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カイン 星骸を喰らう剣 傲慢篇・第九夜

傲慢篇・第九夜「傲慢の空骸――星焔(せいえん)カルコスの虚塔」




プロローグ ― 星焔の墜ちる夜

灰騙レドームの鏡牢が崩壊し、偽りの街がその醜悪な実体を晒してから三日。カイン一行は、次なる“傲慢の核”の気配を追い、南へと進路を取っていた。彼らの纏う空気は、未だ先の戦いの硝煙と、砕け散った鏡の微細な粒子を含んでいるかのようだった。

南方の、まるで血の海のようにどこまでも広がる不気味な雲海を、まるで神の怒りが具現化したかのように、おびただしい数の血色の流星群が、無慈悲に引き裂きながら大地へと降り注いでいた。その光景は、世界の終焉を予感させるに十分なほど、壮絶で、そして恐ろしかった。

一つ一つの流星は、大気圏で燃え尽きることなく、それどころか空中で不気味に裂け、まるで巨大な昆虫が脱皮するかのように、焼け焦げた骨のような禍々しい殻を剥ぎながら、赤橙色の、目に焼き付くような強烈な火花を、広範囲に撒き散らしている。

――その忌まわしき残骸を、この地に生きる人々は、恐怖と畏怖を込めて 星焔カルコス と呼ぶ。それは、天からもたらされる災厄の象徴であり、触れるもの全てを汚染し、破壊する呪われた存在だった。

灰騙レドームで砕け散った無数の鏡の欠片が、まるで涙のように混じり合った、生暖かい赤い雨が、眼下に広がる広大な砂岩の荒野を、まるで血で染め上げるかのように、じわじわと錆びつかせ、その影響は空にまで及び、夜空さえもが、まるで熱せられた鉄のような、不快な臭いで満たしていた。呼吸をするたびに、肺腑が焼けるような感覚に襲われる。

クレス「大気中のイオン濃度が急激に上昇していますわ。上空で燃え盛る星骸が、その外殻を失い、内部のコアを露出させている状態ね。危険な兆候よ。見て、軌道が微妙に切り替わっていく――あそこに見える、例の虚塔へ向かっているようだわ」
ピオ「虚塔、だと? おいおい、マジかよ! あの、空にプカプカ浮かんでるっていう、バカでかい骸骨のビルみてえな、気色の悪ぃ噂のあれのことか? あんなモンに近づくなんざ、正気の沙汰じゃねえぜ!」
カイン「《星焔カルコス》は、天が流した血の涙、その軌道の傷跡そのものだ。そして、その行き先は、あの地平線の先に見える“空骸(そらむくろ)”――あの忌まわしい塔で間違いあるまい」

カインは、眼下に広がる広大な砂丘を一望できる、巨大な岩塊の上で静かに立ち止まり、その手に持つ新たなる相棒、大剣《煉鎚グリーフブリンガー》を、まるで大地に楔を打ち込むかのように、音もなく深々と突き立てる。

刀身の表面に形成された白金色の特殊な層が、空から降り注ぐ赤焔のエネルギーを、まるで生きているかのようにズルズルと吸い込み、その刃に刻まれた複雑な紋様が、まるで心臓が脈打つかのように、淡く、そして不気味に紅く明滅した。

これまでカインを苛んできた嫉妬核の禍々しい波動は、今は完全に沈黙し、そのかわりに、刃の奥深くで極限まで圧縮された、純粋な傲慢の磁束が、まるで獲物を見つけた猛獣の咆哮のように、あるいは押さえつけられた激情の身震いのように、ビリビリと激しく震え、周囲の空気を歪ませていた。


1. 骸殻の荒廃街(がいかくのがいはいがい) ― 星焔の着地痕

夜明けにはまだ間がある、最も深い闇に包まれた時刻。まるで墨汁で塗りつぶされたかのような、黒い輪郭だけで出来た、かつては街だったであろう場所の無残な残骸が、一行の疲弊しきった視界に、まるで亡霊のようにぼんやりと入ってきた。  そこは、かつて星焔カルコスの直撃を受け、一瞬にして廃墟と化した街の跡だった。

