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春風は、孤独と成長をはこんできた|GLAYを20年ぶりに聴いた春、幼いわたしの“すがた”が見えた

この春、4人組ロックバンド・GLAYに再燃した。

GLAYは昨年、デビュー30周年を迎えた。それをきっかけにメディアへの露出が増えたからか、それともインターネットにわたしの推し遍歴がバレていたのか……。GLAYの話題やコンテンツに触れる機会がめちゃくちゃ増えた(昨年の紅白で懐かしさに浸った方、いませんでしたか。わたしもまさにその1人です)。

こうした接触機会急増に伴い、かつて聴いていたGLAYの曲の、美しさや意味深さを再認識したり、メンバーの人柄のよさや尊い信頼関係、ファンの方々の愛と懐の深さなどに、感銘を受けたりしている。

能動的にGLAYに触れる時間も、日々増え続けている。車内BGMにGLAY。YouTubeでGLAY。Google検索でGLAY。リアルな過去情報を求めて、mixi(2じゃない)のコミュニティページにたどり着くなどする毎日である。

mixiのHISASHIさん応援コミュで、みなさんが何きっかけで惚れたか語っているのをひたすら遡ったりしてます。
HISASHIさんがこんなにお茶目な人だなんて知らなかったよ……


「再燃」というからには以前燃えていたことがあるわけだけど、それは中高生の頃、つまり20年あまり前になる(なんてことだ)

GLAYを聴き始めたのは、姉がベストアルバムDRIVE-GLAY complete BESTを突然買ってきたからだった。わたしはそれをラジカセにセットして、歌詞カード片手に繰り返し聴いた。いつのまにか、クリアレッドのCDケースは接続部が欠け、きちんと蓋が閉まらなくなっていた。

『DRIVE』への没入と並行して、過去作品を遡り、新作を追いかけた。それらはカセットテープ、そしてMDに収められた。高校時代、校則で持ち込み禁止だったMDプレーヤー(たしかKENWOODだった)を学校の指定カバンに忍ばせ、爆音のGLAYを有線イヤホンで聴きながら30分、部活の練習場所である市営弓道場まで、毎日チャリを疾走らせた。GLAYは平成の世を駆け抜ける、青春のBGMだった。

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もっとも思い出深い曲の一つは“ THINK ABOUT MY DAUGHTER ” という曲だ。父親の娘に対する溢れんばかりの愛が描かれたこの曲は、アルバム『ONE LOVE』の7曲目に収録されている。


ロックバンドが奏でているとは思えないようなキラキラしたメロディに、ボーカル・TERUさんの澄んだ高音が軽やかに踊る。歌詞には「天を仰ぎ」「宝物」「勇気の羽はためかせて」「空の青さ」など、光や希望を感じるような言葉が散りばめられている。

そして、サビの冒頭で高らかに響くのは《春風》という言葉。温もりや華やかさ、清らかさのような、やさしくてピュアなものだけを集めてできているような言葉だ。

わたしは高1・15歳のとき、この曲を好きな先輩の着メロにしていた。名をT先輩という。すでに書いたように、この曲は親子愛の歌であって、恋を描いてはいないのだけど、そのあまりの多幸感に魅せられ、迷うことなく好きな人の着メロに抜擢した。

当時使っていたケータイはN504iSフローズンピンク。着信ランプはエメラルドグリーン。チャチな電子音で“ THINK ABOUT MY DAUGHTER ” のサビが奏でられ、桃色のボディの背で“ i ”の文字がクリアな緑に光ると、そこにはいつも春が訪れた。

公式画像が見つからなかったので描きました。
実家にまだある気がする…?


だから春風が吹くと、この曲のことを思い出す。しかしながら、そのとき心によぎるのは、絶え間なく注ぐ甘くやさしい、幸せな気持ちだけじゃない。

T先輩は、春に不意にわたしの心を奪い、梅雨明けに彼氏となり、夏の終わりに元カレとなった。秋の街路樹も、冬の肌を刺す風も待たずにT先輩に振られ、わたしは初めて、失恋の痛みってやつを知った。

たとえば数学の授業中、先生の「じゃあ教科書⚪︎ページの問題、各自解いてみてー」の声を合図に、各々がノートに数式をつづりはじめるとき。あるいは部活が終わって友だちと一緒に帰り、「じゃねー」と言って別れたのち、ひとりみんなと違う路線のプラットフォームに立ったとき。そして、夜中にふと目を覚まし、暗がりで現実の手触りを取り戻していくとき。

そういう瞬間に、「そうだわたし、T先輩に振られたんだった」と気づく。

すると心臓が縮まって鋭く痛み、痛みの真ん中に突然、風穴が空く。そして、その穴に体が吸い込まれてしまうような、真っ暗な異次元空間に連れて行かれるような恐ろしさを覚える。

誰もわたしのかなしみや恐怖を知らない。誰もわたしに関心がない。世界にわたししか存在していない。そんな気持ちになる。この心細さと絶望の正体が「孤独感」だと知ったのは、いつのことだったんだろうか。

