その場所に行ってみたい」
父は少し驚いた顔をしたあと、笑った。
「いいぞ」
休日の日。
二人は川と海が交わる場所へ向かった。
潮の香り。
川の流れ。
違うものが混ざり合う、不思議な場所。
百合は辺りを見渡した。
その時だった。
「あ……」
そこには、一輪の花が咲いていた。
見たことのない、美しい花。
強い日差しを浴びながら、潮の流れにも負けず、静かに咲いている。
百合は息をのんだ。
「こんな場所で、どうしてこんなに綺麗に咲けるの?」
父は花を見つめながら言った。
「きっと、この場所だったからだろうな」
百合は、その花を見つめた。
海だけでもない。
川だけでもない。
どちらでもないからこそ、生まれる美しさがある。
自分には、自分だからできることがある。
汽水域に咲く花のように。
「パパ、見て!」
振り向くと、百合は両手を高く上げて、手のひらを花が咲くようにパカっと開いた。
「わたしも、ほら。ここで咲く百合の花!」
父は声を立てて笑った。
「そうか」
優しい風が、汽水域を吹き抜ける。
揺れる花を見つめながら、百合も笑った。
山根あきらさんのお題『汽水域に咲く花』に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
#青ブラ文学部 #汽水域の花
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