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食べても満たされない理由―“意志の弱さ”ではなく、食欲と栄養バランスから考える太りにくい食べ方「食欲人」を小学生にも分かるように説明します。


食欲人

著者 デイヴィッド・ローベンハイマー





この本は、私たちが「なぜお腹がいっぱいなのに、ついつい食べすぎてしまうのか」「なぜ世界中で太っている人がものすごい勢いで増えているのか」という大きな謎を、生き物の研究から解き明かしたすごい本です。

バッタやコオロギ、ハエ、マウス、そして野生のサルなど、たくさんの動物たちから学んだ驚きの事実を、順番に見ていきましょう。


食べ物の謎:バッタや粘菌が教えてくれた「食欲」の秘密。

私たちは、毎日健康のために「色々なものを食べて栄養のバランスを考えなさい」と教えられますよね。

でも、野生の動物たちは、栄養の計算なんてまったくしないのに、どうして健康でいられるのでしょうか。

たとえば、ステラという名前の野生のヒヒを30日間ずっと観察した研究があります。

ステラは毎日90種類もの食べ物を、その日の気分でバラバラに食べているように見えました。

しかし、集めたデータを詳しく調べてみると、タンパク質を1とすると、脂肪と炭水化物が5という、ヒヒにとって完璧な栄養バランスを、毎日正確に守っていたのです。

ステラは栄養士さんでもないのに、直感だけで完璧な食事をしていました。

もっと驚くのは、「粘菌」という生き物の話です。

粘菌には脳もなければ、手足もありません。

ある研究者が、タンパク質と炭水化物の比率がそれぞれ違う11種類のゼリーを並べたお皿の真ん中に、粘菌の小さなかけらを置きました。

すると翌日、粘菌はタンパク質と炭水化物が「2対1」の比率になっているゼリーだけに向かって体を伸ばし、ほかのゼリーは完全に無視したのです。

この2対1という比率は、粘菌が一番元気に成長できる最高のバランスでした。

脳がない生き物でさえ、自分に一番合った栄養を正確に知っているのです。

なぜ動物たちにそんなことができるのかを調べるために、著者たちはオックスフォード大学の地下室で、200匹のバッタを使った大実験を行いました。

バッタを1匹ずつ小さな箱に入れ、タンパク質と炭水化物の割合が違う25種類の餌を与え、毎日どれだけ食べて、どれだけフンをしたかをはかるという、気の遠くなるような実験です。

研究者たちは毎日お世話をして、0.1グラム単位で餌の重さを量り続けました。

その結果、バッタはタンパク質と炭水化物の両方を、自分にとって一番良い量まで食べようとすることがわかりました。

これを「摂取ターゲット」と呼びます。

さらに、生き物のタンパク質への欲求はとても強烈です。

アメリカのユタ州で大発生するモルモンコオロギという虫は、道路を渡るときに車にひかれた仲間の死骸をむさぼり食います。

周りには草がたくさんあるのに、です。

彼らが仲間を食べていた理由は、どうしても「タンパク質」が欲しかったからです。

バッタの仲間は、タンパク質のためなら共食いだってしてしまうのです。

また、手術で下半身が麻痺したバッタを同じ箱に入れておくと、前のバッタの下半身を後ろのバッタが食べてしまうという恐ろしい光景も見られました。

それほどまでに、タンパク質を求める力は強いのです。


5つの「食欲」:生き物は計算なしで栄養バランスをとる天才。

実は、食欲というのは「お腹がすいたから何か食べたい」という1つの感情だけではありません。

生き物には、大きく分けて5つの食欲があることがわかっています。

それは「タンパク質」「炭水化物」「脂肪」「塩(ナトリウム)」「カルシウム」に対する5つの食欲です。

これらを「ビッグ5」と呼びます。

なぜこの5つなのかというと、これらは生き物にとって絶対に必要で、しかも自然界ではなかなか手に入りにくい貴重な栄養素だったからです。

動物の体の中には、これらの栄養素が足りているか、不足しているかを感じ取るセンサーがあります。

バッタの場合、足や口の周りにセンサーがあり、タンパク質が不足しているときは、タンパク質に触れると「これを食べろ!」と脳に電気信号を送ります。

逆に、タンパク質が足りているときは、センサーはタンパク質を完全に無視して、ほかの足りない栄養を探します。

嫌われ者のゴキブリも、実は栄養をコントロールする天才です。

ある実験で、ゴキブリに最初は「炭水化物ばかりの餌」を与え、そのあとで色々な餌を自由に選べるビュッフェに連れて行きました。

するとゴキブリは、最初は不足していた「タンパク質」の餌にまっしぐらに向かい、バランスを取り戻すと、その後は完璧な比率で全ての餌をバランスよく食べ続けたのです。

肉食動物であるクモやイヌ、ネコでさえ、ただお肉を食べているわけではありません。

自分に脂肪が足りないときは太ったハエをたくさん食べ、タンパク質が足りないときはやせたハエを食べるなどして、栄養を調節しています。

さらに、イヌは長い間人間と一緒に暮らして人間の残飯を食べてきたので、オオカミなどのほかの肉食動物よりも、でんぷんなどの炭水化物をうまく消化できるように進化しました。

