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Avenon Super Wide 21mm F2.8 の持つ実に誠実な描写に改めて驚いた。


日本の原風景に馴染む描写がAvenonの素直さです。

以前、ライカ Elmarit 21mm F2.8 について書いたことがありましたが、実はそこに辿り着くまでに、もう一段階別のレンズの存在がありました。
当時、薄給の私にとって Elmarit 21mm F2.8 は高嶺の花で、知人カメラマン K さんが持つそのレンズは、なかなか届かない遠い存在でした。

当時のライカ M マウントや L39 マウントは、ライカ純正を買うか、中古市場を探すしか選択肢がなく、いまでは当たり前となったコシナ製フォクトレンダーもまだ登場していない時代でした。そんな「欲しいけれど買えない」層に向けて作られていたのが、国産ブランド Avenon のレンズ群でした。

その後ようやくボーナスで Elmarit を購入したときの価格は約15万円。 その直前、どうしてもミノルタ CLE に装着する 21mm が欲しくて手に入れたのが、今回紹介する Avenon 21mm F2.8 だったのです。新品は6万円ほどでしたが、私は横浜の大貫カメラで状態の良い中古を3万5千円ほどで購入し、 Elmarit を手にするまでの約1年間、このレンズを使い倒しました。

いまではあまり耳にしなくなった Avenon という名前ですが、 Avenon は1980〜90年代にかけて、三協光機から独立した阿部昇氏が設立したアベノン光機が製造していたライカ互換レンズのブランド名です。 この 21mm f2.8 は、人気の高かった 28mm F3.5 と並ぶ主力モデルで、超広角ながら歪曲収差がよく抑えられ、シャープな描写が得られる印象があります。鏡胴はアルミ削り出しの梨地仕上げで、ピントリングの滑らかな操作感も心地よく、作りの良さは際立っていました。

とはいえ、やはりライカはライカで、名前につられて当時の私は自然とそちらへ気持ちが向かっていきました。 Avenon はどこか
“つなぎとして使っているだけのレンズ” のように見えていたのです。
けれど、こうして改めて向き合ってみると、その完成度の高さに今さらながら驚かされました。
静かで、誠実で、必要なものを全てきちんと備えていた…
名前こそ地味でしたが、Avenon は実にしっかりとした、素晴らしいレンズだったのです。

美しい作りのAvenon 21mm
銅鏡の短さがレンジファインダーにお似合いです。

以下、作例です。

Avenon 21mm F2.8_M Typ240

Avenon 21mm F2.8 は、広角でありながら誇張を感じさせないところが魅力です。 この扇形庫の一枚でも、建物の円弧やレールの放射状の広がりが、必要以上に強調されず、自然なバランスで収まっているように感じます。
蒸気機関車の黒い質感や、並んだ車両の色の違いも、派手に転ばず、落ち着いた調子で描いてくれます。 光の当たり方が複雑な場所ですが、Avenon は階調を丁寧に拾い、陰影の境目を柔らかくつないいます。
広角レンズで鉄道施設を撮ると、どうしても線が暴れたり、遠近が強く出すぎたりしますが、このレンズはそのあたりが控えめで、風景の“実寸”をそのまま写してくれる印象があります。 その素直さが、こうした産業遺産の静かな佇まいとよく馴染んでいます。
改めて見返すと、Avenon は名前以上に誠実な仕事をしてくれる一本だったのだと感じます。 派手さはありませんが、必要なものをきちんと備えた、信頼できるレンズであることを実感します。

Avenon 21mm F2.8_M Typ240

Avenon 21mm F2.8 は、広角でも風景を押し広げすぎず、構内の雑然とした線路や車両の配置を自然なまま写してくれます。 オレンジ色の車両も過度に主張せず、周囲との距離感が穏やかに保たれているのが印象的です。
とにかく広角感が少なく、まるで標準レンズの画像をフォトマージュで繋いだような自然な広さを提供してくれるような好感度です。
働く場所の静けさをそのまま受け止めるような描写で、Avenon の誠実さがよく表れている一枚だと感じます。

Avenon 21mm F2.8_M Typ240

Avenon 21mm が広角でありながらあまりにも端正な作例が続きましたので、あえて下から煽って広角感を出してみました。
低い位置からの視点のため、壁面の縦方向が強調され、文字の形状が過剰に立ち上がって見えます。
Avenon 21mm は奥行きを深く扱わず、距離の伸びを抑えるため、看板と背景の建物が一枚の層として重なり、空間の分離が最小限に留まります。
木材の面は光をほとんど返さず、情報が縦方向に集中するぶん、広角特有の伸びが画面の緊張として働いていました。
背景の空は階調が浅く、余白がそのまま視線の支点になり、上方向への流れが強く残る印象でした。
この作例では強い光線下でしたので、四隅の減光と左右に弱冠のマゼンタ被りの兆候が出ていますが、誤差の範囲でしょうか。

Avenon 21mm F2.8_M11

拝殿前の人の集まりは密度が高く、前後の差が小さく見えていました。Avenon 21mm は距離の階層を強調しないため、装飾と参拝者が近い面に並び、構造と動きが同じ平面上に乗る印象になります。
朱色の面は光を均質に受け、陰影が抑えられることで、細部よりも形の輪郭が先に立ち上がっていました。視線は中央に滞留せず横へ流れ、場の静けさと人の動きが同じ密度で並んでいました。

