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【短編小説】プールサイドで100エーカーの森を夢みる午前2時

声をかけてきたのは、あいつらだった。

やたらと唇のでかいおしゃべりと、無口でニヤついたやつ。とにかくダサい二人組だった。

ただ、無駄に俺のギターを褒めてきた。

そりゃそうだ、俺は天才だ。

でも、俺のギターがわかるとはセンスはいい。そして褒められると、やっぱり気分はいい。調子に乗った俺は、レコードを貸して、連絡先を教えてやった。

それから、ちょくちょく連絡が来るようになった。俺はギターを、音楽を教えてやった。

俺たちは流行の音楽には興味がなく、古い音楽が好きだった。ダサい唇は、その大きな唇で歌い、ダサい無口のギターはどんどん上達した。


楽しかった。



「なあ、一緒にバンドを組もうぜ」と、ことあるごとに唇が誘ってきた。

そろそろ自分のバンドが欲しかった俺は、あいつらとバンドを組むことにした。無口のギターは結構やるし、唇自体は気にいらないが、やつの声は、まあ、悪くない。なんだったら後で追い出せばいいし。

知り合いに声をかけて、俺たちはライブをした。

音を鳴らす。

やっぱり俺たちのブルースは本物だった。

楽しかった。



俺たちはだんだんと話題になった。知る人ぞ知るってやつだ。

当たり前だ。俺たちは”本物の音楽”をやっているんだ。

クソみたいなあいつらに音楽の素晴らしさを教えてやっているんだから。



ある日、調子に乗った唇が、歌いながら踊り出しやがった。

いい加減にしろ。

俺は別のボーカリストを何人も連れてきたが、無口は首を縦に振らない。

幼馴染だか何だか知らないが、あいつはもういらないだろ?やりたいことが違うんだから。

それでも、無口は首を縦に振らなかった。



「マネージャーをやらせろ」と、一人の洒落た男がやってきた。

変わったしゃべり方をする胡散臭い奴だった。

気に入らなかったが、ライブのブッキングとか、正直もうめんどくさかった。音楽だけに集中したかった。俺はそいつを雇うことにした。

そいつは唇を気に入っていた。唇の踊りがいいんだ、と言った。

みんなはそいつに同調した。

まあ、好きにしろ。あの音を鳴らせればそれでいい。



洒落男は唇をどんどん前に出した。唇の作ったダサいオリジナル曲をもっと演奏しろ、と。

そんな曲より、俺は先人たちの作った曲がやりたかった。

そもそも唇のその曲だって、ほとんど無口が作った曲じゃないか。

でも、誰も俺の言うことを聞かなくなってきた。

酔っぱらいの戯言だって。

自分たちだって酔っぱらってるくせに、俺だけが酔っぱらってることにされた。

ちくしょう。

指がうまく動かない。



観客は唇の踊りに熱狂した。

あいつらは音楽なんて聞いちゃいない。ギャーギャー騒いでるだけの動物だ。

それでも、レコードは売れ、生活には困らなくなった。

唇はもうミュージシャンじゃない、ビジネスマンだ。



「こんな曲よりあれやろうぜ」レコーディングの合間に無口に声をかける。

無口だけが一緒に演奏してくれた。

その頃には、無口と一緒に別のバンドを作るか、そう思った。

いや、おかしいだろ?出ていくのはあいつらだろ? これは俺の作ったバンドなんだから。

俺からは、絶対に辞めるなんて言わない。



あっという間にバンドは人気者になった。

スター、ってやつだ。

でも、それは俺のバンドではなかった。

もう、ライブも、レコーディングも行きたくなかった。

あんなに楽しかったギターを弾く気にもならなかった。ただ、恋人と酒と一緒にいた。

生きながら、死んでるみたいなもんだった。

「あなたにはすごい才能があるのよ」恋人のなぐさめも、俺にはなにも響かなかった。

無口だけがちょくちょく様子を見に来たが、もう、バンドなんてどうでもよかった。

お前は俺の音楽より、唇のダンスがいいんだろ?





ある日、俺の、ベットで、恋人が無口と寝ていた。






俺は、どこで何を間違えたんだろうな。

俺は、音楽の才能があって、ギターもベースもピアノも、全部鳴らせたのにな。

俺は、頭も良くて、周りのバカどもにはわからない音が聞こえてたのにな。


俺は、ただ、好きな音楽をやりたいだけだったのにな。



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