もうすぐ梅雨、未だ大雨、心に警報
ビニール傘しか使っていなかった君が、柄物の傘を差しているのを初めて見た。
「『買っては捨てるなんてもったいないよ』って、彼女にもらったんだよね」
その話を聞いて、君に彼女ができたのを知った。君は嬉しそうに、チェック柄の傘を大切に握っている。
そっか、彼女ができたのか。
出会ったのはいつだったっけ。もう思い出せないくらい、当たり前のように近くにいる気がした。
君はサークルの同期で、男子校出身で女の子には慣れてない、そんな感じが見て取れるようなひと。
硬派というのは違う気がするけど、中性的な感じだったかもしれない。まだ高校を卒業したてだったのもあるけど。
そういうところに好感を抱いた。
恋、というのは簡単で、好きと思ってしまえば好きということになる。けれど、恋、と縁遠い私なんかは、この気持ちが恋、なのかはたまた人として好きなのかは、今でも答えがつかない。
答えがつかないこの気持ちを言葉にしたいのだけど。
あまり2人になることはなかったけど、サークルで笑ってた君の笑顔が目に焼き付いているのは、私が君の笑顔を見過ぎでいたからなのか、遠目でちらりと覗いてたからなのか。
どんな思い出も全てどうでも良く、だけども大切に思う胸が悲鳴を上げていた。
君が、一緒に喫茶店に行った時、大量の砂糖をコーヒーに入れるのを見るのが大好きだった。
今君の隣にいる彼女は、それを見て「入れすぎだよ」と笑うのだろうか。そのままでいて欲しいと思い、何も言わないのかな。
私は何も言わなかったけど、彼は「身体のためにちょっと控えた方がいいよ」と言ってくれる人の方がよかったのだろうかと、
考えてもしょうもないことが、頭の中を巡った。
身体に悪いのがわかっていたって、自分の好きを貫いている君がよかった。
ざあざあと降る雨は、きっとしばらく止まない。
早稲田通りの坂は、下に降りるほど水たまりが深くなる。そんなの当たり前だ、と思ったけど、こんなに下を向いて歩くことが初めてで、やけに目について嫌だ。
濁った水たまりの上をわざと水が跳ねるように歩く。
なんで、なんで。
なんで彼女ができたの?
ビニールの傘でいいって思うくらい、おしゃれに興味なかったじゃん。
そういう色っぽいものに興味なかった。女の子にもおしゃれにも、恋愛にも興味のないところが好きだった。
なのになんで。
雨が止まない。
なかなか止んでくれない。
視界がぼやけていく。止まない雨のせいだ。ずっと私の心を温めてくれていた人は、私の隣にはいない。
少し声を出してみたけど雨にかき消される。自覚しているのかわかんない気持ちはまだここにあると思う。
帰宅して気がついたら眠っていた。
相変わらず夢に君が出てきたので、私はもうしばらくこの気持ちと生きていこうと決めた。
