見出し画像

カイン 星骸を喰らう剣 傲慢篇・第七夜

傲慢篇・第七夜「傲慢の逆焔――黒炉街〈ハルマゲン〉の祝祭」




プロローグ ― 黒炉街への火口道

忌まわしき罪計島での死闘を終え、一行は北へと延びる、まるで巨大な龍の背骨のような黒曜岩の尾根を、休むことなく二日二晩登り続けた。空気は次第に希薄になり、エリシアは時折苦しそうな表情を見せたが、カインの背に励まされるようにして、弱音を吐かずに歩き続けた。  その尾根の最果て、深く切れ込んだ峡谷の谷底で、まるで巨大な獣が吐息を漏らすかのように、黒い煙をもうもうと立ち昇らせて息を潜める鍛冶の都――それが、伝説に名高い**黒炉街〈ハルマゲン〉**だった。  昼なお空は、厚く垂れ込めた灰色の雲によって完全に覆われ、太陽の光はほとんど届かない。その代わりに、街の至る所、岩肌のあちらこちらから、まるで大地の血管が裂けたかのように、真紅の溶鉱と、目を焼くような青白い高熱の蒸気が、轟音と共に絶え間なく噴き上がっていた。  空気は、焦げ付いた石炭と、熱せられた金属、そして得体の知れない油の匂いで重く淀み、一呼吸するごとに肺がヒリヒリと痛むかのようだ。踏みしめる火山岩の大地は、街のどこかで絶え間なく続けられる、遠い巨大な鉄鎚の衝撃で、まるで生きているかのように細かく、そして不気味に震え続けていた。

ピオ「ぐへぇ…こりゃたまらんぜ、カインの旦那! 肺の中が、鉄の粉とススで満タンになっちまいそうだぜ! 俺様の自慢の美声も、このままじゃガラガラになっちまう!」

ピオはそう言って大げさに咳き込んでみせた。

クレス「この街全体が、一つの巨大な鍛冶炉として機能しているようね。周囲の火口から吹き上げる強烈な爆風が、街の中心部へと新鮮な酸素を強制的に吸い上げ、そして、その熱せられた空気が、無数に林立する煙突群から“逆焔(ぎゃくえん)”となって空へと吹き戻されるという、極めて特殊で効率的な構造になっているわ。まさに、鍛冶のためだけに存在する街ね」
ルミ「逆焔…ですか? 炎が、下から上へと昇るのではなくて…?」

ルミは不思議そうに、天を焦がす赤い炎を見上げた。

カイン「焔が、常とは逆さに天へと昇るというのなら、人の犯した罪もまた、逆さに鍛え直し、その穢れを浄化できるかもしれん。あの忌まわしい嫉妬核を、このドラグ・クレイヴに完全に打ち込むには、これ以上ないほど丁度いい炉かもしれんな」

カインの背に負う漆黒の大剣《ドラグ・クレイヴ》は、先の戦いで取り込んだ嫉妬核をその身に抱いたまま、まるで生きているかのように鈍く、しかし力強く鼓動を刻み、周囲を漂う鉄塵を含んだ特有の気流を吸い込んでは、その刀身から緑と紫の混じり合った、禍々しい火花をバチバチと散らした。その様は、まるで大剣自身が、この街の熱気に呼応し、新たな力を渇望しているかのようだった。


1. 鍛冶祭“黒炉祝祭”の幕開け

〈ハルマゲン〉の街の正門は、巨大な鋼鉄製の万力(まんりき)を模した、見るからに重厚で威圧的な造形をしていた。その門は、この街の鍛冶技術の高さを無言のうちに誇示しているかのようだ。  門の両脇では、屈強な体格をした門番のドワーフ鍛冶師たちが、それぞれが愛用する巨大なスパナやハンマーを杖代わりに、祭りの始まりを祝うための祝い酒を、大きな樽から直接、豪快に喉へと流し込んでいた。彼らの顔は酒で赤らみ、その目は陽気な光を宿している。

門番ドワーフA「おおっ! 見ねえ顔だな、そこの鉄屑を背負った旅人さんよ! もしかして、あんたもこの“黒炉祝祭”に参加しに来たのか? そうなら大歓迎だぜ! だがな、この街に入るには、祝祭税として、とびっきりの鉄塊を一つ、俺たちに献上してもらうのが決まりなんでな!」

