『鬼の孫』~木目角弥栄・序章~③
◎ 木目角家(夜)
◎ 同・弥栄自室(夜)
ベッドに寝かされている弥栄(角
あり)。
母、小野塚と両親らが見守ってい
る。
◎ 同・居間(夜)
母、小野塚と両親がいる。
お茶を出す黒塚。
いきなり小野塚母がその手首を掴
む。
小野塚母「襲っておいてそこの娘になる
ってどういうことなの!?」
小野塚「母さん!」
母「小野塚さん!」
母仲間に制されては、手を放さざ
るを得ないが、小野塚母も父も気
持ちが収まらない。
小野塚母「私も殺されそうになったの
よ!口出す権利はあるとおもうわ!」
小野塚父「主従の家柄なのはわかる。町
を守ってきた家柄なのも承知してる。
でも子が狙われ、妻まで殺されかけ
た。こんなことにはもうこれ以上巻き
込まれたくないです!」
小野塚「父さん!」
小野塚父「おまえは黙ってろ!」
小野塚「黙らないよ!助けてくれたのも
弥栄だよ!わかってるよね」
小野塚父「それは・・・」
小野塚父、母、一旦黙るが、
小野塚父「それでももとは木目のみの因
縁だ。申し訳ないが、うちはここで
降りさせてもらう!」
決然と席を立つ小野塚父。
小野塚母は一礼した上で、やっぱ
り決然と席を立ち、息子も促して
去る。
私のせいですよね、という表情で
弥栄母を見る黒塚だが、
母「違う違う違う!絶対違う!違うか
ら!!」
叫んだ弥栄母、毅然と黒塚を見、
ぎゅっとかき抱く。
母「みんな自分のことしか考えてない。
弥栄は特別なの。だからあなたも九鬼
の影響を断てた。うちから離れたら、
小野塚だって危ないのに。危ないの
に・・・」
思わず弥栄母を抱き返す黒塚。
母「(気づいて)仁保ちゃんありがと
ね。私もほんとは心細い。弥栄の父
親が生きててくれたら、とか、いらん
ことまでも思ってしまう・・・」
黒塚「お一人で、頑張ってこられたんで
すね」
母「頑張ってきたのは弥栄よ。小さい頃
からいろんなものが見えて、いろんな
ことに振り回されて。あの子連れて出
奔したこともあったけど、どこに行っ
ても数鬼がいた・・・」
黒塚と抱き合ったまま、一人語り
の弥栄母を、黒塚は愛しく抱いて
いる。
母「塚はね、いいの。どっち側でも。『つ
かず離れず』っていうでしょう?あの
『つか』もある意味塚なのよ。あ、そ
うだ。数鬼だけど味方もいるのよ。三
つの木って書く三木、三の鬼の三鬼は
味方。そのことは・・・覚えてて・・・」
語る言葉が弱まって、なぜか母、
深く眠っている。
それは黒塚が何かしたからに見え
る。
だって髪が、黒塚の髪がうねって
いるから。
「すみません親父たち、気が立ってて、え?
おばさん?」
戻った小野塚が弥栄母に走り寄る
が、そこに見舞う黒塚の髪。
斧を出せないよう、側の手を壁側
に貼り付け、体のほかの部分とは
別に、髪でグルグル巻き上げてし
まった。
小野塚「ほどけ!おまえやっぱ敵なの
か?親父の言うとおりなのか!?違う
だろ?違うよな?仁保!」
答えず、ざわざわの髪とともに二
階へ上がってゆく黒塚である。
◎ 二階へ上がってゆく黒塚(夜)
能面のような表情だが、実は憂い
に満ちている。
黒塚(独白)「ズタズタだった髪を、な
おしてくださったのはお母さま。
娘のように可愛がってくださった。
九鬼では力しか求められなかったの
に、お母さまは、私が弥栄を殺そうと
したことまで受け止めてくださったう
えで、
仁保ちゃん
仁保ちゃん
って可愛がってくださった。
だからもういい。
私は・・・」
弥栄の部屋に入って、後ろ手にド
アを閉める黒塚。
弥栄は未だ角のまま、自分のベッ
ドで死んだように眠っている。
黒塚「私は弥栄を守って逝こう・・・」
超絶長髪の黒塚が、昏々と眠る弥
栄にゆっくり覆い被さってゆ
く・・・
◎ 木目角家を照らす朝日(朝)
◎ やっと髪毛の縛めを脱する小野塚(朝)
腕をブン!と振って、斧を出し、
がっと握って駆け出す。
居間→階段→二階→弥栄の部屋
へ。
小野塚「弥栄!」
弥栄のベッドには見事な黒髪が
幾重にも折り重なっている。
髪にとり殺された?