それは覚えていないけれど、5歳の春、同じ感覚に見舞われたことは覚えている。たぶんこれが、わたしの孤独の原体験だ。

内向的で仏頂面な幼稚園生だったわたしには、友だちがほとんどいなかった。だから外遊びの時間はたいてい、園庭のすみっこをひとり行ったり来たりしていた。

あのとき、風が右から左に強く吹いていた。暖かく、塵や砂や植物の破片が混じって、埃っぽい。間違いなく春風だ。その風に激しく右頬をうたれたとき、胸にあの“風穴”が空いた。

あの穴は、他人から拒絶され、自分はひとりぼっちだと感じたときに口をひらくのだと思う。「この世界に、わたしを見てくれる人は誰ひとりいない」。15歳のわたしも、5歳のわたしも、孤独の穴のふちに立っていた。

思えば春って、すごく憂鬱な季節じゃないだろうか。芽が吹いて、花が咲いて、鳥が鳴いて。一見キラキラと明るい季節だけど、その実、強烈な寒暖差や容赦のない別れと出会いに心身を振り回される、不安定でストレスフルで、残酷な季節でもある。

春という季節に、「孤独」のイメージを抱いているのは、わたしだけじゃないだろう。そういう人はきっと、春風は必ずしも、やさしくてピュアなものだけをはこんでくるわけじゃないと感じているんじゃないだろうか。

きらいには、なれやしないんだけどね。


T先輩に振られてから、“THINK ABOUT MY DAUGHTER” を健やかに聴くことはできなくなった。失恋のかなしみにあえて浸るために、あるいは、T先輩への恨みつらみを噛み締めるために聴いた。そして高校卒業までのいつかを最後に、この曲を聴くことはなくなった。

ケータイから鳴ればいつでも春を呼んでくれたこの曲は、はじめての失恋体験と、春という季節の憂鬱さをまとい、長らくわたしの孤独の象徴となっていた。

しかしこのたびの再燃である。滾るオタク心に突き動かされ、わたしは先日、約20年ぶりにこの曲を聴いた。

白いiPhoneにダウンロードした『ONE LOVE』を恐るおそる、再生する。擦り切れるまで何度も聴いたアルバムだ。曲順は体が覚えている。7曲目が近づいてくる。

あの頃と変わらない、キラキラした曲だった。春のあたたかさと深い愛情に満ちていた。痛みはさすがにもう感じなかった。けれど、胸を満たす懐かしさの上を、ちょっとだけ苦々しさが掠めた。いまだにそんなものを感じる自分に呆れて、苦笑した。

そしてあのサビが訪れる。サビの歌詞は《春風》で始まり、こう続く。

春風にたたずんだあなたの成長(すがた)が
忘れられない lonely
寂しさを 胸に宿る寂しさを思い出が癒して
I’m still thinking about you

父親は娘を想って“lonely”、つまり孤独を感じ、寂しがっている。寂しさのきっかけになったのは、「春風にたたずんだあなたの成長(すがた)」だ。

成長と書いて“すがた” 。あたたかな春の風の中に、幼い頃から見守ってきた、あらゆる年代の娘の姿が浮かんだのかもしれない。

ひとりでは何もできなかった女の子が、いつのまにか大人の女性となり、自分の道を歩んでいく。寂しさのきっかけとなった彼女の成長(すがた)は、一方で、寂しさを癒す思い出でもある。

聴きながら、わたしはこの女の子に、孤独のふちにたたずむ5歳や15歳のわたしを見た。

胸に孤独の穴が空いた彼女たちは、痛々しい。しかし日常は、彼女たちの寂しさなんておかまいなしに進んでいった。お腹が減って眠くなって、授業を受けて部活に行って、大学に進学して就職した。幾人かを好きになって、振ったり振られたり、想いを胸に秘めたままにしたりした。

そして彼女たちはある人と出会い、結婚した。子どもはできなかったけど、それなりに、ありがたく、幸せな春を迎えている。

これが今のわたしの成長(すがた)だ。

はじめての大失恋から20年あまり。はじめて独りの寂しさを記憶に刻んだ日から30年あまり。孤独に苦しめられても、彼女たちは確かに成長し、わたしをこの春まで連れてきてくれた。

成長しました


今日4/23、GLAYの新しいアルバムが発売された。『DRIVE 1993~2009 -GLAY complete BEST』・『DRIVE 2010~2026 -GLAY complete BEST』の2タイトルだ。

わたしがGLAYと出会ったアルバム『DRIVE -GLAY complete BEST-』の後継作という位置付けで、収録曲はファン投票で選ばれたそうだ。

ただ、“ THINK ABOUT MY DAUGHTER ” は未収録。でもいいのだ。

かつて孤独の象徴となり封印してしまったこの曲を、GLAYと再会した春に、もう一度聴けるようになった。この曲が描く「孤独」と「成長」の意味が、少し分かるようになっていた。

この曲は、最後にこのフレーズを、やさしく繰り返す。

I’m still thinking about you.

いまも、あなたのことを想ってるよ。
あなたはひとりじゃないよ。

“ THINK ABOUT MY DAUGHTER ”は、今のわたしから幼い頃のわたしに贈りたい、特別な春の曲になった。

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