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余談

黒板に、丸っこい字で「今月の目標:関係代名詞をマスターする」と書かれていた。

自分の字ではなかった。角張った、癖のある自分の字とは違う、若い講師の字だ。三十年近く、この黒板の前に立ってきたのに、たった一晩でチョークの跡が塗り替えられている。消し忘れられた自分の字の端が、右下の隅にわずかに残っていた。「be動詞」という文字の、Bの縦棒だけが。

生徒たちはいつも通りに席についていた。前から三列目、窓際の席の女子生徒は相変わらず頬杖をついている。一番後ろの男子生徒は今日も英語の教科書の下に漫画を隠している。誰も気づいていない。今日でこの教室から去ることを、誰も知らない。

「今日はちょっと余談をしてもいいか」

彼はいつもそう言って、授業の本題からわずかに逸れる癖があった。生徒たちは慣れた様子でペンを置く。今日の余談は、彼が高校時代に読んだ本の話だった。特に意味のある話ではない。ただ、その本のおかげで、わからないことをわからないままにしておく勇気を持てた、というだけの話だった。生徒たちは半分聞き流し、半分は窓の外を見ていた。それでいい、と彼は思う。伝わらなくていい。ただ、置いていきたかっただけだ。

授業が終わり、生徒たちが教室を出ていく。最後の生徒が扉を閉める音を聞きながら、彼は教卓の引き出しから座席表を取り出した。手書きで、誰がどの席に座り、誰が数学が苦手で、誰が最近元気がないか、隅に小さく書き込んである。後任の講師はまだこの座席表を持っていない。名前を呼ぶたびに出席簿を確認しなければならないだろう。

座席表を教卓の上に置くべきか、鞄にしまうべきか。彼はしばらくその場に立ち尽くした。

結局、彼はそれを鞄の内ポケットに入れた。教室の電気を消し、扉を閉めた。廊下の向こうから、後任講師の声が聞こえてきた。次のクラスの、聞き覚えのない挨拶だった。

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