門番の一人が、カインの持つ大剣に目を留め、にやりと笑いながら言った。

カイン「鉄塊なら、丁度ここに上等なものがある。俺のこの刃が、道すがら余熱で溶かした鉄の粉だがな。これで不足はねえだろう」

カインが、腰のポーチを無造作に振ると、大剣に宿る嫉妬核がそれに鋭く呼応し、周囲に漂っていた砂鉄が、まるで意思を持っているかのように、強力な磁束によって一点へと急速に集束し始める。次の瞬間、人間の頭ほどの大きさはあろうかという、ズシリと重い漆黒の鉄塊が形成され、それが門番の驚きで見開かれた掌の上へと、ゴトリと重々しい音を立てて落ちた。

門番ドワーフBぐおっ……こ、こいつは……とんでもなく重い! おい、旅人、てめえ、この鉄塊にどんな恨み辛みを錬り込んだってんだ!? まるで怨念の塊みてえじゃねえか!」

もう一人の門番が、その鉄塊の尋常ならざる重さに顔を歪めながら叫んだ。

ピオ「へっ、そいつはな、そこらの安っぽい恨みなんてもんじゃねえぜ。極上の“嫉妬”がギュギュッと濃縮された、特製の塊でさあ。重ければ重いほど、炉で燃やした時によく燃えるってもんだろ? なあ、ドワーフの旦那方よぉ!」

門番のドワーフたちは、顔を見合わせ、やがて満足げに大きく頷くと、巨大な歯車でできた重厚な門扉が、地響きにも似た轟音を立てながら、ゆっくりと、しかし確実に開いていった。  その開かれた門の先――そこには、おびただしい数の大小様々な鍛冶炉が、まるで蜂の巣のように密集する、広大な半地下都市が、まるで巨大な龍が赤い吐息を吐くかのように、もうもうと熱気を吐き出し、その空へ向けて、天をも焦がすかのような、おびただしい数の“逆焔”の束を、力強く突き上げていた。その光景は、壮麗であると同時に、どこか終末的な雰囲気を漂わせていた。


2. ブラン=アイアンウィング再会 ― 鍛人の誓火

カイン一行は、街のメインストリートに軒を連ねる、様々な露天鍛冶場を興味深く見て回りながら、目的の人物を探していた。そこでは、様々な種族の鍛冶師たちが、自慢の腕を競い合うかのように、火花を散らしながら金属を叩き、研ぎ、そして鍛え上げていた。その熱気と喧騒は、まるで街全体が一つの巨大な生命体であるかのように感じられた。  やがて、一行は、ひときわ大きな鍛冶場の隅で、背中に小型の蒸気機関で駆動する金属製の翼を装着した、小柄だが筋骨隆々としたドワーフの男が、巨大な鉄槌を軽々と、しかし正確無比に振るう姿を見つけた。  そのドワーフこそ、ブラン=アイアンウィング――かつて、カインのこの《ドラグ・クレイヴ》を、その卓越した技術で研ぎ直し、新たな命を吹き込んだ、伝説の飛行鍛冶師だった。

ブラン「おお、カイン! ようやく来たか! お前さんが、あの忌まわしい嫉妬核をその大剣に抱えたまま、このハルマゲンに来て、俺にそれを鍛え直させるつもりだって噂を聞いたときゃ、驚きもしたが、同時に血が騒いだぜ! この日のために、俺の自慢の“逆焔降霊炉”を空けて、ずっとお前さんの到着を待ってたんだ!」

ブランはカインの姿を認めると、作業の手を止め、満面の笑みで駆け寄ってきた。

カイン「久しぶりだな、ブラン。相変わらず元気そうじゃねえか。お前に頼みたいのは、この剣に宿った嫉妬の火だ。こいつは、並の炎とは違う、制御不能な暴れ馬だ。お前のその腕で、抑え込むための強力な手綱を打つことはできるか?」
ブラン「はっはっは! 任せておけ! このブラン=アイアンウィングに打てねえ手綱なんざ、この世に存在しねえよ! お前さんのその大剣ごと、あの特別な“逆焔降霊炉”の心臓部にブチ込んで、徹底的に鍛え直してやるぜ! だがな、カイン、それには一つだけ、お前に果たしてもらわなきゃならねえ条件がある――この祭りのメインイベント、“罪揚げ(シンアゲ)”の試合で堂々と勝ち残り、その炉の使用権を、自らの力で勝ち取ってみせろ!」

