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育休もらい逃げは違法?雇用保険の仕組みと誰が損をするのかを徹底解説

はじめに

最近、「育休もらい逃げ」という言葉がSNSで話題になっています。 育休を取得したあとに復職せず退職した、また、産休・育休を繰り返し、そのまま辞めていった——そんな話を聞くと、モヤっとする人がいるのも無理はありません。 一方で、「制度として認められているなら問題ないのでは?」という声もあります。

では実際に、育休もらい逃げはいけないことなのでしょうか?誰かが損をしているのでしょうか? この記事では、感情論ではなく、制度・歴史・数字をもとに整理していきます。


1.「育休もらい逃げ」と呼ばれる実際のケース

実際に私が記事やコメントで拝見したケースは、以下のようなものでした。

  • 育休を取得したあと、復職せず転職・退職する

  • 育休中にキャリアの方向性が変わり、フリーランスや別の働き方を選ぶ

  • 入職後すぐに病気休暇→産休・育休となり、ほとんど出勤せずに退職する

まず、制度として、上記のようなパターンは実際に成立するのでしょうか。育休とその給付金について、整理してみましょう。

①育休を取る人が「実際にもらえるお金」と制度の話

育休は「休んでも雇用が続く」制度です。 まず前提として、育児休業(育休)は「退職」ではありません。仕事を辞めずに、一定期間休む権利です。対象になるのは、以下の条件を満たす方です。

  • 雇用保険に加入していること(アルバイトなども一定の条件で対象)

  • 育休開始前の2年間で、一定以上の就労実績があること(例:11日以上働いた月が12ヶ月以上など)

  • 育休を申請・会社に届け出ていること(会社が雇用保険申請手続きを行う)

期間は原則、子どもが1歳になるまでですが、保育園に入れないなどの事情があれば、最長2歳まで延長できます。ですので、まず上記条件を満たしている方は育休取得が可能です。

そして、その間の収入は「給料」ではなく「給付金」です。 育休中は基本的には会社からの給料は支払われません。その代わりに支えになるのが、雇用保険から出る「育児休業給付金」です。
ここがまず、よく誤解されるポイントです。育休中のお金は「会社が払っている」のではなく、あくまで雇用保険からの給付なのです。

②育児休業給付金の基本

育休を取る人が受け取れる基本の給付金は、次のような仕組みです。

  • 育休開始から最初の約6か月: 休業前の賃金の67%

  • それ以降、原則1歳まで: 休業前の賃金の50%

この「賃金」は、育休に入る前6か月間の平均で計算されます。ポイントは、給付金は非課税であり、育休中は社会保険料(健康保険・年金)が免除されるという点です。そのため、額面だけを見ると少なく感じても、手取り感覚では意外と差が小さいと感じる人も多いです。

また、この育休中に次の子を妊娠したとすると、タイミングによって、育休から復帰後に産休→育休になる場合と、育休からそのまま産休→育休になる場合があります。
この場合の給付金については、あくまで給与6か月が基準になります。育休の給付金は給与ではないので、育休→産休→育休の場合は、最初の育休前の給与で計算、つまり基準額は変わりません(給付率は2人目の育休に入った時点で67%に戻ります)。

一方、一時復帰を挟んだ場合ですが、こちらでも基準はあくまで給与6か月の平均なので、仮に1か月だけ復帰したとすると、「復帰後1か月と最初の育休前5か月の平均」になります。ですので、仮に1か月だけ時短などを使っても、そこまでの影響はありません。しかし、復帰後6か月時短で勤務してからの育休となると、それなりに影響は出ると思います。

③保育園の申請による延長について

ここで補足をしておきます。
中には、育休期間を延ばすために、1つの保育園だけ申請して、当選できなかったことによる延長を狙うというケースがあるようです。
これについては、実際は運任せでしかなく、口で言うほど簡単ではありません。 なぜなら、当選した場合はその園に行かなければならず、もし断った場合は育休延長の対象にならないためです。また、育休延長には行政からの「保育所不承諾通知書」が必要となります。ですので、自己申告でごまかすことはできません。