辛うじて残った瓦礫の壁は、星焔の持つ超高熱によってその表面が半ば溶融し、まるで巨大な怪物に噛み砕かれたかのように、鋭利な鋸の刃を天に突き立てたような、異様な断面を晒したまま固まっていた。  かつては人々が行き交ったであろう路地には、おびただしい数の流星骨――炭化し、黒曜石のように変質した、巨大な甲殻類の脱け殻のようなものが、まるで巨大な墓標のように無数に突き刺さり、その裂け目からは、今なお高温の蒸気が、シュウシュウと不気味な音を立てて噴き出している。その蒸気は、硫黄と腐敗臭の混じった、吐き気を催すような悪臭を放っていた。

ルミ「……ひどい……骨のにおいがする……。それに、焼け焦げた鉄の匂いと、何かが腐ったような匂いが混じって……息が、苦しい……。こんな場所に、人が住んでいたなんて……信じられない……」

ルミは小さな手で鼻と口を覆い、悲痛な声を上げた。

エリシア「これが……星が落ちてきた跡……なの? こんなに……こんなに大きくて、黒いの……? なんだか、すごく怖いよ……。みんな、どうなっちゃったんだろう……」

エリシアは、カインの外套の裾を強く握りしめ、怯えたように周囲を見回した。

カインが、足元に転がっていた巨大な流星骨の一つを、大剣の柄で軽く叩いてみると、その内部の空洞が、「ゴォン……」と、まるで古寺の鐘のような、低く、そして不気味な共鳴音を響かせた。  その殻の裏側は、超高熱によって黒曜ガラス状に滑らかに焼けただれており、その所々には、星骸そのものが融解し、再結晶化したと思われる、禍々しい金属質の塊が、まるで醜い肉腫のようにボコボコと膨らんでいた。

クレス「この星焔という現象は、おそらく“空骸蟲(くうがいむし)”と呼ばれる、異形の巨大な寄生生物が、成長の過程で脱ぎ捨てる脱皮片そのものなのでしょう。奴らは、星々の核を喰らい、そのエネルギーを吸収することで成長し、不要になった外殻を、こうして地上へと捨て、さらに空の高みへと浮上を続けるという、恐るべき生態を持っているわ」
ピオ「へえ、そりゃつまり、空そのものをバクバク喰ってる、とんでもねえ化け物だってことか! いやはや、次から次へと、本当に面倒くせえ生き物が出てくるもんだぜ、この世界はよぉ!」

灰騙レドームで、その刀身に無数の鏡の欠片を吸い込んだカインの《煉鎚グリーフブリンガー》が、まるで意思を持っているかのように、目の前の巨大な流星骨の表面を、まるで愛撫するかのようにゆっくりと撫でた、まさにその瞬間。骨の深奥、その芯とでも言うべき部分から、まるで血のような、禍々しい紅色の蒸気が、シュウッと音を立てて漏れ出した。  大剣の刃が、その星焔の成分を、まるで飢えた獣が獲物の血肉を貪るかのように、急速に、そして余すところなく吸収し、元々は白金色だった刀身の表面に、まるで血管が浮き出たかのように、鮮やかな紅色の脈が、また一本、くっきりと増えた。

カインは、その変化を冷静に受け止め、黙ったまま、しかしその瞳の奥には確かな闘志を宿して、大剣を再び背中に負い、この忌まわしき廃墟の街の中心部へと、迷うことなくその足を進めていった。


2. 空骸蟲の影 ― 骸骨の嵐

おびただしい数の流星骨と、崩れ落ちた建物の瓦礫を、まるで獣道をゆくかのように慎重に、しかし迅速に跨ぎ越え、一行が、かつてこの街のランドマークであったと思われる、大きく崩れた鐘楼の残骸へと、ようやく辿り着いた、まさにその瞬間だった。  空気を引き裂くかのような、耳をつんざく凄まじい轟音と共に、山のように巨大な、しかしどこか半透明で実体感の薄い、おぞましいシルエットが、頭上の分厚い雲の下へと、まるで天罰が下るかのように、凄まじい速度で降下してきた。

