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「プラダ」とコラボ~「ジェントルモンスター」はどこが革新的なの?

近年、日本では韓国カルチャーの存在感の急速な高まりを感じますね。
K-POPや韓国ドラマだけではなく、コスメ、グルメ、そしてファッションまで、韓国発ブランドの日本市場進出のニュースが絶えません。世界のトレンドを語る上で、今やパリ、ミラノ、ニューヨークだけでなく、ソウルのファッションチェックも欠かせませんね。

その中で、私が特に注目しているのがアイウエアブランド「ジェントルモンスター」です。今や視力矯正器具から重要なファッションアクセサリーになっているアイウエアは、みなさんも注目アイテムの1つになっているのではないでしょうか。

昭和の時代はスタッフが医者のような白衣を着ている眼鏡店がありました。そのスタッフは専門的知識を持って、私に最適な眼鏡を作ってくれるのだろうと信頼感を覚えたものです。私が小学生のころ、眼鏡をかけていると「メガネ」というあだ名をつけられるなどネガティブなイメージがありました。昔の眼鏡観は「ファッション」とはかけ離れていましたね。

フレグランスブランド「タンバリンズ」と共に「ジェントルモンスター」を手掛けるのはアイアイコンバインド。LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン傘下の投資会社、L キャタルトンも投資する注目企業です。

先日、「プラダ」と「ジェントルモンスター」との注目のコラボレーションが発表されました。自社のアイウエアも手掛けるラグジュアリーブランドが外部のアイウエアブランドと協業するのはあまり例がありません(以前、「フォーナインズ」と「サルヴァトーレ フェラガモ」とのコラボがありました)。このニュースは世界のファッション業界、アイウエア業界に大きなインパクトを与えました。

アイウエアを20年以上取材して見えた変化


私はファッション記者時代、「日本で最もアイウエアの記事が載るメディア」を目指して、毎年、福井県鯖江市を中心とした眼鏡産地を訪れ、多くのメーカーを取材しました。

日本は、イタリアのデザイン力、中国の生産力と並び、世界有数の技術力を持つアイウエア大国なのです。国内眼鏡フレームの90%以上を生産する福井県の伝統の技術力は世界でも高く評価されており、世界最大のアイウエア企業であるイタリアのエシロール・ルックスオティカが福井県企業をグループ化したことは、その価値を物語っています。同社が手掛ける「シャネル」や「ブルガリ」の眼鏡の一部が日本で生産されていると考えると誇らしいですね。

商品だけでは差別化できない時代


眼鏡は、バッグや洋服ほど素材やデザインの自由度が高くありません。
掛け心地を追求した機能性も一定レベルまで成熟しています。「商品だけ」でブランドを差別化することが難しくなりました。
そこで「ジェントルモンスター」が示したブランディング戦略は、商品・空間・マーケティングが一体となって「世界観を売る」「ブランドストーリーを売る」「体験を売る」ことです。ファッション業界では一般化している戦略かもしれませんが、アイウエアブランドで実践できている例はほとんど見当たりません(3月にオープンしたジンズ銀座店では一部感じました)。

以下、「ジェントルモンスター」の従来のアイウエアブランドとは違う革新性を5つのポイントにまとめました。

1.ショップではなく「アートギャラリー」のような異空間体験
まず何といっても「ジェントルモンスター」の大きな特徴は店舗の空間設計です。青山、銀座にある店舗はまるで現代美術館。巨大なオブジェや動くインスタレーションを置き、来店そのものがイベントになります。デジタル社会において、微妙なフィッティングが必要なアイウエアはオンライン販売に不向きな点からも実店舗作りは重要です。SNS時代では「商品を買う」と共に「体験を共有する」価値が高くなり、この店舗自体がSNSで拡散されるコンテンツになっています。商品を売るだけでなく、アートを見せる、写真を撮ってもらう。その結果、写真がInstagramやTikTokで世界中に拡散され、ブランド価値・認知度がさらに高まり、来店者が増える。そして、さらにSNSへ投稿が増えるという循環の構図が設計されています。SNS時代になり、人々が共有するものは商品そのものではなく体験です。つまり店舗そのものが、ブランド最大の広告媒体になっているのです。

