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カイン 星骸を喰らう剣 傲慢篇・第十三夜

傲慢篇・第十三夜「忘れられた王都――灰燼の記憶」





プロローグ ― 灰燼の海と沈黙の王都

星詠みの塔で得た、一条の光。カインはその小さな希望の欠片を、まるで己の心臓を守るかのように、胸当ての内側に縫い付けた革のポーチへとしまい込んだ。東の空が黄金色に染まるのを背に、一行は、クレスが示した古文書の道筋と、微かに感じる空の歪みを頼りに、次なる目的地へと向かっていた。  灼熱の砂漠を越え、ごつごつとした鋭利な岩石地帯を抜け、どれほどの時間が過ぎただろうか。彼らの眼前に広がる光景は、一変した。  どこまでも続く、灰色の、まるで死んだかのような大地。かつては豊かな森や、風にそよぐ草原が広がっていたのであろうその場所は、今では全てが、分厚い、そして不気味なほどに均一な灰の層に覆い尽くされていた。風が吹くたびに、灰はまるで生きているかのように音もなく舞い上がり、世界を鉛色に染め上げる。空気は重く、そして奇妙なほどに冷たく、そこには生命の匂いも、腐敗の匂いすらも存在しなかった。ただ、全てが忘れ去られたかのような、絶対的な「無」の匂いだけが、そこには満ち満ちていた。

ピオ「ゲホッ、ゲホッ…! おいおい、なんだってんだ、この気色の悪ぃ灰は! 砂漠の砂みてえに喉が渇くわけでもねえが、それとはまた質の違う、妙な重さが肺に溜まっていく感じだぜ…。吸い込むと、なんだか頭がぼーっと霞んできやがる…」

ピオは、口元を腕で覆いながら、不快そうに声を上げた。彼の放つ快活な琥珀色の光さえ、この灰色の世界では、どこか頼りなく、そして鈍く揺らいで見える。

クレス「これは、ただの灰ではありませんわ。極めて高密度の魔瘴と、そして…おそらくは、この地に墜ちた星の残骸そのものが、長い年月をかけて燃え尽きた名残。古文書によれば、この先にある旧王都ルミナリエは、かつて『光の都』と謳われるほどに栄華を極め、その輝きは夜空の星々をも凌いだと記されています。しかし、およそ百年ほど前に、空から『嘆きの星』と呼ばれる巨大な星骸が墜落し、都は一夜にして、その全ての光と、そして全ての記憶を失ったと…。この灰は、その時の…悲劇の証なのでしょう」

クレスの声は、いつになく重々しく、そして深い哀しみを帯びていた。

やがて、灰の海の向こうに、巨大な城壁のシルエットが、まるで巨大な亡霊のように、ぼんやりと浮かび上がってきた。それこそが、旧王都ルミナリエ。かつて光の都と呼ばれた、今は忘れ去られた王都の、痛々しい成れの果てだった。  城壁は至る所が崩れ落ち、壮麗であっただろう城門は、まるで巨大な獣に噛み砕かれたかのように無残に破壊され、開かれたままになっている。そして、その街全体が、まるで巨大な墓標のように、完全な、そして圧殺されるかのような沈黙に支配されていた。

カイン「……ひでえ有様だな。まるで、世界そのものが息絶えちまったみてえだ」

カインは、ただ一言、そう呟いた。その声は、重く、そして乾いていた。彼の背負う《絶罪鍛鎚》は、この地に足を踏み入れた瞬間から、まるで何か得体の知れない敵を警戒するかのように、その内部で静かに、しかし力強く、警告のように脈打っている。


