『鬼の孫』~木目角弥栄・序章~②


◎ 木目角家

   ~に駆け込む弥栄、小野塚。

弥栄「母さん母さん母さん」
小野塚「おばさん!」


◎ 同・居間

   弥栄、その母、小野塚、黒塚がい
   る。

母「いきなり海外赴任?娘置いて?」
弥栄「ありえないだろ本人だってこない
 だ赴任してきたばっかなのに」
小野塚「黒塚さんはそのまま弥栄んとこ
 で世話になれって新校長。待って何で
 俺が伝えてんだ」
弥栄「戦闘シーンに参加したからじゃ
 ね?あ、これ預かった。足りなかった
 ら言ってくださいって」

   と通帳を母に渡す。
   母、ちらっと額面見るが、

母「ぐえー、多過ぎ。でもこんなの使わ
 ない。仁保ちゃんは私のポケットマネ
 ーできっちり育てるわ!養子縁組して
 いいのよね」
黒塚「あのっ」
母「駄目なの?駄目じゃないでしょ?で
 しょ?」
   別人のように黒塚を溺愛してるら
   しい母に、ちょっと呆れる弥栄で
   ある。


◎ 仁保室

   地下で窓もないのだが、先般弥栄
   母と選んだり据えたりした家具が
   かわいく収まっている。
   弥栄、小野塚、おっかなびっくり
   入る姿が、二人の女子不慣れぶり
   を物語っている。

小野塚「うはー。これがあの地下室?変
 われば変わるもんだなあ」
弥栄「地下でごめんな。数鬼のサーチに
 ひっかからないため、っておふくろ言
 ってたけど」
黒塚「十分だ。久喜の家では部屋もなか
 った。今は部屋があるだけじゃない。 
 かわいいものがいっぱいだ。ほら」

   と出したのは、フリルのついたか
   わいいぱんつ!
   慌てて目を覆う弥栄、小野塚。

小野塚「黒塚さん黒塚さん!」
弥栄「オトメはオオカミにそういうの見
 せない!」

   黒塚も気づいてあっとなり、しま
   う。
   大赤面。

黒塚「ごめん。つい。うれしくて。ハン
 カチかと思ってたし・・・てかあたし、
 女って扱って貰えたのも初めてで・・・」

   弥栄、小野塚、ぐっとなる。 
   気づかないのか、黒塚、続ける。

黒塚「こんなに大事にしてもらった。嬉
 しい。絶対恩返す。命かけて、返す」

   真剣な表情の黒塚を、弥栄、言い
   知れぬ情でみつめる。



◎ 弥栄自室(夜)

   PCを叩く弥栄がいる。
   ウェキペディアで 『黒塚』を検
   索している。

弥栄(心中)「塚が、使い鬼の意味って
 のはなんとなくわかった。
 小野塚は斧塚、武器使い。
 代々、木目に仕えてきた。
 じゃあ黒塚は?」

   ウェキペディア文面に表れる黒塚
   由来。
   騙して喰らうべき僧だか美青年だ
   かを守り、身代わりに死んだ女
   鬼・・・
   挿し絵のイラストがどこか黒塚仁
   保に似ている。
   美しいが幸薄そう・・・

弥栄「これからは幸せになるんだ。命令
 だぞ」

   イラストに命じても意味ないが、
   それでも言わずにはいられなかっ
   た・・・ようだ、が。
   突然ツキン!と額が痛む。(頭
   が、ではない)

弥栄「つっ!」



◎ 学校(夕)



◎ 同・教室前廊下(夕)

   担任教師から、いろいろ渡されて
   いる小野塚がいる。

担任「特にこれは進路指導資料だから、
 確実に本人に渡して」
小野塚「ど、努力します」
担任「努力じゃだめ。絶対渡して、返事
 も貰ってきて」
小野塚(内心)「嘘だろお?」

   担任は小野塚の、不満顔にも気づ
   かず、

担任「何で休んでるんだろうねえ。そん
 な簡単に風邪とかひく子とも思えな
 いけどねえ」

   言いつつ、教室内に入ってしま
   う。
   受け取った資料を持て余しつつ、

小野塚「俺は下士官とか子分とかじゃな
 いっつーの」

   ぶーぶー言いつつ歩き出す。
   が、すぐ、歩みを止める。
   目の前に、伊沖校長が立っていた
   からだ。
   にやりと、伊沖は笑った・・・


◎ 真の闇(夜)

