寂しくて寂しくて星になった僕
あらすじ
友達がいない少年タダシは孤独感から死にたいと思ったが、いっそのこと星になりたいと願う。そんなある日、ひょんなことから猫と話し星になる方法を知るが、寝ている間に体から心が抜け出してしまう。いろいろな出会いや身の回りに起きるファンタジックな展開と心の不思議なお話。先が読めそうで読めない展開をぜひ楽しんでください。
ずっと寂しかったんだ。
寂しかったから僕は友達をつくることにした。
「ねえ、友達になろうよ」
「いいよ」
ほらね、簡単にできたよ。
一緒に遊んでくれてすごく嬉しかった。
楽しかったんだ。
だけど、ある時その子はこう言った。
「ごめんね、他の仲がいい友達ができたから」
そう言って一緒に遊ぶことが少なくなってしまったんだ。
その子と僕も一緒に遊んでもいいんじゃない?と思ったけど
僕はその子に嫌われたくなくて、つい、我慢をしてしまった。
そういえば、僕は生まれた時からお父さんもお母さんもいないんだ。
気がつけばそんな感じで施設で育った。
だから寂しいのかな?
親に捨てられたのかな?いや、死んじゃったのかな?
僕はその理由は知らないんだ。
無性に寂しいんだ。ひとりでいるのがものすごく嫌なんだ。
友達がいなくなっちゃったから、また新しく友達をつくることにしたんだ。
今度はインターネットを使って探すことにした。
「誰か僕の友達になってくれませんか?
僕は面白い話が好きで楽しいことが大好きです。」
そうしたらリプやDMが来るようになった。嬉しいな。
だけど、その子達はどこに住んでいるのか、どんな顔なのかわからない子達だった。だけど、いいんだ。これで一人じゃないんだもの。
ある時、その子達のひとりが僕のことをこう言うようになった。
「死んじゃえばいい。あんな奴は友達なんかじゃない。」
僕は何もしてないのに、どうしてこんなふうに言われるのだろう?
僕はすごく泣いたんだ。悔しくて、悲しくて辛くて。
で、僕は他の友達にDMを送ったんだ。
「ねえ、僕はあの子に何かしちゃったのかな?僕はそんな覚えがないんだ」
その子は言った。
「ふうん、知らないうちにあいつを傷つけたのかもしれないよ。
詳しいことは知らないけれどね。」
そして、その子も他の子もこの話題を避けるようになっていった。
気がつけばまたひとりになっていた。寂しい、寂しい、寂しいんだよ。
僕はどうしても一人になってしまう。寂しい、寂しいよ。
そうだ、星になればいいんじゃないかな?え?突拍子もないこと言うって?
地球でひとりぼっちなのは寂しいから、宇宙に行けばいいんじゃないかなって思ったんだよ。宇宙は広いし、星になればもっといっぱい宇宙には星があるからきっと僕と相性のいい気持ちがわかってくれる奴がいるんじゃないかと思うんだ。
じゃ、星になるにはどうしたらいいんだ?
わからない。わからないな。そしたら、施設の庭にいつの間にか住んでいる猫がこう言ったんだ。
「死ぬと星になれるよ」
猫が喋るのは別におかしなことじゃない。僕は猫の言葉がわかるんだ。
「死ぬにはどうしたらいいんだろう?」
猫は言った。
「体が動かなくなると星になるんだよ」
僕は猫の言葉を信じることにした。
体が動かなくなるときは寝てる時だからずっと寝ていれば死ねるかもしれない。
よく考えたら僕は友達が欲しかったはずなのに、いつの間にか死ぬことを考えていた。
まだ夜じゃないけれど、寝れば星になれるのかもしれないと思ったから寝ることにした。
目を瞑ったけれど眠くないからか、眠れなかった。
猫がやってきて僕の顔を覗き込んだ。
「おまえ、馬鹿だな」
え?ちゃんと死のうとしてる僕が馬鹿なのか?