1. 灰の都、ルミナリエ ― 忘却の住人たち

開かれたままの城門をくぐり、一行は、沈黙の都ルミナリエへと、その重い足を踏み入れた。  かつては磨き上げられた大理石であっただろう石畳の道は、今では分厚い灰に覆われ、一歩足を踏み出すごとに、「サフッ…サフッ…」という、乾いた、そして物悲しい音を立てる。かつては人々の笑顔と活気に満ち溢れていたであろう大通りには、誰一人としてその姿はなかった。豪華な装飾が施された壮麗な建物は、その輝きを完全に失い、ただ灰を被ったまま、まるで巨大な石像のように、静かに、そして物悲しく佇んでいる。  だが、人々が完全に消え去ったわけではなかった。  道の片隅に、かつては清らかな水を湛えていたであろう広場の噴水の跡に、そして、崩れかけた壮麗な家の軒先に、彼らはいた。まるで魂を完全に抜かれた抜け殻のように、虚な目で、ただ一点を、何も映さない空間を、瞬きもせずにぼんやりと見つめ続けている。彼らは、泣きもせず、笑いもせず、怒りもせず、ただ、そこに「存在している」だけだった。まるで、時が止まった絵画のようだ。

エリシア「……あの人たち、どうしちゃったの…? みんな、なんだか、すごく、すごく悲しそう……。でも、泣いてるわけでも、怒ってるわけでも、ないみたい……。まるで、お人形さんみたいだよ……」

エリシアは、カインのマントの裾を、まるで命綱のように強く握りしめながら、不安そうな声で尋ねた。彼女の大きな猫耳は、ぺたりと力なく垂れ下がっている。

ルミ「……記憶が、感じられないんです。この街の人たちからは、過去の記憶が、ほとんど……いえ、本当に、全く感じられない。嬉しい記憶も、悲しい記憶も、誰かを愛した記憶も、誰かを憎んだ記憶も…。まるで、綺麗に、そして残酷に洗い流されてしまったかのように……その心は、完全に空っぽなんです。だから、彼らは、もう何も感じることができないのかもしれません…」

ルミは、その紫水晶の光を悲しげに、そして弱々しく揺らしながら、そう言った。

カインは、道端に落ちていた、錆びついてはいるが、かつては美しい装飾が施されていたであろう、小さなブリキの人形を拾い上げた。その人形に降り積もった、まるで雪のような灰を、その無骨な指でそっと拭う。すると、その瞬間、カインの脳裏に、まるで壊れたラジオから流れるノイズのように、一瞬だけ、誰かの、おそらくはこの人形の持ち主であったであろう、幼い少女の楽しげな笑い声が甲高く響き、そして、すぐに、まるで水に溶けるように消えていった。  同時に、カイン自身の、遠い過去の記憶――傭兵として、ただ生きるために戦場を駆け巡っていた頃の、失った仲間たちの顔や、交わした他愛のない言葉の断片が、ほんの一瞬だけ、まるで色褪せた写真のように、その輪郭がぼやけ、薄らいだような、奇妙で不快な感覚に襲われた。

カイン(独白) 《……やはり、この灰か。この忌々しい灰に触れると、記憶が吸い取られるのか…? いや、違うな。吸い取られるというよりは、もっとたちが悪い。まるで、清らかな水に一滴の墨汁を垂らした時のように、その人の持つ全ての記憶が、善悪の区別なく薄まり、混ざり合い、そして、最終的には、何の意味もなさなくなってしまう…。だから、この街の連中は、まるで生ける屍のようになっているのか。記憶こそが、人を人としてこの世界に繋ぎとめる、最後の、そして最も重要な錨だというのによ…》

カインは、忌々しげにその灰を払い、人形を、まるで墓標に花を供えるかのように、元の場所へと静かに戻した。この街を覆う、死よりも深い静寂は、死の静寂ではない。それよりもさらに残酷で、そして救いのない、忘却の静寂なのだと、彼は心の底から理解した。


2. 記憶守りの少女 ― リラ

一行が、灰の街の中心部へと、これまで以上に慎重に、そして警戒しながら足を進めていた、その時だった。  不意に、近くの、かつては壮麗なステンドグラスで飾られていたであろう、大きく崩れかけた教会の中から、甲高い、まるで金属を鋭利な何かで引っ掻くかのような、耳障りで不快な叫び声が、静寂を切り裂いて響き渡った。  カインは、エリシアを背後に庇いながら、音もなく、そして獣のような俊敏さで教会の中へと滑り込む。