罪揚げ試合――それは、この黒炉祝祭の期間中に行われる、ハルマゲンでも最も名誉ある、そして最も過酷な競技。各鍛冶工房が、その技術の粋を集めて作り上げた自慢の武器を持ち寄り、一対一で対戦する。ただし、単に相手を打ち負かすだけでは勝利とは認められない。相手の武器の芯鉄を折ることなく、その武器に込められた相手の“罪”や“業”を、自らの武器で打ち据え、“鍛え直す”ことではじめて、真の勝者として認められるのだという。  そして、その試合の勝者の武器には、“罪鎚(つみつち)”という最高の称号が与えられ、祭りの最終日、このハルマゲンの心臓部とも言える、聖なる最終炉で、長老たちによって直々に再鍛成されるという、最高の栄誉が約束されるのだ。

カイン「つまり、あの鍛冶場で、ただ刀を振るって相手を叩きのめせばいいだけか? それなら、造作もねえが」
ブラン「いやいや、カイン、そう単純な話じゃねえんだ。武器を使うのはもちろん、己の拳で語り合うもよし、あるいは古の呪詠を唱えて魔力をぶつけ合うもよし! 要するに、ルール無用の大乱闘よ! 肝心なのは、お前がその“火花で、相手の魂に刻まれた罪を燃やし尽くせるか”どうかってことだ! それができなきゃ、いくら相手を倒しても、勝利とは認められねえのさ」
エリシア「…火花…で、罪を燃やす…? なんだか、難しそう……」

エリシアは不思議そうに首を傾げた。

ピオ「へっ、要するに、派手なお祭り喧嘩ってことだろ! 血の代わりに、お互いの魂の火花を盛大に飛ばし合えってことさ! 面白そうだぜ、カインの旦那! 俺様も参加してえくらいだ!」


3. 罪揚げ試合 ― 逆焔アリーナ

街の中央に位置する、ひときわ巨大な溶鉱炉の、その真上に特設された円形のアリーナは、頑丈な鋼鉄の円環で作られ、その周囲には、まるで血の川のように、赤熱した溶鉄流が絶えず巡っているという、壮絶なステージだった。  観客席は、この街に住まう屈強なドワーフや、俊敏な獣人、あるいは曰く付きの品を扱う罪掠(つみかす)商人、そしてかつて星環に所属していた傭兵崩れのならず者たち…といった、ありとあらゆる雑多な人種で完全に埋め尽くされており、彼らの熱狂的な歓声と怒号が、アリーナ全体を揺るがしている。そして、時折、足元の溶鉱炉から吹き上がる巨大な逆焔が、まるで生きているかのようにアリーナの天幕を舐め上げ、凄まじい音と共に高熱の蒸気を爆ぜさせていた。

対戦カードは、公正を期すため、厳格な抽選によって決定される。  そして、カインたちが引き当てた最初の対戦相手は、“鏡鎚団”と名乗る、三人組の傲慢なドワーフ鍛冶師たちだった――彼らは、その名の通り、表面が鏡のように磨き上げられた、特殊な鏡鉄で出来た巨大なハンマーを、まるで玩具のように軽々と振るうという。

司会ゴブリン「さあ、待ちに待った第一試合の開始だぜーッ! 西から入場は、あの忌まわしき嫉妬核をその身に背負うという、謎の黒剣士、カァァァインッ! 対する東は、このハルマゲンでも札付きの、傲慢なる鏡鎚団の三人衆だァァァッ! ルールは簡単! お互いの魂の火花と、鍛え上げた罪が、このアリーナの天井に届くまで、力の限り叩き合えェェェッ!」

耳をつんざくような甲高い声で、小柄なゴブリンの司会者が叫ぶと、観客のボルテージは一気に最高潮に達した。

鏡鎚団のドワーフたちは、その巨大な鏡鎚を振るうたびに、その磨き上げられた槌面に映った相手の姿に、自らの“傲慢なる魂の写し”を強制的に発現させるという、厄介な能力を持っていた。  カインが油断なく構えると、その周囲に、まるで実体があるかのような、カインの虚像が十数人も同時に現れ、真打である本物のカインの動きを巧みに惑わし、攻撃の的を絞らせない。

