Ca-030:艇仔粥│海鮮粥
台湾人に「廣東料理と言えば?」と尋ねると、まず名前が挙がるのが「廣東粥」。日本ではシューマイやエビギョーザが有名ですが、台湾ではなんといっても「粥」。それほどまでに台湾の街に、舌に、溶け込んでいるんですね。
さて、ところ変わって本場広東省。太陽の光が真横から差し込むほどの早朝でも、粥の専門店では、以前紹介した皮蛋痩肉粥を筆頭に、様々な種類の粥を注文する人たちがごった返します。
中でも「艇仔粥(Ting zai zuk)、ティンザイジュク)」は、忙しい人々の朝の力強い味方として親しまれています。
多種多様な具材が器の中で混ざり合うその姿から、まるで道教の神が一堂に会したような、賑やかでありがたい存在。消化も腹持ちも良く、最低限のたんぱく質、食物繊維、ビタミンを簡単に摂取できます。
「艇仔粥」は、広州の伝統的な「生滾粥(具材を熱々のお粥で瞬時に煮るスタイル)」を代表する粥の一種です。長い時間煮込んで作るタイプの粥ではないんですね。ベースとなるのは、米粒の形がなくなるまでじっくりと炊き上げた白粥。そこに、生の魚の薄切り、揚げたピーナッツ、イカ、豚の皮(浮皮)、クラゲ、さらには油条(中華揚げパン)や牛のバラ肉など、十数種類に及ぶ具材を組み合わせ、沸騰させることで瞬時に火を通して提供します。寸銅にあらかじめ準備された具材を、大きな丸いおたまでひっかけるように集め、白粥に投入。軽くかき混ぜて完成。わずか1分ほどの早業です。
口に運べば、お粥の滑らかさと具材の複雑な食感が見事に和合し、気持ちを落ちつける柔らかな旨味が味わえます。
…アツアツですが、時間帯によってはゆっくり食べる料理ではないのが玉に瑕です。
さて、料理名にある「艇仔」とは、広東語で「小さなボート(サンパン)」を意味する愛称のことです。料理名を直訳すれば「小舟のお粥」となります。かつての広州、特に荔湾(レイワン)地区の川沿いでは、このお粥を売る小舟が水面を埋め尽くしていました。名前に「仔」という広東語で親しみを込めた接尾辞がついているのは、この料理が庶民の生活に寄り添い、あまりにも身近な存在だからに他なりません。
粥自体は古い歴史を持ちますが、特に「艇仔粥」の起源は清代の広州にまで遡ります。広州の西部に位置する「荔湾」は、かつて風光明媚な景勝地として知られていました。清代唯一開かれていた港として、外国人や貿易商が多く訪れていた広州。そんな彼らが業務の息抜きに訪れる一大観光地だったのです。夕暮れ時、観光客を乗せた遊覧船の間を縫うように、「艇仔」と呼ばれる小舟がお粥を売って歩きました。もともとは漁師たちが獲れたての小魚や具材を適当に入れて作った暢気な賄い飯で、その日の漁を終えた漁師たちが、売れ残った小魚で作ったものを誰かが買ってくれればいいや、くらいの気持ちで始めた小遣い稼ぎだったのです。
したが、その美味しさが評判となり、やがて高級茶楼でも提供されるようになりました。
こうして生まれた「艇仔粥」は、香港や南洋地方にも伝わり独自のスタイルを生み出しました。香港では広州から伝わった後、より豪華な具材(乾燥ホタテや豚のモツなど)を加える高級化という進化を遂げました。対してシンガポール・マレーシアでは、南洋へ渡った広東移民たちが、現地の新鮮な魚介を使い、よりパンチの効いたスパイシーな味付けへと再構築しました。こちらはローカライズの代表例です。そして日本。日本では「海鮮粥」の代表格として受け入れられ、胃腸をいたわる料理として受容されました。
広東の人々にとっての艇仔粥は、一日の始まりを告げる文化としての一側面を持ちます。パリッとした仕事着に身を包んだ父と母、制服を着こんだ通学前の子供たち、それぞれが目的地に向かう前に、皆で大きな門をくぐり、お粥を囲む。あなたも、現地で早朝に粥をすすれば、日本とはまた異なる文化の力と、倫理観を見ることができるでしょう。
現代の広州では、かつてのような小舟でお粥を売る光景はほとんど姿を消しました。しかし、お粥の専門店では炭火を使い、伝統的な土鍋(砂鍋)で炊き上げるスタイルを守り続けています。近代的なビル群の足元で、古きを守りつつ新しきを成す。これはまさに健全な文化の代謝の形です。一度訪れて味わい、そして10年ほど後にもう一度その味を楽しむ。そこにある変化に思いを馳せ、変化しないものを感じる。こういう料理の楽しみ方も乙というものです。
それではレシピ行ってみましょう。
【初級編】家庭で楽しむ「お手軽・艇仔粥」

