忘れてしまった歯磨きと約束できない歯間ブラシ
まな板の上の鯉、身も心も切り刻まれり。
「こちらへどうぞ」と案内されたイスに座ると背もたれを倒され、顔には目のまわりを中心に帯状にたたまれたタオルをかけられる。
「水の出る機械」とやらで掃除されていくわたしの歯。上の前歯のところだけはちょっと痛いけれども、基本的には痛くない。ふだんは。
水の出る機械から吐き出された水が口のなかに溜まっていくほうがつらい。
その日はいつもとは違う人が担当してくれた。
人を見た目で判断してはいけないが、若い方だった。若いからといって知識や技術が乏しいとはいえない。しかし、べらぼうに痛かった。
上の前歯周辺は「ちょっと痛い」ではすまず、掃除ではなくて鋭利な金属で歯ぐきを刺されているのかと思った。タオルの下は涙目だ。
「あー、磨き残しが多いですねー」
「奥歯のところ、歯ぐきが炎症を起こしています」
奥歯よりも前歯のほうがはるかに痛いんですけれど、何かの間違いではないかと思う。ただ施術中に話されても、こちらはうんともすんともお返事できない。炎症しているから痛いのではない、鋭利な金属で歯ぐきを刺激しているから痛いのではないか!と、頭は疑念でいっぱいである。
そして、いつもなら「今日はちょっと炎症してましたねー、また4ヵ月後に来てくださいねー」のひと言で終わるところ、その日はていねいな説明があった。
磨き残しが多いので、歯と歯ぐきのあいだにヘッドをあてるようにしてしっかり磨いてください。
でも、歯ブラシで磨くだけでは、汚れは取りきれません。
歯間ブラシを最低でも1日1回はかけてください。
歯周ポケットが5mmまではギリギリセーフですが、6mmを超えてくるともうもとには戻りませんので。ちなみに今日は奥歯が5mmでしたので、ギリギリです。
お厳しいです。涙目になりながら痛みに耐えたあと、ふだんの歯磨きをダメ出しされたうえに手遅れ1歩寸前と、けっこうグサグサ刺さったよ?
水の出るその機械で、心までグサグサ刺してくるのかい?
でもね、ふだんは「じゃあ次も4ヵ月後で」とサラッと終わっていくところ、あらためて歯の磨き方や歯間ブラシの使い方をレクチャーしてもらって、はっとした。この話はたしかに以前も聞いた。しかし、今や全然実践できていないどころか、すっかり忘れていた。記憶力は本当にあてにならないし、忘れる前提で聞いたほうがよい。
とにかく、毎日の歯間ブラシを強くおすすめされたわけだが、守れない約束はできない。
「週1回ぐらいからはじめてみようと思います」と力なく、そしてぼやかしにぼやかして待合室へと戻った。
ああ、前歯の歯ぐきが痛い。
歯間ブラシは脇に置いても次回ここまで痛い思いをしたくないから歯磨きをがんばろうと思わせてくれたあの担当者さん、かなりやり手なのかもしれない…。
今日も読んでくれてありがとうございます。
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