鏡鎚師A「ククク…己の醜い姿を見るがいい、黒剣士よ! お前が犯してきた罪は、全てお前自身の魂の、忌まわしい反射なのだということを、その身に教えてやるわ!」
カイン「鏡に映るのは、所詮、偽りの表面(うわべ)だけだ。俺の本質は、ここにある――このドラグ・クレイヴと、俺自身の魂の中にな!」

カインは、迫り来る無数の虚像を意にも介さず、その手に持つ大剣を、足元の頑丈な鉄床へと、渾身の力で叩きつけた。大剣に宿る嫉妬核の強力な磁束が、鉄床の金属を瞬時に吸着し、凄まじい衝撃を生み出す。  次の瞬間、アリーナの床が、まるで地震でも起きたかのように激しく砕け散り、その下から渦巻くように噴き出したおびただしい量の砂鉄が、周囲にいたカインの虚像を、まるで黒い津波のように一瞬にして塗り潰し、鏡鎚団の持つ鏡鎚の表面を、ベットリとした黒錆で完全に染め上げた。  さらに、ピオが放つ超高周波が、鏡鎚団の持つ槌面そのものを激しく振動させ、そこに無数のひび割れを生じさせ、クレスの作り出した精巧な幻映が、砕け散る虚像に、鏡鎚団自身の醜い傲慢写しを逆投影させる。  鏡鎚団のドワーフたちは、自分たちの醜い傲慢写しに四方八方から囲まれ、完全に錯乱状態に陥り、最後は、ルミの放つ聖なる癒光を浴びて浄化された、カインの大剣の重厚な柄頭の一撃によって、あっけなく昏倒した。

司会ゴブリン「しょ、勝者ァァァァッ! 恐るべき強さ! 黒剣士カイン&月銀の爪エリシア、そしてピクシートリオの連合チームだァァァッ!」

鍛冶場全体が、割れんばかりの凄まじい歓声を上げ、それに呼応するかのように、中央溶鉱炉から吹き上がる逆焔が、一段と高く、そして力強く天へと吹き上がった。  カインの振るうドラグ・クレイヴの刃は、この戦いを通じて、ほんのわずかに短く、しかしその密度を格段に増し、まるで月光のような、蒼白く鋭い縁光をその刀身に纏うようになっていた。


4. 星陥騎の乱入 ― 逆焔暴走

祭りの熱気が最高潮に達し、アリーナでの次の試合が始まろうとしていた、まさにその時だった。  街の外縁部に林立する、巨大な煙突群の一角で、突如として天を揺るがすかのような大爆発が起こった。  忌まわしき星陥騎の残党の一団が、この街へと輸送中だった大量の鉄鉱貨物を、密かに爆薬へと転用し、それをハルマゲンの心臓部である中央溶鉱炉へと、無差別に投下したのだ。  カインの大剣に宿る嫉妬核と、溶鉱炉から発せられる強大な傲慢の磁場が、互いに激しく反発しあい、凄まじいエネルギーの暴走を引き起こす。次の瞬間、炉の中で煮えたぎっていた真紅の溶鉄が、まるで火山が噴火するかのように凄まじい勢いで逆流し、灼熱の雨となってアリーナ全体へと無慈悲に降り注いだ。

星陥騎隊長「クハハハハ! 愚かなる鍛冶師どもよ! この傲慢なる逆焔こそ、我らが偉大なる星環の、またとない薪となるのだ! この街の忌まわしい炉ごと、貴様らの罪深き魂を、跡形もなく焼き尽くしてくれるわ!」

星陥騎の隊長らしき男が、高笑いと共に叫んだ。

カインは、降り注ぐ溶鉄の雨からエリシアを庇いながら、大剣に宿る嫉妬核の磁力を最大限に解放し、周囲の溶鉄雨を、まるで磁石が鉄を引き寄せるかのように、その刃先へと全て吸着させた。  そして、その灼熱の鉄塊を纏った大剣を、独楽のように高速で回転させ、その遠心力で、灼熱の飛沫をアリーナの一方向へと、まるで嵐のように掃き飛ばし、辛うじて観客たちの身を守った。