「なんでそんなふうに言うんだよ」僕は涙が出てきた。
「なんで簡単に自分以外の言うことなんか聞くんだよ。
それが馬鹿だって言うんだ」
僕は唖然とした。寂しいのなんか、どこかへ飛んで行ってしまった。
「馬鹿ってのは頭が悪くて勉強ができないやつのことだろ?」
僕は猫に言ってやった。悔しかったからだ。猫のくせに!
猫は言った。
「自分の頭で考えないで会話をする。相手の言う言葉を真に受ける。
それが馬鹿って言うんだぜ。知らないのかよ?」
猫はクスリと笑った。猫って笑うんだぜ、小馬鹿にした顔して。
「僕は相手を信じたいからそのまま受け取ったんだ。どうしてそれが馬鹿なんだよ」
猫に言ってやった。
「あのな、真剣に受け取んなくていい言葉もあるんだぜ。ほとんどがそうなんだよ。それにな、簡単に死のうとするな馬鹿。みんな一生懸命生きてるじゃないか。」
猫は案外と真面目だ。僕のことを馬鹿にしたり叱咤激励したりして忙しいやつだ。
「僕は寂しいんだよ、寂しくて寂しくて仲間が欲しいんだよ」
僕の言った言葉を聞かずに、ふいっと猫はどこかへ行ってしまった。
星になるにはどうしたらいいのだろう?宇宙に行きたいな。
僕は夜になるのを待った。
施設はルールがあって夜ご飯の時間に食堂に行かないとご飯が食べられない。
時間厳守なんだ。
で、夜には猫たちが施設の広いグラウンドで猫会議をしているのを僕はあの猫の情報で知っているんだ。
ご飯をしっかり食べて、僕は猫会議を陰から聞くことにした。
グラウンドに猫たちが集まってきていた。すごいな今日は50匹はいる!
「え〜諸君、今日は議題がある。」
「あ、チミチミ、今日の議題を話してくれたまえ」
聞いていると偉そうだ。
あ、僕と話してくれる猫がいた!
「今日は真剣に監視対象の人間の男の子の議題です。
当施設の私の担当の男子です。」
僕は「あれ?」と思ったんだ。あんなふうにも喋れるのに僕とはもっと砕けた感じなのにな、と思って変に思った。
「その子の名前は海堂タダシくん。10歳。」
ぼ、僕のことじゃないかーー!!!驚いた!僕のことを猫たちが議題にしている!!!
「タダシくんはすごく真面目で友達ができないことを悩んで死にたがっていることが問題です。今日はどうしたら死ねるのだろう、と猫である私に真剣に言ってきました。これから監視を強化します。みなさんもどうか監視対象として見守ってあげて欲しいです。」
猫の言葉を聞いて、驚いた。しかし、ちょっとずつ胸があったかくぽかぽかしてきたのを感じた。
猫たちは心配してくれていたようだった。
「そうか、あのタダシくんが。それは気になるね。」
「私、明日はわざとすりすりしてこようかしら?」
「いいね、俺もガンガン、猫撫で声で可愛がって欲しいにゃん!って言いに行くよ」
「皆さんお願いします。」
僕担当の猫は名前があった。男言葉で話しかけてくれたから雄だと思っていたけれど女だった。まりちゃんと言うらしい。女らしい気遣いができる猫のようで、猫たちから一目置かれていたようだった。
僕はひとりだと思っていたけれど、猫たちからは愛情深く見守ってもらっていることを知って少し嬉しかった。
だけどなあ、星になりたい気持ちはまだ残っている。
眠くなってきたので施設のベッドに戻ることにした。
ホットしたからか急にストンと眠りに落ちたんだ。
ここからは夢か現実かわからなくなった。
心臓が止まったらしい。ふわふわ僕は部屋の中を飛んでいたからだ。
夢かもしれない。だっておかしいもの。
友達が欲しかった僕はふわふわと浮かびながら「綺麗な景色が見たいなぁ」と思ったんだ。そうしたら、山の方へ体が飛んでいった。