1つの園だけ申請して……というのは理論上は可能ですが、仮に遠いけれど倍率が高いという1か所だけ申し込んだとして、そこに当選してしまった場合は、そこに通って職場復帰するしか方法がなくなります。ですので、現実的には「自分が希望する1か所の保育園を申請して、ダメだったら延長、当選したら入園して職場復帰」というのが現実的な路線だと思います。
これは制度の悪用ではなく、自分が仕事復帰した際に、送迎などの都合で自宅から近い保育園を選ぶのは当たり前のことですよね。

④復職義務と法律の壁

そして、肝心の「育休から職場復帰せずに退職」についてですが、育休は法律的に「復職義務」を求めていません。 育休の根拠となる法律は「育児・介護休業法」です。この法律で定められているのは、以下の3点が中心です。

  1. 労働者が育休を請求する権利

  2. 会社がそれを拒否してはいけない義務

  3. 育休取得を理由に不利益な扱いをしてはいけないこと

ここを何度読み返しても、「育休後は必ず復職しなければならない」「復職しない場合は給付金を返還する」といった条文は、どこにも存在しません。 育休とは、「復職を条件に与えられる特典」ではなく、働き続ける選択肢を法律で確保する制度です。その結果として、家庭事情や環境の変化により、復職せず退職を選ぶことがあっても、それ自体が制度違反になることはありません。

一方、「雇用保険法」にも復職要件はありません。育児休業給付金は雇用保険法に基づく給付ですが、支給要件は、

1.雇用保険に加入していること
2.一定の加入・就労実績があること
3.育児休業を取得していること

上記3点が中心になります。
ここにも、育休後に復職することや、復職して何か月以上働くことといった条件は存在しません。
なぜなら、育休給付金は「将来の労働に対する報酬」ではなく、これまで支払ってきた雇用保険料に基づく社会保険給付だからです。病気のときに傷病手当金を受け取っても、その後必ず同じ会社に戻らなければならないわけではないのと同様、育休給付金も考え方は同じです。

そもそも、退職は労働者の権利として認められており、民法627条では、期間の定めのない雇用契約であれば、労働者はいつでも退職の意思表示ができると定められています。育休中であっても、妊娠中であっても、この原則は変わりません。「育休中だから辞められない」という法的根拠は、存在しないのです。

⑤会社側が「復職前提」の契約を結べるか

結論から言うと、会社が育休を「復職前提」の条件付きで扱うことはできません。これも法的根拠があり、育児・介護休業法では、育休取得を理由とした不利益取扱いや、権利行使を妨げる行為が禁止されています。つまり、「復職するなら育休を認める」「辞める可能性があるなら育休はダメ」といった扱いは、違法になる可能性が高いです。

一方、「復職意思の確認」自体に問題はなく、復職予定時期を聞いたり配置計画の相談をしたりするヒアリング自体は問題ありません。しかし、書面で「必ず復職する」と誓約させたり、復職しなかった場合のペナルティを示したり、復職前提でないと育休を認めないといったところまで踏み込むと、法的にはかなり危険なラインになります。

⑥どこからが「不正受給」なのか

復職せずに退職したこと自体は、不正受給ではありません。不正受給になるのは、事実と違う申告をした場合、あるいは制度の前提を偽った場合です。たとえば、以下のようなケースです。

