【スタンフォード大学(4)】スタンフォード大学の強さの背景には、複数の専門分野を融合した学際的な知の共同体、大学の起業支援⇒企業の成長⇒大学への寄付金増加の好循環などが挙げられます。

2026年7月30日付ブログ「【スタンフォード大学(3)】1980年代に産学官連携によって生み出された技術は、1990年代の半導体産業における日米再逆転に繋がりました。その背景には、『バイ・ドール法』があります」の続きです。
ここまでスタンフォード大学の発展の歴史をみてきましたが、その強さの背景をいくつか挙げてみましょう。日本の大学を巡る環境と比較してみてください。
①アメリカ西海岸の平等かつ能力主義
アメリカ東海岸とは違いヨーロッパの伝統的な価値観から距離を置き、ワシントンを中心とする「権力」から最も離れていました。アメリカ西海岸のコミュニティ構造が極めてフラットで、人種の坩堝の中で対立を乗り越えたような人種間の感覚的平等性があります。個人むき出しの能力へのプライオリティとそれへの賞賛があり、それがシリコンバレーが誕生した背景の一つです。
②複数の専門分野を融合した学際的な知の共同体
アメリカの知の世界には、あらゆる知識をあの種の道具のように技術化して使いこなすことに、快感を覚えるような欲望があり、それがごく自然に研究の実利性へと繋がっています。
スタンフォード大学は、大学と産業界の垣根を限りなく低くし、潤沢につぎ込まれる巨額の政府資金を元に、新たなテクノロジーとその特許化を通して産業界への技術移転を推進しています。自然科学の分野で次々とノーベル賞を獲得する先端大学ですが、この大学には、人文・社会科学との間にも、両者の垣根を越える共同研究が生まれ、大学のファカルティクラブでは、異なる分野の人々が集まり、情報交換を行っています。そこにはまぎれもなく複数の専門分野を融合した学際的な知の共同体が存在しています。
③教員の研究費獲得のインセンティブ
アメリカの大学の研究費に対する基本的考え方は、教授の人件費の一部は大学の経常経費で賄うものの、助手その他の人件費(教授本人の人件費の一部も含む)、直接費および間接費は通常外部資金で賄うことになっています。アメリカの大学では、教授が外部資金を獲得できないと、事実上研究を遂行できなくなるため、外部の研究費を獲得するために半年間は研究プロポーザルを書いていると言われる程です。こうした外部資金の獲得の義務化が民間資金の導入に繋がり、結果、産学連携を活発化させている側面もあります。
④大学の起業支援⇒企業の成長⇒大学への寄付金増加の好循環
スタンフォード大学の支援により起業した企業が、やがて最大の寄付金を提供するパトロンに成長しています。ヒューレット・パッカードが代表例です。
⑤企業スピンアウトと大学発のスタートアップ企業に対するエンジェル投資家の存在
ショックレー研究所を見限った8人の技術者が設立したフェアチャイルド・セミコンダクターから、インテルに代表される20数社の半導体企業がスピンアウトしました。また、フェアチャイルド社の創業者たちが、ベンチャーキャピタリストになり、スタンフォード大学やカリフォルニア大学の研究者に大学発のスタートアップ企業設立を働きかけるとともに、資金的ネットワークを構築し、エンジェル投資家を生み出していきました。
⑥起業家的大学しての大学基金の積極的な投資
1973年に可決された「公益団体の基本管理に関する統一州法」(UMIFA)により、大学にもリスク性の高い株式市場での運用が認められたことで、1978年、大学内の投資委員会で積極的投資の提案がなされました。
1980年代には、卒業生のMBAたちが、大学基金の運用をベンチャーキャピタルへと積極的に振り向けました。出資者の有限責任を確保した上で、投資専門家集団への資金提供を可能にするリミッテッド・パートナーシップが投資戦略の中心となり、1990年代に加速的に拡大しました。
1990年には、大学の理事会は教育・研究に特化、資金運用は外部組織に委ねることとし、株式組織の資産運用会社「スタンフォード・マネジメント・カンパニー」を設立、当社に全ての大学資産を移管し運用を委託しました。ウォール街から資金運用の専門家が結集して運用を開始しました。この結果、大学基金は20年間で6倍に拡大しました。
⑦技術移転室(OTL)の予想外の貢献
1974年、DNA遺伝子組み換えの技術への特許が正式に認可されました。これが遺伝子構造の発見以来のブレイススルーとなり、バイオテクノロジーの基盤技術になっています。このロイヤリティで設立された大学発のスタートアップ企業が現在では大手製薬企業となっています。このほか、ヒトホルモンの特許、シンセサイザーのサウンド技術のヤマハとの共同特許が、3大特許となり、多額のライセンス収入を獲得しました。ロイヤリティ収入は着実に増加しています。
⑧利益相反に関するガイドラインの緩さ
アメリカの各大学では利益相反に関するガイドラインを定めています。スタンフォード大学のガイドラインは、「大学のリソースを使った研究から生まれた特許性のある成果は全て大学に開示しなければならない。発明の所有権は利用した研究資金の如何によらず全て大学に帰属する」となっています。さらに追加的条項があります。研究者が学外の活動としてコンサルティングを行い、それが仮に大学の資産となり得る場合において、大学から民間への技術移転として望ましいと判断できる場合には、大学が特許権を所有するのではなく、公的領域へ委ねることができるとしています。すなわち、自由に誰でも使うことができるような知識として外部に提供することができ、その権限を発明者個人が持つことができます。
【参考文献】上山隆大著『アカデミック・キャピタリズムを超えて アメリカの大学と科学研究の現在』NTT出版、2011年
塚本芳昭著『研究大学における産学連携システムに関する研究-日米比較による考察-』研究・イノベーション学会、1999年
山本貴史講演「産学連携によるイノベーションの創出~人間性あふれる文明の創造へ~」2016年9月23日、科学技術振興機構
佐々木紀彦著『米国製エリートは本当にすごいのか?』東洋経済新報社、2011年7月
