火星馬券【毎週ショートショートnote】
いよいよ今日はマーズ賞。火星でもっとも大きなレース当日だ。
地球から火星に移住した人類のコロニーでは、多くの生き物が環境の変化により生育に悪影響がある中、何故か馬だけは非常に適合率が高く、数百年の間に飛躍的な進化を遂げた。
そのため、かつて地球で行われていた競馬のように、火星の平坦な大地を一斉に駆けるレースを楽しむ文化が生まれた。
「さあ最終コーナー、一番人気のスイートサマーが逃げ切るか? いや、外からカニジャナイナニカ、カニジャナイナニカが来た! 一着はハナ差でカニジャナイナニカ!」
くそ、外したか。
それでも楽しいものだ。かつて地球では、我らに乗り鞭を打って走らせていたという人間どもが、必死に走っている様を眺めるのは――
「……って夢を見たんだよ」
「おいおい、笑えるな。俺たち人間の競争を、馬が眺めて楽しむだなんて」
「まったくだよ。現実はただ走るだけじゃなく、馬に乗られ鞭を打たれながら走らなきゃならないんだもんな……」
