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「シャネル」も「ディオール」も魅了したインフルエンサー、マリー・アントワネット

 横浜美術館で開催中の「マリー・アントワネット・スタイル」展を訪れました。

 会場に到着してまず驚いたのは、その人気ぶりです。池田理代子さんの漫画「ベルサイユのばら」の影響もあるのでしょう。入場待ちの長い列には、年齢も性別もさまざまな人が並び、中にはオスカルを思わせる装いの人やロリータ・ファッションを身にまとった若者の姿もありました。

 この展覧会は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が企画した国際巡回展で、日本では横浜が最初の開催地です。約200点に及ぶ展示作品は、18世紀の宮廷文化を紹介するだけではありません。あらためて実感したのは「ファッションは繰り返す」という言葉。マリー・アントワネットが250年を経た現代でもなおファッションやカルチャーに大きな影響を与え続けているということを思い知りました。

 マリー・アントワネットといえば、フランス国王ルイ16世の王妃として、ベルサイユ宮殿の華やかな宮廷文化、そしてフランス革命による悲劇的な最期で知られています。

 しかし、ファッションの歴史という視点で見ると、世界最初のグローバル・ファッションアイコンだったと言えるでしょう。

 当時の貴族社会のファッションは「おしゃれ」だけでなく、身分や地位、権力を示すものでした。 豪華なシルクやレース、宝石は一般庶民にはほとんど手が届かないものです。 貴族は豪華な服を着ることで、自分の地位や富を誇示していました。 つまり、現代の高級ブランド以上に、「何を着ているか」が社会的地位を表していたのです。それで彼女が身に着けたものは多くの一般女性が憧れました。現代で言えばトレンドセッター、トップインフルエンサーです。平芳裕子著「東大ファッション論 集中講義」(ちくまプリマ―親書)では、近代のファッションに決定的な影響を与えた社会変革の1つとしてフランス革命を挙げています。ファッションの歴史を振り返る上でも注目したい時代です。

2012年の「ヴォーグ」に掲載されたマリー・アントワネットを思わせるケイト・モスをモデルにしたファッションフォト。ドレスはサラ・バートンの「アレキサンダー・マックイーン」

ミケーレの「ヴァレンティノ」デビューもアントワネット

 そして彼女は当時の民衆だけでなく、250年以上を経た現在のトップクリエイターたちも魅了しているのです。

 私的展覧会最大の見どころは、世界のブランドがマリー・アントワネットをデザインソースとして引用したドレスの数々です。

 例えば、ジャンヌ・ランバンは1920年代にアントワネットが愛用したシュミーズ・ドレスを現代的なイブニングドレスとして再解釈しました。

マリー・アントワネットのファッションを参照したジャン・ランバンによるイヴニングドレス

 ジェレミー・スコットは「モスキーノ」で、18世紀のパニエドレスにデニムやアニメモチーフを組み合わせ、ポップでパンクな世界観へと変換しています。

ジェレミー・スコットによる「モスキーノ」のケーキドレス。パニエ形ドレスはマリー・アントワネットの世界を表現

 さらに、アレッサンドロ・ミケーレによる「ヴァレンティノ」デビューの2025年春オートクチュール、ジョン・ガリアーノによるマリー・アントワネットの肖像を用いた「ディオール」のイブニングコート、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のウエディングドレスなど、多くのクリエイターが彼女を現代の感覚で再解釈しています。彼らは歴史的偉大なファッションアイコンを、自分の価値観で編集し、新しい時代の美しさへと変換しているのです。

アレッサンドロ・ミケーレの「ヴァレンティノ」デビュー作となったフローラルドレス。マリー・アントワネットにインスパイアされた
マリー・アントワネットの肖像のあるジョン・ガリアーノによる「ディオール」のオートクチュールドレス
カール・ラガーフェルドによる「シャネル」のクルーズコレクション
「フェンディ」の「マリー・アントワネットとストリートウエアの出会い」をテーマにしたジャンプスーツ
「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のウエディングドレス「マリー・アントワネット」
ソフィア・コッポラ監督の映画「マリー・アントワネット」のための「マノロ・ブラニク」の靴とデザイン画

 ファッション紙記者時代、私はベルサイユ宮殿で開催されたジョン・ガリアーノによる「ディオール」オートクチュールショーの取材を思い出しました。宮殿そのものが持つゴージャスな空気と、ガリアーノが創り出す壮麗なクチュールは、まさに歴史と現代が交差する異空間でした。当時の民衆もベルサイユ宮殿のマリー・アントワネットをこのような羨望のまなざしで見ていたことでしょう。

ファッション史を勉強する意義は?

 ファッション業界には“トレンド20年周期説”があります。もちろん、必ず20年というわけではありません。しかし実際には1970年代、1990年代、2000年代と、一定の周期で過去のスタイルが再評価され、新しい文脈で蘇ることは珍しくありません。

 だからこそ、デザイナーは未来だけを見るのではなく、未来の服を考えるために、過去を研究する必要があるのです。昔のファッション誌を見て、「これかわいい。着てみたい」と思った経験はありませんか。実際、古着、レトロ、ビンテージのブームはたびたびやってきますよね。

 私は専門学校で教える学生たちに、ファッション史の勉強の重要性を伝えています。重要なのは暗記ではありません。その時代になぜそのデザインが生み出されたのか。なぜ、その時代にそのシルエットが支持されたのか。なぜ250年前の王妃が、2025年のオートクチュールやストリートカルチャー、ロリータ・ファッションにまで影響を与え続けているのか。そう考えると、歴史は「知識」ではなく「発想の引き出し」やデザインのインスピレーション源に変わります。「シャネル」や「ディオール」のような歴史のあるブランドの最新コレクションを見ても、アーカイブをリスペクトした再解釈が登場していますね。優れたクリエイターほど、歴史を深く理解し、それを現代の感性で編集する力を持っています。

 私たちファッション業界は、常に1年先、2年先の服のデザインを考えています。しかし、その未来を形づくるファッションのヒントは、実は過去のファッション史の中に数多く眠っているのです。ファッションは”温故知新”。ファッションを学ぶ人にとって、歴史とは未来を創造するための、最高のデザインソースなのです。ファッション専門学校生のみなさん、そんな視点を持ってファッション史の授業に臨みましょう。

フランス革命で用いられたギロチンの刃

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