夜空に浮かんですいーと飛んでいくのはとても気持ちが良かった。
さわやかな風になれた気持ちがした。
そして、山の方だと思うだけれど
ロープウェイよりも高く飛んで山の上まで飛んでいった。
そこで不思議な出会いがあったんだ。
天狗がいたのだ。絵本で読んだ通りの風貌で赤い顔をして鼻が大きく高くて大きな体をしていた。僕を手招きしていてちょっと怖かったんだけど、近くまで寄って行った。
「きみきみ、きみみたいな子がここに来ちゃいけないよ。」
天狗が僕に向かって喋った。
「え?僕は綺麗な景色が見たいなと思ったらここに来ちゃっただけなんです」
僕は困惑して思ったままを言った。
天狗は困った顔をして言った。
「あのね〜きみね、魂が体から抜けちゃってて危ないよ。どうする?お迎えの人まだ来てないから、ここから先は通せないんだよ。」
天狗は困っているようで僕もどうしたらいいのか困ってしまった。
そこに突然、河童がやってきた。
「天狗さん、おっどうした?男の子がいるじゃないか!ちょうどおいらは里に帰るところだから、なんだったら一緒に連れて行ってやってもいいぜ」
僕は天狗、カッパと立て続けに見て驚きと怖さで固まってしまっていた。
天狗は言った。
「事故にでもあったりしたら俺の責任になっちゃうから、きみに頼んでもいいかな。カッパくんなら安心だ。この子の家に帰して欲しいんだ。」
カッパは言った。
「人間の坊や、俺についてきな。じゃなきゃ二度と人間界に戻れないし、霊界にもいけないぜ」
ひとりは怖いし、帰り道もわからなくなったのでカッパの言うことを聞くことにした。
カッパは歩いて帰るからお前も歩くんだぜと言った。仕方ないからそうするしかないようだ。
「あの、ありがとうございます。僕、大丈夫なんですよね?」
お礼を言ったほうがいい気がして僕はカッパにお礼を言った。
「あのな〜おまえ結構ヤバいところだったんだぞ。おいらが偶然通らなかったらお前、地獄行きだったんだから。」
僕はびっくりと怖さで大声を出してしまった。
「え〜〜!!どうして!!!」
「本当に何も知らないんだな。いいか、よく聞いておけよ。
この世界は人間だけじゃなくて天狗もカッパも鬼も雪女もいるんだよ。
で、それぞれの世界の掟を守って命を繋いでるの。
掟のうちの一つが体から魂が出たら、あの世に行くかこの世とあの世の境をフラフラしてる浮遊霊となってどこにも行けずにずっと退屈なままになるんだぜ。
で、おまえ、名前なんだ?タダシ?そうか、じゃあ、タダシ、
おまえな、魂がなんかの拍子に体から抜けちゃってるんだわ。で、行きたいなって思ったろ?だからこんな山なんか来ちゃったんだよ。」
カッパが怖い風貌の割にこの世界の仕組みをつらつら喋るのが面白くて
僕の怖さは落ち着いてきた。
「僕、死にたいなって思ってたんです。だからかもしれません。」
カッパは言った。
「おまえ、馬鹿だろ!!!人間になるのってすごい倍率高いんだぞ!!!
カッパの俺が人間になろうってんならすんごい徳を積んで人間界に貢献しないと人間に生まれ変われねえんだからな!なんなら、俺と変わるか?ワハハ!!」
僕はカッパが目の前にいて喋っていることが面白くて「あ、これ夢だわ」とわかった。だけど、面白い夢だからどんどん楽しむことにしたんだ。
「なんなら僕と変わりますか?僕、親も兄弟もいなくて友達もなかなかできなくて一人で寂しかったんです。で、星になりたいなって思って。体が動かなくなったら星になれるって聞いたものだから。」
カッパは目を輝かせて言った。
「嘘!いいのか!くっそ〜〜!すげーぞ!本当に人間になれる日が来るなんてな!
