「形見分けが原因で兄弟が絶縁」たった一つの時計が家族を壊した話
前回少しお話した「形見分け」の続きになります。
「まさか、時計一つでこんなことになるなんて……。」
以前、お葬式が終わってしばらくしてから、あるご家族のお話を聞く機会がありました。
お父様を亡くされ、相続の手続きもひと段落。
お墓のことも決まり、ようやく落ち着いてきた頃でした。
でも、一つだけ。
どうしても決まらないものがありました。
それが、お父様が長年大切にしていた腕時計だったそうです。
決して何百万円もする高級時計ではありません。
どこにでもある、ごく普通の時計でした。
それでも。
最終的に、その時計が原因で兄弟は絶縁状態になってしまいました。
問題なのは、物の値段ではありません
形見分けでもめる。
そう聞くと、多くの方はお金を想像します。
高価な宝石。
土地や建物。
預貯金。
でも現場で見ていると、意外とそうではありません。
古い万年筆。
使い込まれたカメラ。
そして、腕時計。
一見すると、そこまで価値があるようには見えないものでも、家族の気持ちがぶつかることがあります。
なぜなら。
そこにあるのは、物ではなく「思い出」だからです。
「父がいつも着けていた時計」
そのご家族の場合。
お兄さんも、弟さんも、同じことを言っていたそうです。
「この時計だけは、自分が持っていたい。」
お兄さんにとっては、子どもの頃、一緒に釣りへ行った思い出の時計でした。
弟さんにとっては、社会人になった時、
「仕事、頑張れよ。」
そう言って父が見せてくれた時計でした。
どちらも間違っていません。
どちらも、お父様との思い出がありました。
だからこそ、譲れなかったんです。
本当は時計が欲しかったわけじゃない
私は、この話を聞いた時、こう思いました。
お二人とも、本当は時計が欲しかったわけではないんだろうな、と。
父との思い出を手元に残したかった。
父を失った寂しさを、少しでも埋めたかった。
もう会えないからこそ、何か形として残しておきたかった。
きっと、そういう気持ちだったのではないでしょうか。
でも。
人は悲しみの中にいると、自分でも気付かないうちに心が頑なになることがあります。
「どうして分かってくれないんだ。」
「なんで譲ってくれないんだ。」
そうして少しずつ、気持ちがすれ違っていくんです。
形見分けは、悲しみの中で行われる
ここが、とても難しいところです。
もし元気な時なら。
兄弟で話し合いもできるかもしれません。
少し譲ることもできるかもしれません。
でも。
親を亡くした直後は違います。
眠れていない。
頭の整理もついていない。
まだ「亡くなった」という現実さえ受け止めきれていない。
そんな状態で、
「どれを誰がもらう?」
という話をしなければならないんです。
「これ、お父さんなら何て言うかな」
形見分けでもめそうになった時。
私は、ご家族へこんなことをお話しすることがあります。
「もし今、お父様がここにいたら、何て言うでしょうか。」
すると。
皆さん、一度考えるんです。
「そんなことでケンカするな。」
「仲良くしろ。」
「好きな方が持っていけばいい。」
いろいろな答えがあります。
でも、不思議と少しだけ空気が変わります。
親が残したかったものは、物だったのか。
それとも家族の関係だったのか。
その視点に戻ると、冷静になれることがあります。
本当に残るのは「人とのつながり」
以前、ある娘さんがこんなことを話してくださいました。
「母の洋服を一枚だけもらいました。」
高価なものではありません。
少し色あせたカーディガンでした。
でも。
「寒い日に羽織ると、母を思い出すんです。」
そう笑っていました。
形見には、そういう力があります。
人を安心させたり。
懐かしい気持ちにさせたり。
前を向くきっかけになったり。
だからこそ、大切なんです。
でも。
その形見が原因で、大切な家族との縁まで失ってしまったら。
きっと、亡くなった親は悲しむのではないでしょうか。
最後に
形見分けに正解はありません。
時計を持つ人がいてもいい。
写真を一枚だけ残す人がいてもいい。
何も持たないという選択もあります。
ただ、一つだけ。
覚えておいてほしいことがあります。
形見は、故人を思い出すためのものです。
家族を傷付けるためのものではありません。
もし今、ご両親が元気でいてくれるなら。
もし兄弟姉妹が近くにいるなら。
一度だけ、考えてみてください。
親が本当に残したいものは何だろう。
財産でしょうか。
物でしょうか。
それとも、
「自分がいなくなっても、家族が仲良くしていてくれること。」
なのかもしれません。
私は、たくさんのお見送りの中で、そう感じる場面を何度も見てきました。
だからこそ。
形見を受け取る時には、どうか物だけではなく、その人の想いまで受け取ってほしいと思っています。
このブログではこれからも。
葬儀や相続、お墓について、現場で感じたことを、できるだけ飾らない言葉でお伝えしていきます。
知識を増やすためだけではなく。
読んだあとに、大切な人へ少し優しくなれる。
そんな記事を書いていけたら嬉しく思います。
また次の記事でお会いしましょう。
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