その全長は、目測で百メートルはあろうかという、巨大な芋虫のような節くれだった腹。翼膜と呼べるような器官はどこにも見当たらないが、その巨体は不可思議な浮力を持って宙に浮かび、その腹部の下側に無数に並んだ開口部からは、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと輝く、しかし極めて危険な白金の火花を、まるで呼吸をするかのように絶え間なく吐き出している。

クレス「間違いありませんわ! あれが、この地域の生態系の頂点に君臨するという“空骸蟲”! 星々の核の欠片を主食とし、そのエネルギーを利用することで、この世界の物理法則である重力そのものを完全に拒絶し、自由自在に浮遊するという、まさに規格外の怪物よ!」
ピオ「拒絶って……おいおい、そりゃまるで、どっかの物語に出てくる、空飛ぶ石みてえなもんじゃねえか! そんな反則みてえな能力持ちが、本当に実在するたぁ、世も末だな、こりゃあ!」
カイン「重力の鎖を、その顎で喰い破っている、というわけか。そして、腹一杯喰った後は、その食いカスである骨を、こうして地表に撒き散らしている。実に、厄介で迷惑な存在だな」

その巨大な空骸蟲は、まるでカインたちの存在に気づいたかのように、その巨大な腹部を、まるで巨大な爆弾倉のハッチが開くかのようにゆっくりと開き、その内部でドロドロに溶融させた星骸の残骸を、まるで灼熱の雨のように、地上へと無慈悲に降らせ始めた。  赤橙色に輝く、高熱の鉄の雨が、眼下の瓦礫の山に無数の穴を穿ち、そこから一斉に、おびただしい量の骨蒸気を、まるで間欠泉のように勢いよく噴き上げる。

ルミ「きゃああっ! 熱いのが……いっぱい落ちてきます……! カインさん、危ないですっ!」

カインが、その手に持つ《煉鎚グリーフブリンガー》を、まるで風車のように高速で振り回し、その刀身に宿る強力な磁束によって、降り注ぐ灼熱の鉄雨を、まるで磁石が砂鉄を引き寄せるかのように、その刀身へと全て吸引する。  高熱の鉄雨は、カインの刀身に触れるよりも早く、その温度を急速に下げられ、まるで夏の夜空を彩る美しい花火のような、無害な鉄の粉となって、キラキラと輝きながら周囲へと静かに散っていった。

だが、その空骸蟲は、カインのその神業のような防御を意にも介さず、なおもその巨体を地上へと降下させ続け、この廃墟の街全体を覆い尽くすほどの、絶望的なまでに巨大な影が、刻一刻と広がっていく。

カイン「あの忌まわしい蟲本体を、今ここで無理に止めようとするよりも、奴が喰らう餌場である、あの塔そのものを先に叩き折る方が、よっぽど手っ取り早そうだ」


3. 星焔カルコスの虚塔 ― 浮遊骨塔への突入

廃墟と化した街の、最も北の端。まるで巨大な獣が大地をその爪で抉り取ったかのように、地層が大きくめくれ上がった、切り立った露頭の上に、問題の虚塔は、まるで死神の鎌のように、黒々と、そして威圧的にそびえ立っていた。  その塔は、この地に降り注いだおびただしい数の星焔骨と、灰騙レドームで砕け散った無数の鏡の欠片を、まるで子供が無邪気に積み木を積み上げるかのように、極めて粗雑に、しかし不気味なバランスで積み重ねられており、空骸蟲がその口から吐き出したという、白金色のドロドログチャグチャしたスラグ状の粘液が、その継ぎ目を、まるで禍々しいにかわのように、強引に溶接していた。

塔の頂上からは、全てを貫くかのような、強烈な星焔のビームが、一条の光の柱となって空へとまっすぐに直上しており、それが上空を旋回する空骸蟲の飛行軌道を、まるで灯台の光のように正確に誘導しているようだった。  塔には、階段と呼べるようなものは一切なく、その外壁は、まるで鍛冶場の炉から取り出したばかりのように、まだ灼熱の熱を帯びて赤黒く輝いていた。常人が触れれば、一瞬で皮膚が焼け爛れてしまうだろう。