私は以前からソウルや香港の店舗を見て「ジェントルモンスター」の勢いを感じながら、なぜ日本に早く進出しないのだろうと疑問に思っていました。きっとこれだけのスケールとインパクトのある空間演出ができる物件探しに時間がかかったのでしょう。ソウルの「HAUS DOSAN」店内へ一歩足を踏み入れた時は日本で感じる「眼鏡店」ではありませんでした。カフェも併設し、アート作品のようなスイーツを求める若者でいっぱいです。これからも進化するアイウエアショップの新しいスタイルに注目しましょう。

2.グローバルな認知度とファッション性を高めたコラボレーション
「ジェントルモンスター」を象徴するデザインはアート作品のような未来的フォルムとひねりのあるディテールです。加えて、「プラダ」「メゾン マルジェラ」「モンクレール」など、グローバルな感度の高いブランドと継続的に協業することで、話題性、希少性、ファッション性を獲得しています。コラボレーションを単なる売り上げ向上施策ではなく、まだ上陸間もない日本市場におけるブランド価値と認知度の向上につながっています。

3.K-POPパワーと連動したSNSマーケティング
BLACKPINKのジェニーを起用したコラボレーションモデルを発表し、インスタグラムを活用しながら、若い世代への人気が急速に広がりました。2026年のキャンペーンはaespa のカリナを起用しています。新商品の販促やブランド認知度を高めるためにあこがれの有名セレブリティや人気アーティストをイメージキャラクターやアンバサダーに起用したSNS 戦略はファッション業界でも常套手段ですね。「ジェントルモンスター」もK-POP人気と連動したSNSマーケティングがグローバルビジネスに大きな効果を発揮しているようです。

4.ストーリーへの共感を生む装置
先ごろ発表した「プラダ」とのコラボレーションで俳優の坂口健太郎を起用したキャンペーンは、“本”をコンセプトに展開し、土、水、火、空気、愛という5つの要素を通じて、本コレクションの世界観を描き出すというユニークなストーリー性があります。単なる商品広告とは一線を画し、ブランドの思想までアート作品のような映像に落とし込んで伝えているのです。商品の見た目のすばらしさだけでなく、その背景に描かれたバックグラウンドやストーリーに対して消費者の共感を得ることができれば商品に抱く愛着はさらに厚みが増しますね。

5.価格帯が絶妙
「ジェントルモンスター」はラグジュアリーブランドほど高価ではない一方、品質やデザイン性は高く、「初めてのラグジュアリーアイウエア」として選ばれやすいアフォーダブルな価格設定が魅力です。だから若い世代でも「少し背伸びして買えるラグジュアリー」として選ばれやすい。ブランド戦略では、この価格帯の設定が最も難しく、高すぎれば市場が狭くなるし、安すぎればブランド価値が下がる。「ジェントルモンスター」は、この絶妙なバランスを実現しています。

次は「スマートアイウエア」に挑戦

「ジェントルモンスター」はAI時代を見据えてグーグルおよびサムスンとコラボレーションした次世代型スマートアイウエア制作を発表しました。報道によると、本製品は音声アシスタント機能を搭載したオーディオグラスで、サムスンの技術とエンジニアリングを基盤に、スピーカー、カメラ、マイクを内蔵し、音楽再生や通話、写真撮影ができるそうです。またグーグルの生成AI「ジェミニ」と連携しているので多様な機能が楽しめそうです。「顔に着けるコンピューター」というイメージでしょうか。日常生活が変わりそうですね。アイウエアは次代に何ができるのでしょう?視力矯正、アクセサリー、さらに先の可能性が広がります。

時代を彩るトレンドセッターに共通することは、歴史や伝統をリスペクトしつつも、今(既成概念や常識とされること)を疑うこと、それに対して自分なりの答えを形にして表現していることです。この発想の転換こそが、眼鏡業界に新しい風を吹かせる「ジェントルモンスター」最大の革新であり、ファッションやクリエイティブに携わる人に必要なスキルではないでしょうか。「トレンドがない時代」と言われる今を変えましょう。


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