いや、そこにあるのは美しい長い
髪ばかり。
7メートルはゆうにある。
弥栄は??
小野塚「弥栄!弥栄!!!」
つややかな髪たちをどかしていく
と下から、いまだ眠れる弥栄が現
れる。
角が、消えている。
小野塚「弥栄!弥栄!」
弥栄気づいた。
弥栄「小野塚・・・」
小野塚「弥栄、角!」
弥栄「(触れ、)ない!なくなってる!
夢?」
小野塚首を否と振る。
弥栄「髪・・・?本体は?仁保は!仁保は!
どこ!」
「弥栄!」
小野塚と同じ勢いで、弥栄母来
る。
母「あのガキ!あたしを眠らせた!弥
栄!弥栄!何もされてない?角!?
なくなってる!どうして!!」
何もかも一気に言って一気に驚い
て!
でももっと驚いたのは、髪の毛の
中から弥栄が見出した、一体の土
人形だった。
弥栄の手のひらより小さい、丸禿
坊主の土人形。
それは黒塚と同じ服を着てい
た・・・
弥栄「仁保?仁保なのか?答えろよ!」
人形はもちろん答えない。
母が受け取り胸に抱く。
7メートルもの長い黒髪は消え
ず、土人形のほうが崩れ散っ
た・・・
母「仁保ちゃん!!!」
悲痛に叫ぶ弥栄母。
弥栄も小野塚もただただ痛切・・・
かぶって弥栄のオフボイス。
弥栄オフ「太古、アマテラスが閉じこも
った岩戸の、閉じられた扉の内側か
ら、鬼は生まれた。
スサノオの残虐が自分のうちにもある
のだという深い明察が、かの神を岩屋
に閉じこもらせたのであり、弟の所業
に怒って、などという、浅薄な感情で
はなかったのだ。
それでいて、自分より美しい女神があ
がめられたら悔しい、そんな浅薄も持
ち合わせている女神だったのである。
タヂカラノオに引きずり出されたと
き、彼女の浅薄とスサノオに似た残虐
が中に残され、そのどちらかが数鬼
に、もう一方がキメ(鬼目であり木目
である者)になったのだと言われてい
る・・・」
◎ 学校・正門(朝)
またも
着任式
という看板が出ている。
◎ 体育館(朝)
並んでいる生徒たちの中に弥栄、
小野塚ら。
ちょっと呆れた感じで。
小野塚「また校長の変わんのかよ」
弥栄「どうせまた、数鬼なんだろ?」
小野塚「そんなに裏山がほしいのかね」
弥栄「俺らの知らない事情なんだろうな」
小野塚「くあああー。鬱陶しー」
見遣って言う。
小野塚「あ。名前貼られた。ち、ぎ、ら?」
弥栄も見遣る。
姓は千木良(ちぎら)。
弥栄「ちぎらか。千鬼羅、羅刹もコミか
もな」
小野塚「望むとこですよ」
他の生徒に見られないていどに、
斧を示す小野塚(すぐしまう)。
今演壇に『千木良義俊』が立つ。
顔はまだ見せない。
◎ 学校裏山
~から、校舎体育館等を見下ろす
二人分の人影がある。
女子っぽい影と男子っぽい影だ。
(こちらも顔は見せない)
女子影の声「木目角君、やっと『鬼の
孫』検索やめましたね」
男子影の声「宿命を受け入れる覚悟が出
来たんだろう。供も離反してないみた
いだしな」
女子影の声「そろそろ合流しますか」
男子影の声「もうすぐだ。でも今じゃな
い。彼が千木良にどう対するか、そこ
を見たい」
女子影の声「苛酷・・・ですね」
男子影の声「・・・」
一度黙るが、
男子影の声「乗り越えるさ。彼は正統中
の正統だ。見かけほどはもろくない」
視線は今も校庭を見下ろしてい
る。
◎ 校庭
着任式が終わったのだろう、生徒
たちがぞろぞろ校庭に出てきてい
る。
そんな中に弥栄と小野塚。
弥栄がふっと裏山を見上げる。
小野塚「どした?」
弥栄「・・・いや」
それでも見上げ続ける弥栄で、
第三話 了
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