野生の動物たちは、5つの食欲が協力し合うことで、計算機なんてなくても、ミサイルのように正確に、自分に必要な栄養のバランスを保つことができるのです。


人間も同じ!「タンパク質ファースト」の仕組み。

野生動物が食欲を使って完璧なバランスで食べていることはわかりました。

では、私たち人間はどうなのでしょうか。

人間は動物とは違って、文化や好き嫌いがあるから、食欲の本能なんて失われているのでしょうか。

それを調べるために、スイスの山小屋に大学生たちを集めて実験を行いました。

最初の2日間は肉や魚、パン、野菜などのビュッフェから好きなものを自由に食べてもらい、次の2日間は、大学生たちを2つのグループに分けました。

一つのグループには「タンパク質が多い食事」だけを、もう一つのグループには「タンパク質が少なく、炭水化物と脂肪が多い食事」だけを与えました。

結果は、バッタの実験と全く同じでした。

人間も、体が必要とする「タンパク質の量(ターゲット)」が決まっていて、その目標の量を満たすまで食べるのをやめなかったのです。

「タンパク質が少ない食事」を与えられたグループは、体に必要なタンパク質をとるために、炭水化物や脂肪を普段より35パーセントも多く食べてしまいました。

カロリーでいうと大オーバーです。

逆に、「タンパク質が多い食事」を与えられたグループは、タンパク質の必要量にすぐ達してしまったため、食べるのをやめ、カロリーが普段より38パーセントも減りました。

このように、人間も他の動物と同じように「タンパク質の目標量」を一番優先して達成しようとします。

これを「タンパク質レバレッジ」と呼びます。

レバレッジというのは「てこの原理」のことで、タンパク質の少しの変化が、全体の食べる量に大きな影響を与えるという意味です。

タンパク質が少ない食事をしていると、体は「もっとタンパク質をくれ!」と命令し続けるので、私たちは炭水化物や脂肪を余分に食べすぎてしまい、結果として太ってしまうのです。


長生きのひみつ:タンパク質のとりすぎは寿命を縮める?。

「タンパク質をたくさん食べれば、カロリーが減って痩せるんだ!じゃあ、お肉やタンパク質ばかり食べれば健康になれるね!」と思うかもしれません。

でも、自然の仕組みはそんなに単純ではありませんでした。

なぜ動物は、タンパク質をとりすぎることを嫌がるのでしょうか。

著者たちは、ショウジョウバエという小さなハエ1000匹を使って、様々な栄養バランスの餌を与え、一生を観察する実験をしました。

その結果、「低タンパク質・高炭水化物」の餌を食べたハエが一番長生きしたのです。

逆に、「高タンパク質・低炭水化物」の餌を食べたハエは一番早く死んでしまいました。

ただし、高タンパク質のハエは、寿命は短いかわりに、卵を一番多く産みました。

これはマウスというネズミを使った、6トンもの餌と5年の年月をかけた大実験でも同じでした。

寿命が一番長かったのは、やはり「低タンパク質・高炭水化物」の餌を食べたマウスでした。

このマウスたちは、長生きしただけでなく、中高年になっても心臓や血管の健康状態が一番良く、テロメアという細胞の寿命に関わる染色体の長さも長く保たれていました。

どうしてこんなことが起きるのでしょうか。

生き物の体の中には、「長寿(長生き)の経路」と「成長・繁殖の経路」という2つの働きがあります。

タンパク質をたくさん食べると「成長・繁殖」のスイッチが入り、体はどんどん新しく作られますが、そのかわり細胞やDNAの修理がおろそかになり、老化が早く進んでしまいます。

反対に、タンパク質を少し減らして炭水化物を多くとると「長生き」のスイッチが入り、細胞やDNAを丁寧に修理して、体を長持ちさせようとするのです。

沖縄の昔の人たちや、ボリビアのチマネ族など、世界の長生きの地域の人たちの食事を調べると、みんなタンパク質が少なめで、お芋や野菜などの良質な炭水化物と食物繊維をたっぷり食べていました。