カッパになると人間と違うルールで生きるから大変だぞ。いいのか?本当に?」
カッパがすごく喜んでくれたので、どうせ夢だしいいよってことにした。
「いいよ、で、どうしたら変われるの?」
「僕はカッパに、きみは僕に変わるって言ってくれたらいいのさ!」
わかった。その通りに僕は言ったんだ。
「僕はカッパに、きみは僕に変わる!」
一瞬、見てる景色がぐるん!と回転して入れ替わった。
あ、目の前に僕がいる。
「あのさ、カッパになったのはいいけれど、きみは人間の世界のことは知らないよね?僕が教えてあげるから一緒に施設まで行こうか?」
「お?いいのか?じゃあ、よろしくな!」
僕とかっぱは、歩いて施設まで行った。
朝になって施設に着いた。あれ?おかしいな、なかなか目が醒めない。
僕が話したことは
・友達を1人作って仲間になってもらう
・その子と話していろいろ遊んでいれば人間界のことがわかってくる
・勉強はあまり面白くないから一生懸命にやらなくてもいい
・お父さんお母さんは生まれた時からいない
・施設のルールは壁に書いてあるからそれを守ればいい
・入れ替わったけれど言葉は通じるから大丈夫
そうだ、見た目がカッパになっちゃったけど僕の姿は人間に見えるのだろうか?
最後に僕を見守ってからカッパの生活に慣れることにしよう。夢じゃなかった場合は現実だからね。
僕になったカッパは僕の体に入ったようだった。
僕のことは人間の体に戻ったら見えなくなったようだ。
僕はもう夢でも現実でも面白いからカッパの人生を歩くことになった。
猫たちの様子を見てるとどうもカッパになった僕の姿は見えないようだ。
カッパになった僕は人間の僕を見に行った。
ぎこちないのは最初のうちだけでそのうち自然な感じに溶け込んでいった。
なんだ、人間界こうしてみると面白そうだな。
僕は誰からも見えない姿になった。だけど僕の姿になったカッパを影で見ていると
彼が人間を楽しんでいる様子が自分とは違っていたことに気がついた。
あれ?仲良くしている子、あれ誰だ?
あれ?友達みたいな子が他にもいるぞ?
あれ?どうしてだ?僕の姿になったカッパは人気者になっていく。
おかしい、おかしいぞ。
僕になったカッパはずっと笑顔だった。楽しそうだった。嘘だ、僕にはあんなに友達なんかいなかった。一緒に遊んでくれなかったのに、ずるいじゃないか。
それに比べて僕は…僕はカッパになってもひとりだった。
猫に会いにいくことにした。
グラウンドの隅に大きな岩があって、その周りは雑草が茂っていて猫たちの棲家になっていた。そこに行けば猫に会える。
僕の担当のまりちゃんはいるかな?
にゃ〜〜、と鈴が転がるような音色で猫の声がした。まりちゃんだ。
「おまえ、何してるんだ?で、その姿、一体どうしたんだ!どうなっちゃったんだ!」
僕は嬉しくなった。僕のことがわかるんだ!