そこには、一人の少女がいた。歳は、エリシアより少し上、十二、三歳といったところだろうか。陽光を思わせる亜麻色の髪を、古びたリボンで無造作に束ね、その大きな瞳には、この街の他の住人とは明らかに違う、まるで燃えるような、強い意志の光が宿っていた。  そして、その少女を、三体の、まるで黒い煙が人の形をとったかのような、実体のない、不気味な存在が、じりじりと、しかし確実に追い詰めるように取り囲んでいた。

少女「来ないで…! お願いだから、私から、これ以上、何も奪わないでッ!」

少女は、震える手で、その胸に大切に抱いた一つの、古いが磨き上げられた美しい銀のロケットを、まるで最後の希望であるかのように、必死に守りながら叫んでいた。  黒い煙の存在――《灰の亡霊(アッシュ・レイス)》は、その少女の悲痛な叫びを、まるで心底から嘲笑うかのように、その実体のない、しかし確かな悪意を帯びた腕を、彼女へとゆっくりと、そして執拗に伸ばそうとしていた。

ピオ「うわっ、なんだありゃあ! 幽霊か!? いや、もっと気色の悪ぃ、タチの悪い代物だぜ! あの少女の、最後の記憶まで、根こそぎ喰らおうってのか!?」

カイン「……下衆が。どこまで行っても、やることは変わらねえな、お前らは」

カインは、一瞬の躊躇もなく、その手に持つ《絶罪鍛鎚》を、灰の亡霊へと、まるで薙ぎ払うかのように叩きつけた。  しかし、大剣は、まるで濃い霧を斬ったかのように、その実体のない体を、何の手応えもなく、虚しくすり抜けてしまう。

灰の亡霊《……無駄ダ……無駄ナコト……。我ラハ……この街ニ溜マッタ、オ前タチ人間ノ、悲シミト、後悔ト、絶望ノ記憶ソノモノ……。物理的ナ攻撃ハ……我ラニハ……一切、届カナイ……》

亡霊は、まるで囁くかのように、しかし嘲るかのように、そうカインの脳内に直接語りかけてきた。  だが、次の瞬間、亡霊のその嘲笑は、驚愕と、そして恐怖へと変わった。  カインの振るう大剣が、その内に秘めた、聖なる虹色のオーラを、まるで暗闇を照らす太陽のように、眩いばかりに解き放ったのだ。その清浄にして強大な光を浴びた灰の亡霊たちは、まるで聖なる炎にその身を焼かれた不浄なる悪魔のように、その体を激しく震わせ、実体のなかったはずの黒い煙の体に、確かな、そして苦悶に満ちた輪郭が、くっきりと浮かび上がった。

カイン「……そうかい。なら、てめえらに、まずはその確かな実体と、そして痛みを与えてから、跡形もなく、微塵切りにしてやるまでだ」

カインの口元に、獰猛な、そして冷酷な笑みが浮かぶ。  実体を得た亡霊たちは、もはや、カインの敵ではなかった。虹色の、罪を浄化する光を纏った大剣の一閃が、三体の亡霊を、一瞬にして、断末魔の叫びを上げる間もなく、おびただしい数の光の粒子へと変えて、完全に消し去った。

助け出された少女は、最初はカインたちのことを、まるで新たな脅威でも見るかのように、強く警戒していたが、カインの背後からおずおずと顔を出したエリシアの姿を見ると、少しだけその険しい表情を和らげた。

少女「……本当に、ありがとうございます。助けて、くれて……。私は、リラ。この、忘れ去られた都の、最後の記憶を守る者です」

エリシア「リラ……。大丈夫だった…? すごく、怖かったよね…?」

エリシアは、リラへとゆっくりと駆け寄り、その冷たくなった手を、そっと、そして優しく握った。

リラ「……ええ。でも、私は大丈夫。このロケットが、いつだって私を守ってくれるから。これには、この街がまだ光に満ち溢れていた頃の、お父様とお母様との、かけがえのない大切な思い出が、たくさん詰まっているんです。この街の他の人たちは、あの忌まわしい灰に、その人の全てであるはずの記憶を、根こそぎ喰われてしまった…。でも、私は、絶対に忘れない。この街であった、全てのことを、忘れちゃ、いけないんです。それが、私の使命だから」