かつてハルマゲンで、鍛冶師ブランに特注で仕込んでもらった、蒸気駆動の金属製の背翼を装着したピオが、その翼から妖精粉を燃料とした推進力の火花を勢いよく吹かせ、まるで鳥のように軽々と宙へと浮上する。  クレスが、その卓越した幻影魔法で、カインたちが登るための一時的な足場を、塔の外壁に沿って次々と精密に刻み込み、ルミが、その癒しの冷光で、彼らが触れる部分の表面温度を、一時的にではあるが、安全なレベルまで下げていく。

カインは、そのピクシートリオの三位一体の見事な連携に、寸分の狂いもなくタイミングを合わせ、その手に持つ巨大な大剣を、まるで登山用のピッケルのように、外壁の僅かな隙間へと次々と突き刺しながら、その垂直に近い絶壁を、まるで獣のような驚異的な身体能力で、力強く、そして確実に登っていく。


3-1. 外壁熱障害

塔の外壁は、場所によっては摂氏900℃近い、想像を絶するほどの赤熱状態を保っている部分も残っており、カインの履く頑丈な革製の靴底すらも、まるで紙のように容易く焦がし、強烈な刺激臭を放つ。  カインは、大剣の刀身に宿る強力な磁束を、まるで盾のように塔の表面へと放射し、その超高熱を強制的に吸収させる。すると、大剣の刃紋が、まるで血を吸ったかのように、禍々しい朱色へと可逆的に染まっていった。

ピオ「あっちぃぃぃ! おいおい、こりゃあ、まるで巨大な花火の筒の中を登ってるみてえだぜ! だがまあ、あの忌々しい血雨よりは、いくらかマシかもしれねえな!」
エリシア「……わたしの、この爪……焼けちゃいそうだよ……。熱くて、痛い……」

エリシアは、熱さに耐えかねて悲鳴を上げた。  カインが、大剣の平たい腹の部分で、目の前の赤熱した壁面を強く叩くと、その赤熱していた部分が、まるで魔法のように一瞬にして青白い冷気を帯びた状態へと変化し、急激な温度変化によって、その部分の骨が極度に脆化して、大きな音を立ててガラガラと崩れ落ちた。  そこに、人間一人が辛うじて通り抜けられるほどの大きさの穴が開き、一行は、まるで雪崩に巻き込まれるかのように、その穴から骨塔の内部へと、次々と転がり込んでいった。


4. 骸骨集積室 ― 星蝕炉(ほしむしろ)との遭遇

塔の内部は、意外なことに、がらんどうの広大な空洞となっていた。外見からは想像もつかないほどの広さだ。  そのドーム状の高い天井の中央には、この塔の心臓部である“星蝕炉(ほしむしろ)”――すなわち、外部から集めた星骸の欠片をドロドロに溶かし、それを上空の空骸蟲へと、まるで栄養を供給するかのように絶えず流し続けるためのおぞましい心臓炉が、おびただしい数の太い鎖によって、まるで巨大なシャンデリアのように吊るされていた。

その炉の真下で、まるで死神のような、おびただしい数の人骨を繋ぎ合わせて作られた、禍々しいローブをその身にまとった、一人の星呪司が、巨大な骨の杖で、炉の中に投入された星骸の欠片を、まるで何かを煮込むかのように、ゆっくりと、そして念入りに攪拌していた。その姿は、見る者に言いようのない恐怖と嫌悪感を抱かせた。

星呪司オルヴァ「ククク……よくぞ参ったな、異邦の剣士よ。その、傲慢なる魂を鍛え上げしという、忌まわしき鎚剣…長き旅路の果てに、ようやく、本来あるべきこの聖なる炉の中へと戻ってきたというわけか。歓迎しよう」
カイン「生憎だが、ここへ戻ってきた覚えなど、俺には微塵もねえな。お前が、この骨の山の主だというのなら、今ここで、その汚れた魂ごと討ち取りに来たまでだ」
オルヴァ「フハハハハ! 面白いことを言う! ならば、その大層な願い通り、この聖なる炉の炎で、お前のその傲慢な魂ごとドロドロに熔かし、我が愛しき空骸蟲の、またとない極上の餌としてくれてやろうぞ!」