僕は言った。
「あのね、寝ていたら体から心だけ抜けて山に行ったら天狗がいて、カッパが来てね。僕が死にたいんだって言ったらカッパと変わるか?て言うからそれならいいよ、って変わったの」
猫が口を開けて馬鹿にした顔で言った。
「おまえ、本当に馬鹿なんだな。うーん、これどうしたらいいんだろう?困ったな。」
僕はまりちゃんを困らせてしまったようだった。僕のことを心配してくれているのに。僕はやっぱりダメなやつなんだ。
「カッパって大変なんだぞ。どうしたもんかな〜」
まりちゃんは猫の長老のところへ一緒に行こうというのでついていった。
長老は一番年寄りの猫で長毛のぶちが入った猫だった。目はうっすら青くて品格がある猫だった。
「ん?何かようかな?そしてカッパか、珍しいな、どんな御用かな?」
カッパになった僕は困り果て、ついには涙がどうしようもなくボロリンボロリンと流れ落ちた。止めようと思っても止まらなかった。恥ずかしいし、悔しいし、カッパだったあいつは楽しそうでなんだか惨めに思えて仕方がなかったんだ。
まりちゃんが言った。
「あのう…タダシくんが人間からカッパになっちゃったんです。どうもカッパに言い寄られて入れ替わったみたいで」
まりちゃんはギクシャクして少し緊張している様だった。僕は居心地が悪かった。
「タダシくんか。で、君は今、どうしたいのかな?」
猫が貫禄ある。そして僕をじっくり見据えて僕の意見を待っていた。
「僕は…僕は…友達が欲しいんです。だけど、やっとできたと思ったら嫌っていなくなってしまうんです。だから星になりたいと思って死のうとしていました。」
じっと僕の話を猫たちは聞いてくれていた。僕はポカポカしたいい気持ちになっていく感じがして不思議な気持ちだった。
「で、今もそう思っているのかな?どうだい?」
長老の猫が質問してくれた。
「わかりません。だけど、人間になったカッパくんはすごく幸せそうで、僕が欲しかった友達に囲まれてすっごく楽しそうでいいなと思いました」
まりちゃんが何かを思いついた顔で僕に言った。
「今、タダシくんは何にでもなれる状態なんだぜ。だからやりたいことを言いなよ。なりたいものになっていいんだよ!」
僕は困ってしまった。だって、僕の体はカッパくんになっているし、僕はカッパなのだもの。
「僕は友達が欲しい。ひとりがいやなんだ。寂しくて寂しくて消えてなくなりたかったんだけど、今、そうだな。君たちが優しくしてくれるから猫になりたい!いいかな?」
長老とまりちゃんが顔を合わせてうなづいた。
「いいよ、だけど言っておくことがあるから、それから決めなさい。」
僕はゴクっと唾を飲み込み先の話を待った。
「私たちは猫に見えるかい?」
「はい、見えます。猫じゃないのですか?」
長老は言いにくそうに、しかし口を開いた。
「私たちはね、人間が死んだ後に猫になったものたちなのだよ。」
「だから、私たちになるということはもう人間には戻れないってことなのだよ。」
僕は驚くと共に、なぜか納得してしまった。だけど、ひとりじゃなくなるなら…いっそのこと、と思ったのだ。
「はい、それでもいいです。猫になりたいです。」
まりちゃんが言った。
「あのな、よーく考えた方がいいぜ。まだ話があるからさ、こっちに来いよ。」
まりちゃんはもっと女の子みたいに優しい口調で話してくれてもいいのにな、と思ったが話の流れ的に親切にしてくれているので、それは言わないでおいた。
長老から少し離れて僕はまりちゃんが連れて行った木の影で話を聞くことになった。
「猫は呑気に見えるし、みんな和やかでいいなって思ったんじゃないのか?」
僕はその通りだったので驚いた。猫ってよく見ているのだなぁ。
「うん、みんなと一緒にいて意見交換しているところ見たし、いいなって思ったよ。」
まりちゃんはやれやれ、と言った感じで面倒臭そうに僕を見た。
「あのな〜〜猫の世界だって人間の世界と大して変わらないぜ。
いじめはあるしよ、上下関係だって力が強い奴がいれば噛まれたり血も出るんだぜ。それをいいところだけ見て、自分が持ってないものを期待しても猫になっても
人間世界と同じ様なことばかり起きても、おいらは責任取れないぜ。」
僕はポカンとしてしまった。なんだか嘘をつかれているような、せっかく人間からカッパになったのに、今度は猫になりたいんだけど、僕をやっぱり受け入れてもらえない感じのことを言われてしまった。