リラは、そう言うと、その美しい銀のロケットを、再び胸に、まるで祈るように強く抱きしめた。その大きな瞳には、歳不相応なほどの、強く、そしてどこか悲しい、揺るぎない決意の光が宿っていた。


3. 灰燼の王 ― 全ての記憶を喰らう者

リラの、途切れ途切れだが、懸命な話によれば、この街は、今や一人の、恐るべき、そして絶対的な存在によって、完全に支配されているという。  その名は、《灰燼の王》。  かつて、この光の都ルミナリエを一夜にして壊滅させたという、『嘆きの星』の、その中心核に宿っていた、邪悪で、そして孤独な意思そのもの。王は、墜落の衝撃で砕け散ってしまった自らの体を、この世界で再び再生させるため、そして、その永遠とも思える孤独を癒すため、この街に降り注いだ魔瘴の灰を、まるで手足のように自在に操り、人々から、その人の人生そのものである、ありとあらゆる記憶を奪い、それを喰らい続けているのだという。

リラ「王は、この街で最も天に近く、そして最も多くの人々の祈りと、希望と、そして幸せな思い出が集まる場所であった、あの中央の大聖堂の、その最上階にいます。そこは、かつて、この街の光の源でした…。王は、そこに居座り、この街全体の、そして人々の全ての記憶を、今も、この瞬間も、まるで美食でも味わうかのように、喰らい続けているんです。このままでは、この街も、そして、ここにいる人々も、本当に、ただの魂のない、灰でできた抜け殻になってしまう。だから、私は、行かなければならないんです。たとえ、この身がどうなろうとも。このロケットに込められた、この街の創生の、そして人々の温かい記憶を使って、みんなの、失われた記憶を、取り戻すために」

クレス「……それは、あまりにも、無謀というものですわ。あなたのような、まだ幼い少女がたった一人で、その《灰燼の王》とやらに立ち向かうなど、それは、自ら死にに行くようなものです。もう少し、賢明な方法を考えるべきでは?」

リラ「それでも、私には、行かなくちゃいけないんです! だって、今の私には、もう、この大切な思い出と、この使命しか、残されていないのですから…!」

リラの、魂からの、悲痛な叫びが、静まり返った、そして神の姿なき教会に、虚しく響き渡る。

カイン「……一人じゃねえだろ、もう」

カインは、静かに、しかし、その言葉に確かな重みを込めて、そう言った。

リラ「……え?」

リラは、驚いたように顔を上げた。

カイン「お前は、もう一人じゃねえ。俺たちも、お前と一緒に行く。その、ふざけた名前の《灰燼の王》とやらに、一発、クソでかいお灸を据えてやる、ちょうどいいついでだ。それに、俺も、この場所で確かめなきゃならねえことが、一つできたんでな」

カインは、そう言うと、懐から、先日の星詠みの塔で手に入れた、あの小さな、希望の未来を映し出す水晶の欠片を取り出した。その清浄な欠片は、リラの持つ、過去の記憶が込められた銀のロケットに呼応するかのように、温かく、そしてどこまでも優しい光を、チカチカと放ち始めた。

カイン(独白) 《未来を指し示す、希望の欠片と、過去を繋ぎとめる、大切な記憶の欠片か…。どちらが欠けても、人は、人として真っ直ぐに立っていることはできねえ。ならば、俺が、今、この場所でやるべきことは、たった一つだ。この《絶罪鍛鎚》は、ただ罪を裁き、破壊するためだけにあるんじゃねえ。失われたものを、失われた未来を、そして、失われた記憶を、再びこの手で鍛え直し、力ずくで繋ぎ止めるためにこそ、あるはずだ》

カインは、驚きと戸惑いの表情で自分を見つめるリラに向かって、これまで誰にも見せたことのないような、不器用な、しかし、心の底からの信頼に足る、穏やかな笑みを浮かべて見せた。