  • 実質的に退職が確定していたのに、それを隠して育休を申請した

  • 育休中に働いていたのに申告しなかった

  • 休業していないのに、休業しているように見せた

こうしたケースは、明確に不正受給に該当します。ポイントは、「将来辞める可能性があったか」ではなく、「その時点で、嘘をついていたかどうか」です。

ですので、仮に育休中に転職活動をするだけなら、制度上の問題はありません。また、採用が決まったとしても、それだけならまだ大丈夫の可能性が高いです。問題は「入社日」「勤務開始日」が決まったところから先です。
考え方としては「こう思っている」ではなく、退職の事実が確定した段階です。ですので、まず「退職を考えている」だけなら問題はありません。また、基本的には「退職するまでは在籍している」ということで、支給対象になる可能性が高いです。 ですが、転職先が確定したあたりから、育休の前提となる「就業復帰」が崩れているとみなされる可能性があります。これをもって即座にNGとはなりませんが、なにかしらのチェックが入る可能性はあると思いますのでご注意ください。

育休中に状況が変わり、結果として退職を選んだ。これは、不正ではありません

※ここまでの話はあくまで、公的制度にのっとったものです。会社独自の上乗せ給付や社宅補助、法定外の育休手当といった企業独自の制度については、「復職しなかった場合は返還」といった契約が有効になるケースもあります。ただし、これはあくまで会社が独自に用意した部分に限られます。

【病気休暇→産休→育休について】

最初の実例にもあったこのケースについても、少し話が異なりますが、簡単に解説させていただきます。
入社直後に病気休暇というのは、おそらく傷病手当を申請するケースだと思いますが、これは制度上可能です。
条件は「健康保険に加入している」「業務外の病気」「連続3日休み+医師の労務不能証明」であり、「普通に勤務するつもりだったが、急に病気になってしまった」ということも考えられますので、基本的に問題ありません例外として考えられるのは、元々就労できないような状態で、会社に嘘をついて採用されたような場合です。その場合は採用自体が取り消される場合もあります。

また金額については、以下のいずれかの安い方になります。
① 入社時に決まった額
② 同じ健康保険に入っている全被保険者の標準報酬月額の平均

その後、妊娠して産休、育休を取得するのも問題はありません。出産手当金は傷病手当と同じ計算式です。そこから育休に入る場合ですが、ここまでが健康保険、ここから雇用保険に切り替わります給付基準も「育休開始前の2年間に、11日以上働いた月が12か月以上」となります。 この2年間には病気休暇の期間も含まれます。そのため、病気休暇が長かったり、その就職前に無職の時期が長すぎると、育休手当金は給付対象外になる可能性があります
そう考えると、病休→産休→育休の流れは、お休みとしては取得可能であっても、金銭的に本人にとって得とは言い切れない面もあります。

第一部のまとめになりますが、育休取得後に復帰しないで退職するというのは、まず法律上は問題ないということになります。 「そうはいっても道徳的にどうか」という問題もあると思いますので、次は育休という制度がつくられた目的やその歴史、社会的背景などから考えてみたいと思います。


2.育休制度はなぜ作られたのか ― 歴史と目的

育休制度は、社会の変化に押されるように、後追いで整備されてきた制度だと言えます。

① 制度成立前夜:高度経済成長と「専業主婦モデル」

戦後から高度経済成長期にかけて、日本の雇用モデルは「男性は正社員として長時間労働」「女性は結婚・出産を機に退職」という形が主流でした。
この時代、「出産=退職」は当たり前で、働き続けながら子どもを育てること自体が想定されていなかったのです。つまり、育休制度がなかったのは「冷たい社会だったから」ではなく、そもそも制度が必要とされない前提で社会が動いていたという背景があります。

ところが、ここに様々な社会的要因が加わります。その一つが「出生率の低下(1.57ショックなど)」です。 1.57ショックとは、1989年に日本の合計特殊出生率が「1.57」まで落ち込んだことが公表され、社会に大きな衝撃を与えた出来事のことです。