僕はどうしたらいいのか、わからなくなって涙がボロリンボロリンと流れてしまった。
「だって、だって、それはないよ〜〜…ひどいじゃないか、ひどいよ!」
まりちゃんも遠くにいる長老もめちゃくちゃ困っていたと思う。だけど僕は仲間が欲しくてひとりでいたくなくて必死だった。
「ひっく、ぼ、僕はそれでも猫になりたいよ!」
まりちゃんがヒソヒソ、と声を何段階も小さくして僕にだけ聞こえる声で言った。
「しょうがないな、本当のことを言うぞ。いいか、絶対に大きな声を出すんじゃないぞ。これは本当に秘密事項で猫以外バラしちゃいけないことなんだ。いいか?」
まりちゃんは僕の目を見て、少しでも動いたら爪で顔をめちゃくちゃにしそうな表情で話し出した。
その顔を見たら涙が自然と引いて、話を聞きたい興味の方へ吸い込まれていった。
「おいらたちは猫に見える宇宙存在なんだよ。いいか、声出すなよ。」
え?え?時間が止まったような感じで僕は頭が真っ白になった。
まりちゃんは続けた。
「さっき、長老が人間が死んだ後になるのが猫って話。あれは真っ赤な嘘。
おいらが話してる方が本当。おいらたちは地球人を監視して守っているんだ。
だいぶ世界中に猫がいろんな場所へ住める様になって
今じゃ、侵略者みたいになってるけど、どっちかっていうと
ガーディアンに近いんだぞ。いいか?ついて来れてるか?」
僕はただただ呆然として話をどうとか判断もできず聞くことに集中していた。
「この秘密を聞いても猫になりたいか?やることがいっぱいだし、実際、猫社会もそんなに人間社会と大して変わらないぞ。それでもいいなら、猫にしてやる。」
カッパのままはいやだ、その気持ちが強くある僕はすぐにでも猫になりたいな、と思った。だけど、猫がこんなにペラペラ喋るのも変だなと思ってきた。だけど、現実なんだからしょうがないよな。
「猫になりたい。うん、僕はもう人間はいやだ。猫になる!」
まりちゃんはじっくり僕の顔を見て言った。
「わかった。じゃあ、長老のところに一緒に行こう。猫にしてやる。」
「長老、僕は猫になります。人間に2度と戻れなくてもいいです。」
「そうか、では猫になってもいいぞ。”僕は猫として生きる”と言いなさい」
「僕は猫として生きる」
まりちゃんが笑った様に見えた。
そうしたら、ぐるりん、と視界が回転して目が回って僕は倒れた様だった。
目が覚めると、天井が見えたんだ。
あれ?僕は、僕は…思わず手を見たんだ。人間の手だった。
あれ?どうしたんだろう?
猫のまりちゃんが僕を見て笑った。
「あのな、夢オチじゃないぜ。カッパになったのはお前の思い込みだよ。
で、カッパがお前になったんじゃなくて、おまえがちゃんと愛されてる。
まわりに友達がいるのにいつまでも”友達がいない”って”なってほしくない方ばかり見てた”んだよ。助かったな、おいらはおまえが猫になっておいらの友達になって欲しかったんだけど。長老が気を利かせて現実に気づかせてくれる薬を嗅がせたんだよ。よかったな。」
ん?まりちゃんって猫だったっけ?なんだかもうわけわからないや。
起きたての僕の頭はぼーっとしていた。そうこうしている間に友達が迎えにきた。
「タダシ!地球侵略計画のミーティングが始まるぞ!」
「あ、そっか僕、宇宙人だったんだ!」
友達がいない僕、話をする猫、僕を監視して見守る猫、天狗、カッパ
あれって、なんだったんだろう?
猫たちは施設の庭で猫会議をしている。
「危ないところでしたね。我々の計画がうっかり漏れるところでした。」
「長老、うまくやりましたね。」
「そうだ。この星の覇権は奴らに渡してはならないからな。」
「タダシってやつは自分のことを人間だと思って我々に接触してきましたけど
なんだったんですかね?」
「あれはわしが作った薬を寝ている間に嗅がせたんじゃよ。
ネガティブな思いがあたかも現実になっていると思わせる薬じゃ。」
「おいら、思わずタダシの必死な顔を見てたら本当だと信じそうでした!」
「そうじゃろ。思い込みの凄さじゃよ。人間を侵略しようとしている宇宙人が
人間の悲哀を感じるなんてこの薬は本当に効き目があるわい。」
「さて、キミも元の姿に戻る頃じゃな」
「あれ…お、おいら…は…」
「元にいた場所へお帰り」
終わり
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