(難易度) ☆
(調理時間) 40分
・材料:
白米 1/2合
鶏むね肉 50g
白身魚(刺身) 4枚
揚げピーナッツ 適量
油揚げ 1/2枚
生姜 1片
青ねぎ 少々
・調味料:
鶏ガラスープの素 大さじ1
塩 小さじ1/2
ごま油 少々
・調理方法:
鍋に米と水800mlを入れ、強火にかける。沸騰したら弱火にし、蓋をずらして米が割れるまで30分煮る。
鶏肉は細切り、油揚げは軽く焼いて細切りにする。
お粥に鶏肉、生姜、スープの素、塩を加え、さらに5分煮る。
器に刺身、揚げピーナッツ、油揚げを入れ、熱々のお粥を注ぐ。
最後にねぎとごま油を散らす。
注意点: 米を煮る際は、時々底を混ぜて焦げ付きを防ぎましょう。油揚げを油条(揚げパン)の代わりに使用することで、家庭でも食感を再現できます。刺身で食べられる白身魚は、生を出来上がった粥の上に乗せても良いでしょう。少しだけ火を通して塩で食べるのもなかなか乙です。
【中級編】こだわりの「本格・荔湾風艇仔粥」

(難易度) ☆☆
(調理時間) 60分以上
・材料:
タイ米(ジャスミン米)と日本米(1:1) 1合
乾燥ホタテ 2個
豚の皮(浮皮、なければ春雨の揚げたもの) 20g
イカ 50g
草魚(または鯛)の薄切り 6枚
クラゲ 30g
油条 1本
・調味料:
ピーナッツオイル 大さじ1
塩 適量
白胡椒 少々
生姜の千切り たっぷり
・調理方法:
米を洗い、少量の油と塩(分量外)をまぶして30分「内省(休止)」させ、組織を脆くする。
戻したホタテの出汁と水を合わせて1.5Lにし、米を強火で20分間、粘りが出るまで激しく炊き上げる。
浮皮は湯戻しして一口大に、イカは細切りにする。
お粥の鍋にイカを入れ、火を通す。
器に魚の身、クラゲ、生姜を敷き、沸騰したお粥を注ぎ込む。
仕上げに揚げたての油条とピーナッツを乗せる。
・注意点: 米を先に油で和えることで、煮ている間に粒が早く弾け、滑らかな質感になります。魚の骨で出汁を取ったスープで炊くと、より一層深みが出ます。
【上級編】究極の至宝「五星級・老広艇仔粥」

(難易度) ☆☆☆
(調理時間) 4時間以上
・材料:
古米(インディカ種) 1合
最高級乾燥貝柱 4個、自家製ラード 少々
新鮮な魚の腹身(薄切り) 100g
特選クラゲの頭 適量
乾燥イカ(戻したもの) 適量
豚の軟骨煮込み 適量
自家製油条 適量
揚げたてのピーナッツ 適量
・調味料:
老鶏と豚骨で取った清湯 2L
岩塩 適量
白胡椒 適量
最上級生抽(醤油) 適量
酒(好みで) 適量
・調理方法:
米を凍らせて細胞を破壊し、老鶏の清湯で3時間、炭火のような安定した熱で「漿(ペースト状)」になるまで炊き続ける。
草魚は皮を取り除き、0.5mmの極薄に切り揃える。塩で一瞬だけ下味をつける(好みの酒があればこの時振りかける)。
豚の浮皮はラードで揚げ、その後鶏スープで煮含めて旨味を最大限に吸わせる。
予熱した磁器の器に全ての具材を美しく配置。
沸騰直後の、表面が「カニの泡」のように弾ける状態のお粥を一気に注ぎ、蓋をして1分間、余熱で魚の身を柔らかく仕上げる。
・注意点: 粥の粘度が具材の余熱調理をコントロールします。1分の蒸らしを忘れずに。最後に振りかける白胡椒は、挽きたてで香りが高いものを。
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コーヒーが好きだ。とくにミルクコーヒー。外出の予定がない時は、これにハチミツ酒をひとさじ加えて飲む。これがまたすこぶるいい。それぞれの銘柄を変えると、がらりと味が変わる。どうだい?一杯おごってはくれないか?