タンパク質は大切ですが、とりすぎると寿命を縮めてしまう危険があるのです。


なぜ太るの?「超加工食品」という現代のワナ。

長生きするには「低タンパク質・高炭水化物」が良いとわかりました。

しかし、ここで大きな問題があります。

「低タンパク質・高炭水化物」の食事をすると、タンパク質の目標を達成しようとして、カロリーをとりすぎて太ってしまうのではなかったでしょうか。

実は、人間が太る原因は、炭水化物そのものではなく「食物繊維」が関係しています。

ボルネオの森に住む野生のオランウータンは、果物がたくさんとれる季節には、果物をものすごい量食べて太ります。

これは、果物にはタンパク質が少ないため、必要なタンパク質をとるために、果物の炭水化物と脂肪を大量に食べるからです。

人間の場合、果物を食べすぎて太ることはあまりありません。

なぜなら、果物には「食物繊維」がたっぷり含まれているからです。

食物繊維は胃の中で膨らんで、食欲にブレーキをかけてくれます。

りんごを4個続けて食べるのは無理でも、繊維を絞り捨てたりんごジュースなら簡単に飲めてしまうのと同じです。

今の世界で、人々が急激に太っている最大の原因は「超加工食品」です。

ポテトチップス、カップ麺、アイスクリーム、甘いジュースなど、工場で色々な化学物質を混ぜて作られた食品のことです。

アイスクリームには、ペンキやシャンプー、香水などに使われるのと同じような化学物質がたくさん入っていることもあります。

超加工食品は、美味しくするために油や砂糖がたっぷり使われているのに、タンパク質は少なく、そして何より「食物繊維」が完全に取り除かれています。

食物繊維のブレーキがないからお腹がいっぱいにならず、しかもタンパク質が少ないから、体は「もっとタンパク質を!」と叫び続けます。

その結果、私たちは超加工食品を延々と食べ続けてしまい、ブクブクと太ってしまうのです。


利益を求める会社と、狂ってしまった人間の食環境。

では、なぜ食品会社は、私たちを太らせるような「超加工食品」ばかりを作って売るのでしょうか。

理由はとてもシンプルで、「お金儲けのため」です。

食べ物を作る材料の中で、タンパク質は値段が高いのですが、炭水化物や脂肪はとても安く手に入ります。

だから、高いタンパク質を減らして、安い油や砂糖をたくさん使い、そこに工場で作った人工の「うまみ」や「香り」を混ぜれば、とても安くお菓子や加工食品を作ることができます。

さらに、タンパク質が少ない食品を食べると、人間の「タンパク質を求める食欲」が刺激されて、消費者はその食品を大量に食べてくれます。

つまり、安く作れて、しかもたくさん売れるという、会社にとっては夢のような商品なのです。

食品会社は、あの手この手で私たちに商品を買わせようとします。

テレビやゲームの広告を使って子供たちの心を惹きつけたり、パッケージに「緑色」を使って健康そうに見せかけたり、「フルーツ果汁入り」「コレステロールゼロ」といった言葉で、体に良いものだと勘違いさせたりします。

また、巨大な食品会社はたくさんのお金を使って政治家に働きかけ、自分たちに都合の悪いルールを作らせないようにしています。

アメリカでは、学校の給食に野菜を増やそうとしたとき、ピザを作る会社が猛反対して、「ピザのトマトソースは野菜だから、ピザは野菜だ!」という無茶苦茶なルールを作らせてしまったことまであります。

昔、タバコ会社が「タバコは健康に悪くない」とウソをつき続けたのと同じように、食品会社も真実を隠そうとしています。

私たちの食環境は、企業のお金儲けのせいで、完全に狂ってしまっているのです。


私たちが健康に生きるためのルール。

このように、現代の食環境は危険な罠でいっぱいです。

では、私たちはどのようにして健康な体と食生活を守ればいいのでしょうか。

この本から学べる、大切なルールをいくつか紹介します。

第一に、「超加工食品を避ける」ことです。

一番良い方法は、家の中に持ち込まないこと。

工場で作られた、見慣れない化学物質の名前がたくさん書いてあるような食品は、私たちの食欲を狂わせるように作られています。

できるだけ自然な形の食べ物を選びましょう。

第二に、「自分に必要なタンパク質の量を知り、良質なものを食べる」ことです。

年齢によって必要なタンパク質の量は違います。

成長期の子供や、お年寄りは少し多めに必要ですし、中年の大人は少し少なめが良いとされています。

肉、魚、卵、大豆などから、しっかりタンパク質をとりましょう。

第三に、「食物繊維をたっぷり食べる」ことです。

野菜、果物、豆類、お米や麦の粒がそのまま残っている全粒穀物には、食物繊維がたくさん含まれています。

これが食欲のブレーキになり、食べすぎを防いでくれます。

第四に、「カロリーの数字ばかり気にしない」ことです。

きちんとタンパク質と食物繊維をとる食事をしていれば、動物が本能でやっているように、私たちの体は自然とカロリー計算をして、ちょうどいい量で食べるのをやめることができます。

第五に、「自分の食欲の声をよく聞く」ことです。

もし急に「しょっぱいものが食べたい」「うまみのあるものが食べたい」と思ったら、それは体が「タンパク質が足りないよ」と教えてくれているサインです。

その時にポテトチップスなどのジャンクフードを食べるのではなく、お肉や魚などの良質なタンパク質を食べるようにしましょう。

最後は、夜更かしをせずに「しっかり眠ること」、外に出て「体を動かすこと」、そして自分で料理をして「楽しく食べること」です。

私たちの体は、何百万年もかけて自然の中で進化してきました。

その体の仕組みに逆らうのではなく、正しい知識を持って協力してあげることで、私たちは一生、健康で美味しく食事を楽しむことができるのです。

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