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孤高の天才未満、あるいはプッチンプリンの悲劇

古賀コン8(お題『孤高の天才未満』)ファンアート作品です
エントリー作品ではありません


 孤高の天才は分かるけど、孤高の天才未満って、一体全体なんじゃらほい。分かんないまま書き進めたらすっかり文学文学したものを書いてしまったし、不完全燃焼。つまりだね、つまりだね、孤高の天才未満、それに囚われちゃあいけないってことなのかもしれないが、さりとてすっかり捨ててしまう訳にもいかず、こうして悩んでいる次第。うんうん唸っている。二百年くらい唸っている。唸り声が脳みその内側に三万回くらい反響しているんだな。少ないね、二百年にしては。どうも頭蓋骨が振動して低周波が出てるみたい。窓が震えてる。床が震えてる。天井はスピーカー。今放送されてます、唸り声。関東一円二十五ヘルツ未満の声に満ちて、古びたプッチンプリンみたいにふるえているよ。ぷっちん、ぷっちん、ぷりんぷりん。

 閑話休題、本題はプッチンプリンですよ。好物の人もいると思います。でもね、あなたがたほんとにプッチンプリン食べてますか? 

 こういう人がいるわけです。スーパーでさ、残業終わりみたいな顔して乳製品コーナーのあたり冷やかしてるの。ほんでふいっと近付いて「おっ、プッチンプリンだ懐かしいなァ」それだけ買ってさ、車に戻る。んで火山ひっくり返したみたいな台形をちょっとくるくる回して眺めて底面の突起にちょっと振れてさ、「これが楽しみだったんだよなあ」感慨にふけったかと思いきや何の躊躇もなくぺりぺりぺり! ぱくぱくぱく! 「やっぱおいしいなあプッチンプリン」ああもうこんなん論外です。何考えてるんですか?

 あれはさ、プッチンプリンなわけでしょう? プッチン足すことのプリンで完全体なわけだ。なのにプッチンしないで食べる輩がいるんですよこの世には。けしからんことこのうえない。プッチンしないならプッチンプリン引くことのプッチンだ。それはただのプリンじゃないですか。プッチンプリンを食べたなんて冗談でも言ってはいけない。プッチンプリンファンダメンタリスツに襲われても文句は言えない。

 駅から家までの、駐車場の並んだちょっとさみしい路地とか。蛍光灯が眩しくて、うすら寒い駐車場だとか。そういうところでふいっと気配を感じたその時にはもう、プッチンプリンファンダメンタリスツに掴まっている。彼らは三人組です。一人があなたを拘束し、一人がスプーンと皿をあなたに押し付け、最後のひとりがプッチンプリンを見せつける。

「プッチン、オア、ノープッチン?」

 できたてほやほや、湯気の立つプッチンプリンです。あなたは選ばざるを得ない。なんてたってむせかえるほどの甘い匂い。それを肺の奥まで吸い込めば、しかし爽やかに抜けていく。カラメルはオールドビターの恋心。ささくれた心臓をちょっとくすぐり、もうよだれが溢れて顎を伝う……いてもたってもいられずに、あなたはぜいぜい咳込むように叫びます。

「プッチン!」

 ここでノープッチンと叫んだ場合どうなるかはもう世間に知れ渡っていますからね、わざわざ言うまでもないでしょう。プッチンプリンファンダメンタリスツは喜んであなたにプッチンプリンを託します。あなたは目をらんらんと輝かせ、震える手を抑えようとしてもっと震えながら……静かにぺりぺりと蓋を剥がします。皿の上にプッチンプリンを置いた時にはもう……カスタード色の肉体はぷりんぷりんとこらえきれないほど震え……あなたは訴えかけられるままにトリガーに手をかけて……プッチン。

 はい、その時にはもうあなたの首は宙を舞っています。中身がもうぷりんぷりんと暴れ回ってまるで夢色シンフォニーです。何考えてるんですか? プッチンしていいはずがないでしょう! よく考えてみてください。プッチンプリンはプッチン足すことのプリンなわけです。それをプッチンしちまったらもうプッチンプリンに足すことのプッチンじゃないですか。プッチンプッチンプリンあるいはプッチンプリンプッチンです。プッチンプリンじゃないじゃないですか! 

 プッチンプリンファンダメンタリスツは悲しんでいます。彼らはもう五十三年も新たな同志を探しているのです! センターのゲンさんは今年古希を迎えます。他の二人は六十九です。デビューの時は華の女子高生でした。アルバムを三枚だし、ヒットチャートを駆け上り、新世代アイドルの代名詞でした。今やライブもろくにできず、起死回生をかけたYouTubeは七十六本合計で三百回再生です。身も心もしわくちゃです。やっていることはかまいたちと大差ありません。彼らの心情を考えてみてください。プッチンプリンがプッチンプリンとして味わわれることはないのです。ありえないのです!それだけを伝えたくて学校をやめ、アイドルになり、孤立し、馬鹿長いグループ名はテレビ欄でカットされ、悩み、CMには出れず、誰にも理解されず、ただプッチンプリンがプッチンプリンとして理解されるためだけに身を捧げ続け、猟奇に堕ち、苦節五十三年、ゲンさんはとうとうパチンコに行くのをやめました。少ない年金をどうにかやりくりしてこんなことをしているのに! あなたは! 嗚呼――!

 三人の嘆きの声に、プッチンプリンが共鳴しています。皿の上で震えています。ぷっちん、ぷっちん、ぷりんぷりん。それはスピーカー。関東一円低周波。富士山までも震わします。反響するかれらの声は、反響してしまっている限り、彼らの頭蓋骨を突き抜けて、あなた方に届くことはないのです……プッチンプリンへ捧げるべきは、ただ沈黙の愛なのです。孤高の天才未満とはつまり、いくらプッチンプリンであろうとしてもあれない、プッチンプリンとして永遠に未完成である、構造に自壊を抱えた、プッチンプリンの本質なのです。どうか覚えて帰ってください。

 プッチンプリンファンダメンタリスツ。彼らに才能は有りませんでした。それでも、愛はあったのです。だから生き馬の目を抜く芸能界で生き残り、うようよしている天才どもを乗り越えて……しかし、そこが限界でした。愛の叫びは反響するばかり。どうか、たまには壁に耳を当て、ニ十ヘルツに思いを馳せてみてください。世界の中心で叫ばれる、彼らの祈り。古びたプッチンプリンの哀歌へと……。

(おわり)

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