星呪司オルヴァが、その手に持つ骨の杖で、炉を吊るす太い鎖の一つを、まるで楽器を奏でるかのように、甲高く弾いた。  すると、天井に設けられた巨大な孔が、まるで巨大な口を開くかのようにゆっくりと開き、そこから、上空を旋回していた空骸蟲の、まるで象の鼻のような、おぞましい吻部が、ズルズルと音を立てて侵入してきた。  その吻部の先端から、まるで溶岩のような、真紅の粘り気のある星骸の液体が、ボタボタと滴り落ち、それと同時に、眼下の星蝕炉が、まるで生きているかのように激しく共鳴し、ゴウゴウと不気味な唸り声を上げ始めた。


4-1. 星蝕炉・攻防

星蝕炉から、まるで蛇のように伸びる何本もの骨でできた管が、床を縦横無尽に走り、その先端が、四方八方で、まるで食虫植物が獲物を待ち構えるかのように“骨槍”となって一斉に開花した。  その骨槍の先端からは、おびただしい量の、強酸性の星骸の溶解液が、まるで高圧洗浄機のように勢いよく噴射され、それが触れた床の石を、まるで泡のように、ジュウジュウと音を立てて瞬時に溶かしていく。

クレス「カイン、気をつけて! あの骨から噴射される液体は、極めて強力な鉄酸性の溶解液よ! わずかな水分に触れるだけで、激しく発火する危険性があるわ! 蒸発して気化する前に、何らかの方法で封じ込めて!」
ルミ「わ、私がやります! 癒光シールド、展開しますっ!」

ルミが、渾身の力で清浄なる光の盾を展開し、仲間たちを溶解液から守る。  カインは、大剣を巧みに逆手に持ち替え、襲い来る骨槍の穂先を、その刀身で的確に受け止め、大剣に宿る嫉妬核の強力な磁流を利用して、噴射される星骸の溶解液を、全て刀身の表面へと巧みに誘導する。  おぞましい溶解液は、カインの大剣の表面に形成された特殊な白金層に、まるでスポンジが水を吸うかのように急速に吸い込まれ、そのエネルギーが、刀身に刻まれた紅色の脈を通じて、刃全体へと瞬時に拡散していく。

カイン「あの忌まわしい蟲の餌は、残らずこの刃が喰ってやる。一滴たりとも残すものか」

カインの大剣が、彼の強い意志に呼応し、再び槌のような形状へと、ゴトリと音を立てて膨張し、変形する。そして、その重厚な槌面で、周囲に林立する骨槍を、まるで枯れ枝でもへし折るかのように、次から次へと粉々に粉砕しながら、塔の心臓部である星蝕炉の炉心へと、一直線に向かっていく。  その間にも、ピオの放つ強力なソニックブラストが、星蝕炉へと繋がる骨の管を、内部から共振させて次々と破壊し、エリシアの鋭い月銀の爪が、炉を守るように形成された、分厚い骨の膜を、まるで紙のように容易く引き裂いていく。

オルヴァ「おのれ、忌まわしき鏡の罪の子らめ…! この私が、この聖なる空骸の祝福を、貴様らのような下賤の輩に、そう易々と拒ませると思うてか!」

オルヴァが絶叫すると同時に、星蝕炉を吊るしていた最後の太い鎖が、まるで力尽きたかのようにブチンと切れ、巨大な星蝕炉が、轟音と共に地上へと落下し始めた。  カインは、その落下する炉を冷静に見据え、まるで獣のように高く跳躍すると、その手に持つ煉鎚グリーフブリンガーを、天高く、そして力任せに振り下ろした。