合計特殊出生率とは: 一人の女性が一生のうちに産むと想定される子どもの平均人数です。人口を維持するために必要な水準は約2.07とされています。

なぜ「1.57」がショックだったのかというと、それまで最低水準と言われていた1966年(丙午:ひのえうま)の1.58を下回ったためです。
丙午の年は迷信や意図的な出産控えという特殊事情がありましたが、それ以外では安定していると考えられていたため、「迷信もないのにここまで下がった」という事実が強烈な危機感を与えました。 これにより、少子化は個人の選択ではなく、社会全体の存続に関わる問題として認識され、社会の仕組み自体を変えなければならないという認識が共有されました。これが「1.57ショック」です。

② 女性の高学歴化と社会進出

また、1970年代以降、高度経済成長の進行によって慢性的な人手不足が問題になりました。製造業だけでなく、事務職やサービス業が拡大し、「男性だけでは現場が回らない」という状況が現実になります。そこで企業が目を向けたのが女性労働力でしたが、当初はキャリアを築く存在ではなく、パートタイムや補助的な事務職など、あくまで「穴埋め」としての労働力でした。
しかし、国際社会での存在感を強めると、先進国としての体裁を整える必要が出てきました。

そうした中で1985年に「男女雇用機会均等法」が成立します。表向きには大きな一歩に見えましたが、当初は差別禁止ではなく「努力義務」であり、罰則もありませんでした。
その結果、企業は「総合職」と「一般職」というコース別雇用を作ります。とはいえ、女性は働き方を選別されたとはいえ、公的に労働する権利を手に入れました。しかし、家事や育児の負担は女性に偏ったままでした。

③ 1991年:育児休業法の成立

1991年に「育児休業法」が成立し、日本における育休制度がスタートします。
背景には、1.57ショックのほか、せっかく育てた人材が出産で辞めてしまう採用コストの問題という企業側の事情もありました。
しかし、当初は「制度はあるが、使える人は少ない」という状態でした。
国としても少子化は「課題」ではあってもまだ「危機」ではないという認識に近く、企業側も終身雇用が基本で、誰か一人が抜けても残業などでカバーできる余力がありました。

国が育児休業法を作ったのは、将来確実に詰むという事態を防ぐための“予防的政策”でした。当初の制度が福祉的だったのは「対象がほぼ女性」「無給または低水準の給付」「企業への強制力が弱い」といった点に現れています。

④ 1995〜2000年代:少子化対策としての育休拡充

バブル崩壊後の経済悪化により、共働きでないと生活が不安定という状況が広がります。そのような状況もあり、1995年、雇用保険から支給される「育児休業給付」が創設されました。 ここで重要なのは、なぜ雇用保険から出したのかという点です。国は育休を、子育て支援や福祉ではなく、「労働者が離職せず雇用関係を維持するための制度」として捉えていました。だからこそ、失業給付と同じ雇用保険が財源に選ばれたのです。給付金は“優しさ”ではなく、再雇用コストを抑えるための“合理性”によるものでした。
また、この頃はまだ終身雇用制の考えが強く、育休に入った女性が転職するという発想はありませんした。つまり「席を取っておけば戻ってくる」という前提で成立していた制度でした。

2000年代に入ると、共働き世帯が専業主婦世帯を上回ります
育休制度は強化されましたが、一方で企業は不況を背景に「固定費削減と人件費圧縮」を最優先にし、現場は常にギリギリの人数で回されるようになりました。2004年には労働者派遣が製造業でも解禁され、非正規雇用が急増します。 一見人は増えていても、中核を担う正社員は減り、一人ひとりの責任は重くなりました。この結果、「制度は進んでいるのに、受け止める現場の余力はない」という矛盾が生まれていきました。

⑤ 2010〜2020年代:男性育休と“当たり前化”の時代へ

2010年代、育休は国の持続性に関わる問題として扱われるようになります。国は男性の育児参加に本格的に目を向け、給付水準の引き上げや、両親ともに取得することで期間を延ばせる仕組みを導入しました。