カイン「案内しろ、リラ。その、全ての記憶を喰らうという、《灰燼の王》が待ち構えている、大聖堂とやらへな」


4. 決意の眼差し ― 大聖堂への道

カインのその、あまりにも力強く、そして温かい言葉に、リラの大きな瞳から、それまで必死に堪えていた一筋の涙が、堰を切ったようにこぼれ落ちた。それは、もはや絶望の涙ではない。暗く、そして果てしない闇の中に、初めて見出すことができた、小さな、しかし何よりも確かな希望の光に対する、心からの感謝の涙だった。  リラは、力強く、そして何度も頷くと、一行を率いて、この街で最も大きく、そして最も多くの記憶が眠る、大聖堂へと続く、灰に埋もれた大通りを、決然とした表情で歩き始めた。  道の両脇には、相変わらず、虚ろな目をした忘却の住人たちが、まるで灰色の石像のように、微動だにせず佇んでいる。だが、今や、そのあまりにも悲しい光景は、カインたちの目には、もはやただの悲劇とは映らなかった。  彼らは、守るべき者たちだ。失われた記憶を、そして、失われた未来を、何としてでも取り戻すべき、かけがえのない人々だ。

一行が、街の中心にそびえ立つ大聖堂へと近づくにつれて、灰の亡霊(アッシュ・レイス)たちが、まるでその忌まわしき王を守る忠実な番兵であるかのように、次から次へと、まるで地面から湧き出るかのように姿を現し、彼らの行く手を執拗に、そして容赦なく阻んだ。  だが、今のカインたちにとって、それらはもはや、脅威と呼ぶほどの存在ではなかった。  カインの振るう《絶罪鍛鎚》が放つ、罪を浄化する虹色のオーラが、亡霊たちの不浄なる実体を容赦なく暴き出し、その一振り一振りが、確実に、そして慈悲のかけらもなく、彼らを光の粒子へと、断末魔の叫びを上げる間もなく還していく。  エリシアの、月光を宿した《月銀の爪》が、亡霊たちの素早い動きを的確に、そして鋭く切り裂き、ピクシートリオの三色の光が、カインとエリシアを、まるで熟練の戦士のように巧みに援護し、そして、リラの持つ銀のロケットから放たれる聖なる輝きが、亡霊たちの力の源となっている、この街に降り積もる魔瘴の灰そのものを、根本から浄化していく。

彼らは、もはや、ただの偶然で集まった、寄せ集めの集団ではなかった。  それぞれが、それぞれの守るべきもののために、それぞれが背負う深い痛みを乗り越え、そして、一つの、何よりも強固な意志の下に、一つの完全なチームとして、戦っていた。

やがて、彼らの目の前に、天を突くかのように高く、そして黒々とそびえ立つ、巨大な大聖堂の荘厳な姿が、その全貌を現した。  その頂上からは、この街の他のどの場所とは比較にならないほどの、濃密で、そして邪悪な瘴気が、まるで巨大な、そして不吉な竜巻のように、天へと向かって渦を巻きながら立ち昇っている。  あそこに、この街の、そして人々の全ての記憶を喰らう者、《灰燼の王》がいる。  カインは、大聖堂の最も高い尖塔の頂上を、その鋭い目で、まるで射抜くかのように見据えた。その瞳には、これから始まるであろう、これまでのどんな戦いよりも過酷で、そして想像を絶する激しい戦いへの揺るぎない覚悟と、そして、この街の失われた記憶と、そこに生きていた人々の未来を、必ずやその手に取り戻すという、何よりも強く、そして熱い決意の炎が、まるで業火のように赤々と燃え盛っていた。


次回予告

傲慢篇・第十四夜「大聖堂の決戦――記憶の洪流」 ついに、忘れられた王都ルミナリエの中心、大聖堂へと辿り着いたカイン一行。そこで彼らを待ち受けていたのは、この街の全ての記憶を喰らい、もはや神のごとき力をその身に宿した《灰燼の王》その人だった。王の、人の記憶を自在に操る圧倒的な力の前に、絶体絶命の窮地に立たされるカインたち。王が操る、人々の悲しみの記憶が作り出す、終わりのない奔流に、彼らは抗うことができるのか。そして、リラの持つ過去の記憶のロケットと、カインの持つ未来の希望の欠片は、この絶望的な状況下で、奇跡を起こすことができるのか。物語は、記憶を巡る、壮絶な決戦の火蓋を、今、切る。


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