   小野塚の、独り言だけがそこにあ
   る。

小野塚の声(オフで)「伊沖志麻子。伊
 沖、志麻子。伊沖は五百(いお)に通
 じてる、つまり、五百鬼のいおき。
 志麻子のしは
 死。
 志麻子のまは
 魔物の魔。
 志麻子の子は・・・
 孤独の孤だろうか・・・」



◎ 左右に揺れる視界(夜)

   小野塚武の主観で市中。
   トイメンから来る連中は、彼を直
   視する都度息を呑んだり悲鳴を上
   げたりして逃げ散る。

小野塚「??」

   ゴジラの歩行主観視界のような風
   景。
   手前に半ば差し出している己が両
   手は、指先が鷲の鉤爪のように湾
   曲している。
   体から垂れ下がっているのは俺自
   身の制服?
   俺どうなってんだ??
   戸惑いつつ歩む小野塚自身の目
   に、

   商店かマーケットの鏡面ガラスに
   写る己

   が飛び込んでくる。
   耳まで裂けた口。
   皮膚一面鱗。
   盛り上がった背中、異様に太くな
   った腕、等々々々・・・

小野塚「これが俺!!??」

   脳裏に蘇る伊沖校長の声。

伊沖(残響)「そんな姿であなたとわか
 ってくれるかしらね、ご家族、主様。
 九鬼を潰し、眷族を奪った罰よ」

   そんな言葉が脳裏に届く。
   相変わらず、行き合う人が悲鳴を
   上げて逃げ散ってゆく。

小野塚(独白)「それほど異様か俺?主
 様って弥栄のことか。ああでもこんな
 姿、弥栄のおふくろ様にも黒塚にも見
 られたくない。
 家に・・・帰ろう・・・」

   踵を返すが・・・


◎ 小野塚宅

   ~上がる悲鳴。

小野塚母の声「きゃああああああっ」


◎ 後ずさる小野塚母(夜)

   そこは小野塚家・玄関内。
   小野塚母は異形になった息子がわ
   からないのかもしれない。
   いやわかっている?
   わかっていても後ずさるほどに異
   形なのだ今のかれは!!

小野塚母「なんで!
 なんであんたがそんな!
 あなた!
 あなた!」

   後ずさりながら夫を呼ぶ母を、抱
   き取って、肩口にかぶりつき、肉
   ごとこそげ取るが、内心は絶叫し
   ている。

小野塚(心中)「やめろおおお!それお
 ふくろだ!生んでくれた人だ!喰う
 な!」

「やめろ化け物!」

   バットで殴ってきたのは父親だ。
   それでも母親、瀕死なのに息子を
   庇う、

小野塚母「だめ、これ武、化け物じゃな
 い」
小野塚父「武だと?おわあ!」

   たじろいだところを変容小野塚に
   弾き飛ばされたのだ。

小野塚(内心)「とっ、父さん!!」

   なのに異形の体は父の体を掴み、
   引きちぎろうとさえしている!

小野塚母「武やめて!」
小野塚父「たけし・・・」
小野塚(内心)「俺だってやめたい!弥栄!弥栄助けて!!!」

   思わず口をついて出た・・・



「もっと早く呼べ」

   ふっと。
   金色の光に包まれた弥栄が現 
   れた・・・

   何か神々しいその姿。
   額に一対の美しい角が出ている
   ことに、まだ小野塚は気づかな
   い。
   互いの変容。
   だが弥栄はためらいなく小野塚を
   抱きしめ、それだけで小野塚の
   変容は解けた。
   裂けた口も、醜い指も、鱗も消   
   え、父母の傷もひと撫でで癒え
   たのだった。

小野塚「弥栄・・・!」
弥栄「ごめん気づけなくて。あいつら・・・
 狙うなら俺だろうに!」

   怒りの声を上げる弥栄の、額の両
   側に一本ずつ、小さいが形の良い
   銀色の角が生えているのにやっと
   気づく小野塚。

小野塚「弥栄・・・角・・・」
弥栄「ああ。
 出てきちゃった。
 削っても削ってもこうなるんだ。
 こうなっちゃうんだ。
 それで俺、登校できずにいたんだよ。

 ああでも、おまえを見たやつらの記憶
 は消したから。
 おばさんの傷もおじさんの傷も・・・
 どっか不調だったら言って。
 そーゆーのもすぐ治・・・」

   話しながらいきなり脱力する弥
   栄。
   その場に膝から崩れ落ちる。
   抱き留める半裸の(本来の)小野
   塚。

小野塚「弥栄!」
弥栄「ごめん・・・少し・・・少しだけ・・・眠ら
 せて・・・」
小野塚「弥栄!」

   嘆きに満ちて叫んでいる。


           第二話 了





   




            

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