そして2022年、「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設されました。これは「取るかどうかは本人次第」から「取る前提で制度を設計する」という大きな転換点です。企業には個別の周知や意図確認が義務付けられました育休はもはや現場が我慢してやり過ごすものではなく、最初から織り込むべき前提条件になったのです。


育休制度が成立した1991年以降は、まさにバブル崩壊とその後の「失われた30年」と時期が重なっており
・企業の業績悪化により、現場職員の削減が進んだ
・個人の収入悪化により、共働き世帯が増えた
・核家族化が進み、子育てのためには育休が必須だった
という社会情勢の中で、まさに現場の状況が追い付かないまま、作られた制度でした。


歴史を振り返ると、育休は個人への福祉である以上に、社会的に必要不可欠な制度、特に少子化対策のための国家戦略であることがわかります。


3.雇用保険の中で、育休給付はどのくらいの割合か

戻る予定の育休なのに戻らないのは許せない」という感情の根本を、お金の面から考えてみましょう。

雇用保険料は現在、一般の事業で労働者負担0.6%、会社負担0.95%となっています。 月収30万円の従業員の場合、本人負担が月1,800円程度、会社負担が月2,850円前後となります。

雇用保険全体の支出構成は、大まかに以下の通りです。

  • 失業等給付(失業手当など): 約48%

  • 育児休業給付: 約28%

  • 再就職支援・能力開発など: 約24%

雇用保険の年間保険料収入約4兆円規模に対し、育児休業給付の支出は数千億円規模(約5,000〜6,000億円)です。
これを個人に落とし込むと、月収30万円の人が支払う本人負担分1,800円のうち、育休給付に充てられているのは月500円前後(年間約6,000円)です。会社の負担分でも育休給付に回っているのは月800円程度(年間1万円未満)です。

つまり、日本中の育休取得者を支えるために、個人が負担しているのは月500円、会社が1人あたり月800円程度という理屈になります。
そして、日本中の育休取得者の人数については公式な数字はありませんが、推測できる数字としては以下のようになります。

日本の年間出生数が最新のもので約75万8,631人です。
一方、育休取得に関しては、女性:約 86.6%、男性:約 40.5%が取得しているというデータはあるので、そこから考えると、出生した子の母親の86.6%、つまり約 65〜70万人前後が育休を取得している可能性、 出生した子の父親の約 40.5%、つまり約 30〜35万人前後 が育休を取得している可能性があると考えることができます。

つまり、仮に自分の事業所で育休から退職してしまったとして、その方がお支払いした経済的損失は500円÷女性なら65〜70万、男性なら30〜35万という金額になります。
会社としては800円÷同じ数字です)。
仮に自分の職場で誰かが育休後に退職したとしても、個人としての金銭的な損失は非常に限定的であると言えます。

また、会社側の負担についても考えてみます。
育休中の社員に対し、会社は給与や社会保険料を支払っていません。代替要員の確保や教育といったコストは発生しますが、これは育休に入った時点で発生しているものであり、仮に育休後に退職となっても、その代替社員がそのまま残れば、新たな採用コストは抑えられることになります。


ここまで、育休もらい逃げについて、
1.制度から見た可否
2.育休制度成立の目的や歴史
3.育休にかかる費用負担
の観点から確認してきました。

以上の点を踏まえて、総括に入りたいと思います。


4.育休もらい逃げで、実際に誰が損害を受けるのか

では本題です。
「育休もらい逃げ」で、誰が損害を受けているのか整理してみましょう。

国・社会
出産・育児が行われたという点で、制度目的は一定程度達成
・雇用保険は相互扶助であり、「自分が払った分が返ってこない」という構造ではない。実際、育休後に再就職していれば、広い視野でみれば育休から復帰。
 → 必ずしも損害とは言えない

会社
給付金そのものは雇用保険から支払われるが微々たるもの
・代替要員やマネジメントの負担は発生するが、これは育休に入った時点で発生しており、そのまま代替要員が延長できれば新規費用は発生しない。
 →損害0ではないが、重大な損害とは言えない