――白金と紅蓮の、閃光。  星蝕炉は、その中心から真っ二つに、まるで熟した果実のように断ち割れ、内部に溜まっていた膨大な量の星骸液が、一瞬にして全て蒸発し、塔内を満たしていたおびただしい量の骨蒸気が、まるで火山の噴火のように、天井の孔から猛烈な勢いで逆流して噴き上がった。  餌である炉を失った空骸蟲は、まるで悲鳴のような甲高い苦悶の声を上げ、その巨体を制御できずに軌道を大きく外し、よろめきながら、すごすごと夜空の彼方へと退いていった。


5. 虚塔崩落 ― 星焔の散火

心臓部である星蝕炉を失ったことで、この巨大な骨の塔は、その支柱を完全に失い、塔全体を構成していた外殻の至る所に、まるで蜘蛛の巣のようなおびただしい数の亀裂が、ミシミシと音を立てて走り始める。  その無数の裂け目からは、これまで内部に閉じ込められていた、赤橙色の強烈な星焔の光が、まるで奔流のように溢れ出し、塔全体が、まるで巨大な火柱の灯籠のように、夜空を紅蓮に染め上げた。その光景は、美しくも、そして恐ろしい、世界の終焉を告げる前触れのようだった。

ピオ「げげっ! おいおい、またしても街一つ、派手にぶっ壊しちまったみてえだぞ! こりゃあ、とっととここから撤退しねえと、俺たちまで巻き込まれちまうぜー!」

カインは、先ほどの戦いで気を失った星呪司オルヴァを、まるで荷物のように無造作に肩に担ぎ上げ(その生死は不明のまま)、崩れ始めた塔の内壁を、まるでスキーでもするかのように巧みに滑り降りていく。  一行が辛うじて塔の外へと飛び出すと、その直後、骨の塔は、まるで巨大な風船が限界まで膨張したかのように、一瞬にしてその体積を何倍にも膨張させ、  内部に溜まっていたおびただしい量の骨蒸気を、まるでロケットのように勢いよく噴射しながら、斜め上方の空へと、ゆっくりと、しかし確実に浮かび上がっていった。  やがて、その塔が限界の高度に達したと思われる瞬間、凄まじい轟音と共に完全に破裂し、灰騙レドームで砕け散った無数の鏡の欠片をその身に帯びた、おびただしい量の骨の粉雪が、まるで鎮魂歌のように、キラキラと輝きながら夜空へと美しく、そして物悲しく散っていった。  その散りゆく火花が、夜空に浮かぶ既存の星座の配置を塗り替え、そこにまた一つ、新たな、そして禍々しい赤黒い傷痕を、くっきりと残した。

クレス「星骸のコアそのものが、空の高みへと霧散し、還元されましたわ。これで、あの忌まわしい空骸蟲の飛行軌道も、完全に崩れるはずです。ひとまずは、危機を脱したと言えるでしょう」
カイン「だが、この程度では、俺の魂に刻まれた罪を完全に赦すには、まだ全然足りねぇようだ。――次なる、そして最後の鎚を、俺は探しに行くだけだ」

カインの持つ《煉鎚グリーフブリンガー》の、白金色の刀身に走る紅色の脈は、この戦いを通じてさらにその色を深め、その脈動は、以前にも増して静かに、そして力強く整っていた。まるで、次なる戦いへの準備が完了したとでも言うかのように。  遠く、満月を二晩後に控えた、欠けた月の鋭い欠片が、厚い雲間からほんのわずかにその姿を覗かせ、あの忌まわしき黒騎士ノクス・レヴナントの、不吉な影をカインに強く連想させた。最後の戦いは、もうすぐそこまで迫っている。


次回予告

傲慢篇・第十夜「傲慢の喰域――破星セクタ・テネブリス」

星骸が夜空に撒き散らすおぞましき赤痕を辿り、ついにカイン一行は、五柱の魔将が誇る最精鋭の前衛部隊が蠢くという、最終決戦の地“星喰域”へと足を踏み入れる。カインの振るう新たなる刃は、そこで待ち受ける傲慢なる魂を、果たして真に赦すことができるのか、それとも無慈悲に断罪するのか――。


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