見間家の平和な日常「2025七夕特別編」
「7月しょっぱなから酷暑ぶっ放している天体のみなさ~ん!せ~のっ!こんにちはー!」
「開幕から棘が多すぎるだろ。」
買い出しの帰り道、暑いから公園で経口補水液でも呑んで休憩しようとベンチに座っていると、いきなり隣に座っている友人m氏が立ち上がりこう叫んだ。
「本当に暑すぎるだろ。自分の部屋なんて冷房17度で風力一番強くしても室温30度くらいだったぞ。」
「それはお前の部屋のエアコンが壊れているだけだろ。天体のせいにするなよ。」
こいつは何を言っているんだ。普段からこういうところがある。
「てか今日七夕じゃね?」
「だから二人で買い出しに行ってるんだろ。目的忘れてんのかよ。」
そう、今日は七夕パーティーをするための材料を二人で買いに行ったのだ。まさかそれを忘れているとは。だらしがない。
「明日だと思ってたわ。」
そっちの勘違いかよ。
「短冊なに書こうかな。」
えむはあからさまな態度で自分の方を覗き込んでくる。
「それはあれですか。何を書くか言えという事ですか。」
「そんなこと一言も言っていないじゃないですか。」
と、言っているものの、目からにじみ出ている。何か言えという圧が。にしても何を書こうか。しかし自分自身、特に決まっていないのだ。だが、こいつはバカだ。適当なことを言えば流してくれるだろう。
「持ち家。」
「無理じゃん。」
ほらね。
「あるさんの願いは叶わないという事で。」
あまりにも不謹慎だが、今更こんなことを気にしていては仕方がない。スルーするとしよう。
「…というか、お前は何を書くんだよ。」
その直後、あいつの弱みは握っていないという事に気づいたので、自分も聞いてみる。するとこいつは、少し困ったような表情を浮かべる。またも少しの沈黙が流れた後、口を開いてこういった。あめmさんの衝撃的な発言まで、3!2!1!
「秘密。」
昔からこういうところがある。
「お前さ…。」
この人はエンタメというものを知らないのだろうか。いっそのこと、そうであってほしい。
「そういえばさ。」
そういえばで済まされていい問題ではないのだが、こいつにそのようなことを問いても無駄だろう。諦めて次の話題に乗り移ることにした。
「自分生の天の川って見たことないんだよね。」
ある程度的を得ていそうな回答だ。
「お前、都会生まれだもんな。」
「都会って程ではないよ。というか、あるさん、自分の地元来たことないじゃん。」
それはそうだが、会話からほどほどに賑わっているところの出生なのは予想できる。おそらくだが、自分の地元と近い雰囲気だろう。
「いつか連れて行けよ。」
「普通に無理。」
なんでだよ。
「でもあれかな。織姫と彦星にもプライバシーっていうものが生まれたのかな。」
「それはあれか?見たことないという話とつながっているという事か。」
こいつは何を言っているんだ。プライバシーってなんだよ。
「ほら、最近雲で隠れて見えないっていうことも多いでしょ。町の光で見えないっていうのもあるとは思うけど。」
理解できるかできないかの瀬戸際。さらなる淵に追い込むかのように追い込みをかけてくる。
「ほら、雲のヴェールみたいな。」
分厚い雲の上でベガとアルタイルの結婚式が行われているとでも思っているのだろうか。
「まあ、よく考えたら年一の会合で他の人にじろじろ見られながらっていうのは気持ちのいいものではないよな。」
七夕ってそういう話だっけ。返事をしたのは良いが、自分の中にはいまだにその疑問が残っていた。
「じゃ、自分も自分の所の子たちとの会合の準備を進めるとしますか。」
「毎日のように顔を合わせているけどな。」
えむは飲み終えたペットボトルを野球ボールのように構える。そして現役選手もびっくりな情けない姿でゴミ箱に向かって投げた。
「うわー!外れたっ!」
「何してんのお前。」
えむは走ってペットボトルを拾いに行った。
「あるさーん!投げていいよー!一緒に捨てるから!」
「へいへい。ありがとな。」
その日の深夜、リビングに向かうと、すでに先ほど購入した笹が飾られていた。それに目を奪われいると、後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。
「笹蕨の笹って七夕から来てるんかな。」
どうやらえむが部屋にいたらしい。電気がついていなかったから誰も居ないと思っていたのだが。
「びっくりした。なにしてんの。」
「普通に作業してた。」
電気ぐらいつけろよ。
「あるさんこそ何してんのさ。」
「自分は普通にお腹空いたから水でも飲もうかと思って。」
「お腹すいた時に水を飲んで意味あるのか?」
そんなえむの言葉は無視してコップに水を入れ、一杯飲み干す。
「自分もくれ。」
「このコップでいい?」
「嫌だ。」
わがままだなあ。
「潔癖症なんだよ。」
「心の声に入ってこないで。小説っぽいほうで。」
「メタいこと言わないで。今回ただでさえセリフが多いのに。」
一番メタいことを言っているのはこの人だろう。水で満たされた二つのコップを持って、テーブルの方に移動する。
「ありがとうございます。」
えむに片方の水を渡し、テーブルに置いてある短冊に手を伸ばす。
「書くの?」
「書く。」
意外そうな顔で自分と短冊を交互に見てくる。疲れないのだろうか。
「…本当に持ち家って書くんだ。」
大きな文字で自分の欲望が書かれた短冊を持って、自分は席を立つ。一番見えにくいところに掛けて席ほど座っていた席に戻った。
「罪悪感はあるんだね。」
図星だ。
「なら、自分も書いちゃおっかな。」
椅子に座っているえむも短冊に手を伸ばし、何かを書き始めた。少し経ち、こちらに歩いてきたえむの短冊に目を向ける。
「…なんだかんだいつも言ってるもんな。」
「まあね。他に自分が書きたいことっていうのもあんま分かんないしね。じゃあ、寝ようか。」
「そうだな。」
自分とえむは、二人で寝室の方に移動していった。「持ち家」「世界平和」、一際目立つそんな短冊たちを残して。