Avenon 21mm F2.8_M11

水盤まわりの配置が近い面に寄り、視線が横へ滑る構造になっていました。龍の金属は光を抑えたまま沈み、周囲の形状が画の支点として働きます。
背景の建物と人物は段差が小さく見え、場の静度と動きが同じ帯に収まる印象でした。水面の明るさは控えめで、花の色だけがわずかに強度を持ち、画面の緊張を支えていました。

Avenon 21mm F2.8_M11

働く人、オフを楽しむ人、その動きが交差しても画面は落ち着き、要素が一つの流れとして並びました。旗や車列の直線が素直に残り、色再現も過度に転ばず、場の密度が静かに整います。
こうした環境では目測での深度確保が容易で、Avenon 21mm の描写特性がそのまま生かされています。

Avenon 21mm F2.8_M11

非常に広角でありながら、道の曲線と鳥居の直線が破綻せず、画面が一つの面として落ち着いて見えます。
木立の陰影も素直に乗り、色再現が過度に転ばず、場の静度がそのまま保たれます。こうした環境でも、Avenon 21mm の描写特性がそのまま生かされています。

次にモノクロのの表現を見て見ましょう。
鳥取県赤碕にある塩谷定好写真記念館で許可を得て写した写真です。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

展示空間は均質な光に満たされ、壁面の白が作品の階調をそのまま受け止めていました。
Avenon 21mm が持つ平面的な描写傾向と同様に、この空間も奥行きを誇張せず、視線を横方向に流す構造になっています。
プリントの黒は床材にわずかに拾われ、密度の芯は細く、過度に主張しないまま静かに留まっていました。
作品そのものよりも、配置の間隔がリズムを作り、空間全体が一枚の画として成立している印象で、このレンズの広角でありながら均一性を損なわない能力の高さを感じられました。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

縁側の直線が画面の基準になり、外光との境界が明確に切り分けられていました。
Avenon 21mm は奥行きを強調せず、空間の層を薄く扱うため、建物と庭の距離が過度に伸びず、横方向の流れが際立ちます。
木部の反射は抑えられ、質感の変化が小さいぶん、視線が一点に滞留せずに水平へ滑っていく印象でした。
庭の明暗は浅く、雨の日で光の回り込みが弱いため、余白の比率がそのまま画面の緊張として働いていました。

次は年に何回か訪れるWAKU珈琲さん店内での様子です。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

ライカに21mmを付けると、好きなパンフォーカスに趣が向いてしまいます。 店内は静かで、作業台まわりの器具が光をほとんど返さず、面の分離が明確でした。
Avenon 21mm は奥行きを深く扱わないため、人物と器具の距離が圧縮され、空間全体が一枚の層として見えます。 窓からの自然光は均質で、陰影の落差が小さく、素材の質感だけが淡く残っていました。
視線は一点に留まらず、水平に流れ、作業の静かなリズムだけが画面に残る印象でした。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

これぞ下町東京人の英才教育、というような場面でした。神輿の列は動きが大きいにもかかわらず、画面の線が乱れず、帯のように整って見えます。Avenon 21mm は周辺の歪みが控えめで、建物の看板や電柱の直線がそのまま画の骨格として残り、街の密度を整理していました。衣装の布地は光を強く返さず、形の境界だけが静かに浮き、群衆のざわめきと画面の平静が同居する印象でした。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

観光客の動きと看板の光量が交差しても画面は乱れず、一つの帯として収まる構造でした。巨大広告の直線が揺らがず、街の雑多さが静かに整い、人物の密度も方向の揃いによって自然に中央へ視線を導きます。
看板の白は過度に広がらず、光の温度が一定に保たれ、街の熱と観光の軽さが同じ層に落ち着く印象です。Avenon 21mmは、超広角でありながら広く写る標準レンズの感覚で扱えられる、非常に使い勝手の良いレンズです。

Avenon 21mm F2.8_M11monochrome

狭い厨房の動きが重なっても画面は乱れず、作業台から棚まで一つの面として静かにまとまります。金属器具の直線が素直に残り、反射も広がらず、場の密度が過剰に膨らみません。
職人の姿勢は方向が揃い、視線は自然に奥へ流れる構造です。
こうした環境ではピント目測のパンフォーカスの使用にも最適で、Avenon 21mm の素直さがそのまま活きます。

まとめ
Avenon 21mm は、Super Wide の名の通り、広角でありながら広角レンズにありがちな歪みが少なく、直線が破綻せずに画面が一つの面として整うレンズであることがよくわかりました。
色再現は素直で、白の広がりや反射の暴れが抑えられ、場の密度を静かに保ってくれます。
目測での深度確保も容易で、パンフォーカス運用にも向き、動きの多い環境でも描写が崩れません。
広角の誇張を抑えつつ標準レンズの感覚で扱える素直さがあり、
日常から雑踏、静景まで幅広く応える一本でした。
どうも、私としては Leica Elmarit に信奉すぎていた感はお恥ずかしく、
国産のレンズがこんなに優秀だったのだ、ということを痛感した次第です。
まさに「名少実多」、もっと知られて良いレンズであると思いました。

今回もご覧いただき、誠にありがとうございました。

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