その間、鍛冶師ブランは、背中の蒸気駆動の翼を大きく広げ、まるで猛禽のようにアリーナ上空を滑空しながら、その手に持つ巨大なハンマーで、爆破された煙突の残骸を次々と叩き割り、被害の拡大を食い止めていた。  彼の一撃によって砕け散った、溶けた鉄の塊が、まるで赤い流星のように空へと無数の逆焔を描き、それに巻き込まれた星陥騎の隊員たちは、自らが仕掛けた炎によって、その身に纏う分厚い鎧を無残に熔解させられ、断末魔の悲鳴を上げながら次々と墜落していった。

ブラン「カイン、よく聞け! 今しかチャンスはねえ! あの“逆焔降霊炉”の心臓部に、お前のその嫉妬核をブチ込むんだ! あの炉の逆焔の流れを完全に逆転させることができれば、この忌まわしい溶鉄雨は、自ずと収束するはずだ!」

ブランは、カインに向かって魂の限りに叫んだ。


5. 逆焔降霊炉 ― 絶罪刃(ぜつざいば)への火入れ

ブランの言葉を信じ、カインは、中央溶鉱炉の頂上へと続く、急勾配の螺旋状のクレーンを、まるで獣のような俊敏さで駆け上がり、その頂上で、嫉妬核を宿したままの《ドラグ・クレイヴ》を、天に掲げるように固く構えた。  眼下に広がる炉の巨大な竈口(かまどぐち)は、まるで巨大な龍の顎門のように大きく開き、そこからは、全てを焼き尽くすかのような、眩い白金色の逆焔が、轟音と共に天高く噴き上がっていた。その熱気は、カインの全身の皮膚を焦がすほどだった。

カイン「この胸に宿る、忌まわしい嫉妬も、そして拭い去れぬ傲慢も、全てまとめて、この炉で鍛え直してくれる。——そして、新たな力として、この剣に宿れ。喰らえ、ハルマゲンの炎よ!」

カインは、雄叫びと共に、その大剣を、炉の心臓部である竈口へと、渾身の力を込めて深々と突き入れた。  緑と紫の混じり合った禍々しい嫉妬の光と、赤と金が燃え盛る神聖な逆焔が、炉の中心で激しく衝突し、カインの持つ大剣の刀身全体を包み込む光が、まるで虹のように、目まぐるしく七色へと、そしてさらにその先の未知の色へと、急激に変調していく。

炉の内部で、かつて星々を砕いた星骸の欠片と、カインの魂の一部と化した嫉妬核が、超高熱によって完全に溶解し、そして融合を果たしていく。カインの大剣は、まるで鍛え直される鋼が苦悶の声を上げるかのような、断ち割れた甲高い呻き声とともに、その刀身の厚みをさらに増し、その表面には、これまで見たこともないような、古代のルーン文字にも似た、新たな紋様を深く、そして力強く刻み込んでいった。だ。

クレス「これは……信じられませんわ! 刃の組成そのものが、根本から変化しています! 高位の罪の力が結晶化し、その刃の内部に、まるでラメラアーマーのような、強靭な積層構造を形成しつつあります!」
ルミ「すごい……すごく重くて……でも、すごく綺麗に光ってる……。まるで、星の光をそのまま閉じ込めたみたい……」
ピオ「へっ、こいつはとんでもねえ代物になりそうだぜ! 間違いねえ、こりゃあ、あの伝説の“絶罪刃”へと至る、その前段階に違いねえぞ、カインの旦那!」

やがて、全ての光が収束し、炉の竈口がゆっくりと閉じ始めると、あれほどまでに激しく燃え盛っていた炉の逆焔が、まるで満足したかのように、穏やかな青白い息を吐いて、静かに沈黙した。  アリーナに降り注ぎ、爆発寸前だった灼熱の溶鉄雨が、正常化した炉の強力な磁束に沿って、まるで川の流れが海へと帰るように、ゆっくりと炉の中へと吸い込まれていき、祭りの会場は、奇跡的に、そして嘘のような静寂を取り戻した。