同僚・現場
雇用保険は負担しているものの、実際の金額は微々たるもの
・業務のしわ寄せが最も直接的に集中する
 → 金銭的なものではなく、労働負担から不満が出る。

結論として、制度全体で誰かが大きく損をする設計ではありませんが、負担が現場に偏っていることこれこそが「もらい逃げ」と皆さんが言いたくなる最大の理由なのです。


5.今後の対策 ― 問題は制度より「運用」

まず、私は、「育休から復帰できない場合は返金」という考えには疑問を持っています。その理由は以下の通りです。

  1. 「復帰したかったが諸事情でできなかった」人を救う必要がある

  2. 広い視野で考えれば、出産後に別の場所でも仕事に復帰していれば雇用制度として機能している

  3. 制限をかけると出生率に悪影響が出る恐れがある(少子化対策は国策)

ではどうするか。結論は「現場に負担がかからないようにする」ことです。

制度面
育休給付に対する国庫負担の引き上げ
・代替要員確保への補助制度の拡充

企業・職場
業務の属人化を減らす
・育休を前提にした人員設計
・代替人員を「想定外」にしない運営

個人
育休取得時・休業中の誠実な情報共有
・復職・退職の判断を早めに伝える配慮


結局、人が減った分は増やすしかないのです。
1990年代の「人が減った分は残った人員でカバー」というのは、もともと余剰があってからこそできたことで、人員配置ギリギリでやっている現在でその対応はそもそも無理があります。逆に言えば、減った分の人員が補充できれば、現場の負担や不満は軽減します
また、育休が短期間の場合、新しいスタッフの配置をしても「慣れた頃には戻ってきちゃう」「余った人員はどうしよう」となりますが、1年、せめて半年などの長めのスパンであれば、新人の採用や育成もやりやすいはずです。

もちろん、その原資を会社側が出せないというケースも多いと思うので、そこを行政が補助を出すなどの対策が立てられればいいのは間違いないところです。

また、業務の属人化を減らすというのは、日本企業の課題でもあり、各自の課題でもあるかと思います。やはり人員の流動化を考えれば、属人化を減らすことは必須になります。
現実的に、育休から復帰しても、子どもが小さいうちは急な休みは発生しますので、業務復帰後も当面の間、人員は確保しておいた方がいいのは間違いありません。
この点も、大企業ならともかく、中小では費用面でも人員面でも難しいところなので、やはり行政側の対応が必須です。
 
また、いくつかの企業では、
・育児休業を取得した社員がいる部署の全員に一時金を支給する
・育休取得者には本来支払われるはずのボーナスを原資として、同僚に 貢献度に応じて分配する
などの施策が実際に行われています。

仕事量は楽にはなりませんが、こうした対応は周囲の不満を軽減し、取得する側も安心して休みに入れるようになります。


おわりに

最後になりますが、少子化と育休について考えてみましょう。
人口が増えるためには、理論上、1組の夫婦に3人の子どもが生まれる必要があります
。平均初産年齢が31〜32歳と言われる現代で、30代のうちに3人産もうとすれば、産休・育休で合計3年6ヶ月が必要です。
また、休みに入る前でも、妊娠期間中には急な体調不良もあるでしょうし、育休から復帰したらしたで、子どもの体調不良で休むこともあるでしょう。
そう考えると、5年間くらいは普通に働くのは難しいの仕方ありません。
これができなければ、日本の人口は減るのです。
しかし、現場からすれば、5年間も人手が足りなければ、もらい逃げでなくても不満は出やすくなります。

育休制度は少子化という社会課題に対応するために作られたものですが、その運用を現場任せにしてきた結果、摩擦が生まれています。 大事なことは、個人を叩くことではなく、誰に負担が集中しているのかを可視化し、分散させる仕組みを作ること。 それが、これからの育休制度に本当に必要な視点ではないでしょうか。


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