6. 黒炉祝祭の夜明け ― 鍛火と祝火

長い、そして激しい夜が明け、ハルマゲンの薄暗い天幕の向こうに、星の姿は見えなかった。  だが、それに代わるかのように、鍛冶場から打ち上げられたおびただしい数の祝福の火花が、まるで粉雪のようにキラキラと美しく舞い降り、街中のドワーフ鍛冶師たちが、それぞれの作業場で一斉に清めの鎚を手に取り、鍛え上げた鉄床を、独特のリズムで力強く打ち鳴らす“祝火のリズム”が、厳かに、そして力強く始まった。それは、新たな時代の幕開けを告げる産声のようでもあった。

カインの傍らで、ブラン=アイアンウィングが、汗でびっしょりになった額を手拭で豪快に拭い、満足そうな笑みを浮かべながら、炉から取り出したばかりの、まだ仄かに熱を帯びた真新しい大剣を、カインへと恭しく差し出した。  その大剣は、以前の禍々しさを残しつつも、どこか神聖な輝きを放ち、その刀身には、まるで生きているかのように複雑な紋様が浮かび上がっていた。

ブラン「カイン、お前さんの手で、この新しい剣に名を付けてやってくれ。いいか、剣ってのはな、ただの鉄の塊じゃねえ。そいつは、持ち主の魂そのものを映し出す、曇りなき鏡なんだ。だから、お前さん自身の魂で、その名を決めるんだ」
カイン「……そうだな。こいつの名は、“煉鎚(れんつい)グリーフブリンガー”としよう。人の犯した罪をその身で受け止め、叩き直し、そして、その奥底にある深い悲嘆をも、新たな力へと鍛え直す、慈悲と破壊の鎚にして剣だ」
エリシア「れんつい…ぐりーふぶりんがー…? なんだか、すごく長くて難しい名前だね……。でも、すごく強そうで、かっこいい名前だと思うな……!」

エリシアは、カインの新しい剣を、尊敬と憧れの眼差しで見上げていた。

大剣に宿っていた嫉妬核は、今や完全に刃と一体化し、以前のように禍々しい磁束を外部へ漏らすことはなくなった。  そのかわりに、刀身の奥深くで、まるで新たな生命を得たかのように力強く脈打つ、清浄な白金色の光が、カインの、決意に満ちた双眸に、淡く、そして美しい反射を投げかけていた。

カイン(独白) 《罪を量るという、あの忌まわしい天秤は、この手で破壊した。そして今度は、罪を鍛え直すという、このハルマゲンの聖なる炉を、俺は掌握した…ならば、次に俺が求めるべきは、その鍛え上げられた罪を、真に“赦す”ことができる、慈悲の槌なのかもしれないな》

遠く、鍛冶の熱気立ち込める丘陵を離れた、静かな石橋の上で、いつの間にか、あの漆黒の影が音もなく佇んでいた。  黒騎士ノクス・レヴナント。その姿は、まるで運命の監視者のようだった。

ノクス「その刃、さらにその重みを増したようだな、カイン。…問題は、その重みに、次はお前の魂が耐えられるかどうか、だ」
カイン「満月が来たら、嫌でも見せてやるさ。この研ぎ上がったばかりの、俺の罪の切れ味というやつをな」

ノクスは、カインのその言葉に静かに頷くと、傍らの愛馬エクリプスの美しい鬣を一度だけ優しく撫で、まるで最初からそこに存在しなかったかのように、音もなく周囲の夜霧の中へと、その影ごと溶けて消えた。


次回予告

傲慢篇・第八夜「傲慢の檻炎――灰騙(はいかたり)レドームの鏡牢」

ハルマゲンの炉から生まれ落ちた、カインの新たなる刃〈煉鎚グリーフブリンガー〉。その真価を試す次なる舞台は、全てを映し出し、そして全てを歪める“鏡に覆われた炎の迷宮都市”。底なしの欲望に囚われた偽りの街で、過去の罪が生み出すおぞましい幻影が、剣士カインを容赦なく試す――。



ここから先は

0字

いつもご覧いただき、誠にありがとうございます。 あなた様の温かいご支援と励ましのおかげで、私の創…

国民プラン

¥1,000 / 月

貴族プラン

¥10,000 / 月

親衛隊プラン (未成年応援プラン)

¥100,000 / 月

応援したいな、って思ってくれたら…それだけで感謝です! いただいたチップは今後の創作に大切に使わせていただきます🌱